3>>記憶とゲーム世界は交差する
ぼちぼち書いていきます
耳をつんざくような悲鳴。
鼻にツンと血の生臭いにおいがくる。
『誰がこんな…』
俺は血の海と化した辺りを見回して呟く。
大量殺人。
そんな言葉が脳裏をよぎる。
それに、なんで俺はここにいるんだ…?
なんで、俺は生きているんだ…?
みんなはどこへ行ってしまったんだ?
次々と疑問が浮かんでは消えていく。
『*****』
ただぼうっと立っている俺に、何か近づく者がいる。
『………しの』
なんだか懐かしい声で呼ばれた気がして、俺は振り返る。
『………誰?』
ピチャン…血だまりを気にせずにこちらに歩いてくる少年。
赤く染まったワイシャツ、手や髪からしたたり落ちる血。
普通じゃない。
すっかり足がすくんで動けなくなった俺は、恐怖で目を見開く。
『シノ……なんで俺を拒否するんだ』
もうすぐそこまで来ている少年が顔をあげる。
『……!?』
俺は今度こそ本当に動けなくなってしまった。
本能がこれ以上は危険だと告げている。
自分と瓜二つ…正確には瞳の色だけ違う少年が俺に微笑む。
ぞくっとするようなその微笑み。
背筋に悪寒が走った。
『シノ…俺に身を任せてくれればいいんだよ』
少年が手を差し延べてくる。
『君は誰…?』
俺は少年の黄色い猫のような瞳を負けじと睨む。
多分、そうでもしないと俺はどうにかなってしまいそうだ。
『シノア…みんなはそう呼ぶね』
シノアと名乗る少年は予想外にすんなり、そう答えた。
俺が戸惑っていると、シノアはクスッと笑う。
『………邪魔が入るみたいだ。また今度』
すっと…本当に霧のようにシノアが散った。
光の粒子が散るように、本当に一瞬だった。
『ぐっ…』
驚く俺に、吐き気と頭痛が急激に押し寄せる。
そしてそのまま、俺は気を失った。
「シノちゃん!?平気!?」
目を開くと、そこには見慣れた父親の顔があった。
なにかとても気の遠くなるような夢を見ていた気がして、俺はその顔に安堵する。
「父さん…」
「シノちゃん……どこか痛くはない?」
やけに必死な目で俺を見る父親。
そんなに俺はうなされていたのだろうか?
「うん…特に。でもさ…シノアって誰?」
なんとなく、本当になんとなく口にしてしまった。
だが、その言葉を聞いた父親の顔が青ざめる。
「どこで聞いたのっ!?」
「え…いや……どこだっけ?」
さっきまで覚えていたはずの何かが消えている。
だが、確かにシノアという名前が脳裏に焼き付いている。
「…そっか…取り乱してごめんね。セツナが夕飯もうすぐできるって言ってたから…先行ってるね」
どこか焦燥の色を隠せていない父親は、そう言ってそそくさと部屋を出ていった。
俺はベッドから降りて鏡に映った自分を見る。
いつも通りの緑色の瞳。
なんの変哲もない。
「…やっぱ気のせいだった…のかな」
俺は不思議に思いつつも部屋を後にした。
*****
「どういうことだ?分離していた意志が戻ってきている」
深夜0時をまわったころ、家の外でシノの父親であるサンは暗闇を睨む。
そこには、姿こそ見せないが誰かがいる。
「……私に聞かれても困ります」
美しい透き通るような感情のない声が響く。
「この世界を救えば、俺の息子を助けてくれるんじゃなかったのか?」
「…世界は救われていない。悪化しています。」
「…まだ行動していないだけだ。本当に息子を治せるんだろうな」
「ええ、もちろん。」
「そうか、ならいい。また会おう」
サンが身をひるがえして家の中に入った後、暗闇から姿を表した少女はクスッと笑う。
「治すことが本当の解決策とは限らない…そのことに気づいていないのでしょうか」
森を背に、月を見上げた少女の白い髪がふわっと風になびく。
まるでお伽噺のような薄い桃色のドレスに身を包み月を見上げた少女は、青い瞳を静かに閉じ…ふっと風のごとく姿を消した。