1>>優男とチャラ男と厨二病
ぼちぼち書いていきます
俺は混乱したまま、セツナにお姫様だっこされて家に入る。
少し小さめだが、可愛らしい家だ。
「狭くてごめんね。同居している男が二人いるんだけど…まだ寝てるっぽいし後で紹介するよ」
「あ、ありがとう……?」
どうもこうも…なんだこの状況は。
もしかすると、やっぱり夢なのではないだろうか?
このリアルすぎる感覚…を取り入れた夢的な……何かなのでは?
「でもさぁ、なんでこんなところに倒れてたわけ?」
おっとりした顔だが、ちょっと真剣に言うセツナ。
どう言おうか?
多分だが、嘘をついてもそのうちボロが出るだろうし、セツナに嘘は通用しないような…そんな気がする。
「あ…俺…ほんとなんにも覚えてなくて。でも俺…男なんですよね」
とりあえず全てを正直に言ってみる。
「…え、男?」
苦笑いを浮かべる俺に対して、セツナは何故かうつむいた。
こんな見た目で言ったところで説得力なしってやつかもしれない。
なんだか小刻みに震えてるし…。
よっぽどおかしかったのだろうか?
「…………しよ」
「え?」
「嬉しいよ俺!!」
セツナは急にガタンっと立ち上がって俺の手を握る。
その顔は、赤面していて目には涙を浮かべている。
何だこの顔。ものすごく反応に困るってやつだ。
「俺っ…男が好きなんだ…。世の中にはシノのような天使がいたんだねっ…!」
困ります〜(汗)とは言えない。
というより、衝撃の告白を俺がしていたはずなのだが…いつの間にか立場が逆転していないか?
とりあえず、俺はフリーズしてしまった。
握られている手が熱い。
目の前で歓喜しているセツナが怖い。
そんなこんなで俺が混濁していると、後ろでギシッと音がする。
なんとなく反射的に振り向くと、ジャージ姿のイケメソが階段を降りてきていた。
木の階段だからなのか、一歩ごとにギシッギシッと音がする。
「ねみぃ…セツナ、飯」
金髪は寝癖なのか、ぴょーんと跳ね上がっている。
「おい、セツナ…ん?」
やっと俺の存在に気づいたのか、じっとこちらを見てくる。
「誰、そいつ」
静かなドスの聞いた声。
警戒心丸出しだ。
なんていうか…犬?
「あー、リュウちゃん、この子男の子!」
セツナが慌てた様子で言うと、途端に金髪くんの顔が明るくなる。
「なーんだ、ならそう言えよな!」
「はぁ…すいません」
「まっ、よくわかんねーけどよろしくっ」
バンバンっと背中を叩かれる。
ちょっと痛い。
それに一瞬にしてこの変わりよう…セツナもそうだったが、なにか女に嫌な思い出でもあるのだろうか?
だが、それ以上の詮索はしないでおく。
まだ出会って間もないので、失礼だろう。
「そういえば、レンは?」
「んー、まだ上」
「シノをレンにも紹介しないとな」
わしゃわしゃとセツナに頭をなでられる。
嫌な気はしない。
「レン…って誰ですか?」
「簡単に言うと俺らのリーダーかな。俺たち、バンド的なものやってるんだ」
「…おお、すごい」
純粋にすごいと思う。
確かに、セツナもリュウもイケメソだとは思ったが。
そうこうしていると、またギシッと音がする。
今度は俺を含めて三人で振り返る。
「おはよう美しい世界…」
うっとりとした顔で、そんなことを言いながら降りてくる赤髪茶目のイケメソ。
つまり…これがレンさん……?
「おはようレンちゃん」
「今日は早いな」
「ああ、今朝は何だか寝起きがいいんだ。きっと世界が僕を呼んでいたんだよ」
また、うっとりとした顔を浮かべる美男子レン。
さっきから薄々勘づいてはいたが…つまりのところ、レンさんは…残念系イケメソだ。
「朝ご飯はもうちょっと待ってね。あ、リュウちゃん、シノちゃんの紹介をよろしくね」
「うす」
エプロン姿になったセツナが、テキパキと何かを作り始める。
俺はといえば、リュウに連れられてレンさんの目の前に押し出されていた。
キョトンとした顔のレンさんに、リュウは俺を紹介する。
「こいつは、シノ。超可愛いけど男だぞ。これから一緒に住むらしい」
「シノ…?」
「よ、よろしくお願いします。レンさん?」
まだ微妙に理解が追いつかないのか、ぽかんとした表情のレンさん。
口も少しぽかんと開かれているのだが、八重歯がやたらと尖っていた。
「あ、ああ!僕たちの世界にようこそ…!」
やっと理解したのだろうか?急にやけに納得した顔でそう叫んだ。
ちょっと大げさな気もするけれど、いい人みたいだ。
「ちなみに、シノくんは信号機って英語で何ていうか知ってる?」
急な質問に疑問を感じながらも、俺は答える。
「シグナル…とかですか?」
「正解!ちなみにそれが僕たちのバンド名だよ」
「カッコイイですね」
なぜそんな遠回りな紹介の仕方を?とも思ったが黙っておく。
それに、実にストレートな名前だ。
きっと、三人の髪色からきているのだろう。
そんな調子で、たわいもない会話をしていると、奥からセツナの声がする。
「そろそろ朝ご飯できるよー!!」
ナイスタイミングだ。
俺は二人の後ろに続いてキッチンへ向かった。
*****
朝食を終えて、俺はホッと一息ついていた。
色々あったが、少し落ち着いてきて頭も冷静だ。
「にしても…どーするかな」
この世界にずっといる…というわけにはいかないだろうし。
早いところ帰る方法を見つけたいところだ。
「ひゃああっ」
急に聞こえた悲鳴。
俺の集中が、一瞬にしてそちらに向く。
庭の方からだ。多分…悲鳴をあげたのはセツナだろう。
「どうした…!?」
「セツナ平気…?」
バタバタと庭に出ていくリュウとレンさんの姿を確認したので、俺も急いで後に続く。
ここで行かなかったら、冷たい人間だと思われるだろうし…純粋に心配でもあった。
「どうしました…?」
そんなことを言いながら庭に出た俺が目にしたのは、腰を抜かしたセツナと、白いワンピースに身を包んだ父親だった。
「え、父さん…?」
「ねえシノちゃん!?これどうなってるの!?」
パニックでこちらに駆け寄ってくる父親。
俺はといえば、ただただ唖然とするしかなく、そこに立っていた。
うん、よく考えればこういう可能性がないわけじゃなかった。
でも…、と俺は吐き気をこらえる。
三十近い父親にワンピースはやめてくれ…と。