6>>旅立ちの朝
前回までのあらすじ
ゲームの世界に飛ばされた瀬戸田シノだが、その世界には『崩落』という恐ろしいことが起きていた。
これを止めるにはこの世界の創造者である『マリコ』を探すことが必要らしい。
シノは、人造ロボット009ことキュウと、父であるサンと共に『マリコ』を探すことを決意した。
「シノちゃん、キュウちゃん忘れ物はない?」
「ないでーす」
「……」
次の日。
朝からハイテンションな父とキュウに、俺は冷たい視線を送る。
この世界に来てからというもの、日が登って間もない時間に起きてばかりだ。
前なら、10時までは確実に寝ていたというのに……。
俺はそんなわけで、猛烈に眠い。
二人のようにテンションが上がるはずもなかった。
そんな時に、すっとんきょうな質問を父がしてくる。
「シノちゃん、なんで何も持ってないの?」
・・・
「いや、何も持つものがないんだよ!?ていうか、荷物持ってるの父さんだけじゃん!!冒険するのに装備とか何も無いわけ?お…僕ずっとワンピースなわけ…!?」
一気にまくしたてすぎて、息が切れた。
俺はぜーハーと深呼吸する。
もうやだ……初日から言うのもあれだけど、帰りたい。
ネットにうもれて、ずっと引きこもって生きていたい…。
そんなことを考えてナヨナヨする俺に、父がとどめをさす。
「……シノちゃん、忘れてるかもしれないけどこれエロゲーなんだよ?冒険もののRPGの世界に言ったとか…そーゆー王道物のアニメとは違うから……。」
「……!」
忘れてた……そういえばそうであった。
俺のいるこの世界は、女性が男性を攻略して、大人ないちゃこら展開にもっていくゲームの舞台だった。
剣と魔法の世界ではないのであった……。
そんなこんなで諦めかけた俺に、天使が囁いた。
「安心して、シノちゃん。装備屋さんならあるよ!どっちみちそのペラペラなワンピースじゃ探索もしずらいでしょ?シノちゃんが着たいなら着ようよ!装備」
「キュウ…!うん……雰囲気作りのためにも…着たい。ていうか絶ッ対着るべきだ…!」
俺は一気にテンションが上がる。
かっこいい装備が着れちゃうなんて、最高じゃないか?
ゲームの醍醐味だ。
「まあ、どっちみち町には寄りたいし…シノちゃんが着たいなら寄ろっか!ということで、まずは森を抜けて町へ…だね!」
「「おー!!」」
父も納得したところで、今度は俺も大きな声で返事をした。
いざ町へ…!俺のために、かっこいい装備が待っているに違いない…!
*****
歩き始めてすぐ、キュウが俺の隣にやってきた。
「シノちゃんシノちゃん!」
「どうした…?」
「ジャーン、気づいてた?今日は私もシノちゃんと同じツインテールにしてみました!」
嬉しそうにツインテールをブンブンと振り回すキュウ。
本当だ。
さっき家の中で見た時には気づかなかったが、昨日は1つに結いていた髪が、今日はツインテールになっていた。
「…似合う。」
心の中で呟いたつもりが、口に出てしまった。
「ほ、本当!?よかったー」
まあ、キュウがとても嬉しそうだから、結果オーライだ。
ツインテールをすると、人形さんのような感じが増す気もするが可愛い事には違いない…!
もし仮に彼女が学生だったら…学校中のアイドルだろう。
そこまで考えて、俺は思考を中断させる。
学校のことを思い出すとろくなことがない…やめよう…。
そうは思ったものの、途中まで考えてしまうと人間の思考というものはなかなか止まらない。
毎朝下駄箱に入っていた大量のラブレター(男子から)を思い出してしまった。
……辛い。もっと男らしく生まれてみたかった。
「元気ないの?」
俺がため息をつくと、キュウは心配そうに俺を見つめる。
女の子に心配かけるなんて、やっぱ俺は情けない。
「ううん、大丈夫。なんでもないよ!町までしりとりしながら歩こうか?」
俺は、キュウの頭を撫でながら笑顔を向ける。
キュウに協力するって決めたのは俺なのに、心配かけてばっかだ。
「過去ノ記録データニシリトリヲ発見。ルールヲ確認。完了。よし!負けないよ!勝負だシノちゃん!!」
ロボットみたいなキュウを初めて見たことに驚きつつ、俺は笑って「おう」と言う。
俺達の冒険は始まった。