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Superior type X  作者: 永原啓斗
第二章
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第二章 魔術師組合の目論み

――午前5時35分 魔術師組合敷地

 少女が会議所に向かう途中、組合の敷地内には黒いローブを纏っている者がちらほらと見えた。

「おはようございます。クリスティ様」

「ハワード第一席幹部、ご機嫌うるわしゅうございます」

 父親よりも遥かに年上の人達が、少女――クリスティ・ハワードに向かって敬服の挨拶をする。

「おはよう」

 クリスが纏っている白いローブは、幹部だけに纏うことを許されている代物であった。

 魔術師組合には五人の幹部がいて、魔力の強い者から順に第一席から第五席の椅子が与えられる。ちなみにクリスは第一席幹部。一番強大な魔力を有し、更には魔王の称号を継承する。当然、普通の学校への通学は不可能であり、同年代の友人もいない。

 組合所から少し離れた位置にある会議所へ辿り着くと、クリスは勢い良くドアを開けて入室する。部屋の中央には幹部が会議をする為の円卓があり、最奥の席から五芒星を描くようにして第一から第五の席が設置されていた。

「おはようございます、クリス」

 奥から向かいに数えて、二つ左隣の席にセミショートヘアーの女性が腰掛けていた。

「驚いたわ。今日も早いのね、リサ」

「いえいえ。我等が将より早く辿りつくのは当然のことです」

 彼女は律儀にも母親に似た言葉を述べるが、クリスはその殊勝な態度に目を見張る。

「それに比べて他の三人は……全く」

「ふふっ。でも、こればかりは仕方ありません。幹部の権限に優劣はありませんから」

「うん、まあ……しかもその内の一人は重体だし」

「え?」

「ううん、何でもない。どうせすぐに分かるわよ……」

 クリスは深く息を吐くと、首を長くして他の幹部を待つのであった。


――一時間後

 今回の集会はクリスにとって納得し難いものであった。

「なんで、わたしが妖の諜報活動をしなくちゃいけないのよー!」

「まあまあ、きっとクリスしか適任者がいなかったんですよ。力量的にも年齢的にも。それに霊との関係が緊迫している今の情況ですから、魔と妖の関係を今一度、見直す案には賛成ですね」

「なら、リサも一緒に来なさいよ。正体不明の妖王と側近。更には命を狙う上級STも潜んでいるかもしれないのよ。わたしに何かあったらどうするのよ!」

 要するに誰かが危険な存在が蔓延(はびこ)る虎穴に飛び込むものであり、不運にもクリスがその役を担う事が自分と父親(欠席)以外の満場一致で可決してしまったのである。

「でも、わたしが妖王御膝元の学園に潜入するのは年不相応ですし、同時期に転入すれば、却って疑われる可能性が高くなると思います」

「だからって……」

 渋るクリスに、リサは微かに困惑した表情を浮かべる。

「それと、日本の今の時期は雨量が多いそうです。私の制限が掛かった魔力では、足手まといにしかなりません。妖王はそれを見逃してくれる程甘くはありませんし、その他の幹部では、そもそも遭遇した場合の対処が不可能です」

 冷静に状況分析をするリサの言い分は理に適っていた。

(けど、十三歳のわたしがハイスクールに通っていいのかなあ……)

「大丈夫ですよ。日本人は私達に比べて、発育が遅いと謂われていますし」

(それでも、わたしの身長は150センチに達していないんだけど……)

「大丈夫ですよ。サムライは160センチにも満ちてなかったと謂われますし」

(それに二週間後は、わたしの誕生日なのに……)

「大丈夫ですよ。それまでに任務を遂行して帰国すれば良いだけの事ですし」

「……頼むから、『魔眼(まがん)』で心を読まないでくれる?」

「ごめんなさい。つい……」

 結局、クリスが言い訳を繕っても、リサの読心術によって論破されるのであった。


6月10日 午後9時48分 紫苑ロイヤルホテル

 イギリスから空港まで十三時間。更にそこから車で三時間弱。クリスはついに目的のホテルへと辿り着いた。

 チェックインを済まし、部屋に入室すると即座にベットに向かってダイブをする。

「きゃあ、気持ちいいー! フカフカするー!」

 水を掻き分けるかの如くして、ベットシーツの上をばさばさと遊泳する。単純な行為だけで、長旅で張っていた精神の筋が弛緩していく。

「いよいよ、明日から妖王の鳳凰学園に登校……じゃなくて潜入開始、か」

 クリスは急激な不安に襲われ、枕をぎゅっと抱き締めた。三大勢力と謂われてはいるが、魔は他に比べると遥かに劣勢なのである。それには主な理由が二つあった。

『非統一勢力』の問題――。

 魔の定義は非常に曖昧で、概括的に話すと、『一般人でありながら、摂理に反する術が使用可能な者』である。つまり魔力源、媒体、発術方法は問わない。

 自然魔力マナを魔力源にする精魔術師『ウィザード』。

 契約により悪魔の力を借りる黒魔術師『ソーサリー』。

 自身の生命を魔力源とする白魔術師『ホワイトメイジ』。

 主として有名なのはこの三つ。他にも挙げれば数百種はゆうに超える。

 魔王と呼ばれる者は、ウィザードのみによって構成されたイギリス魔術師組合によって内部から適当に選出されている。けれども妖の如く力で他種をねじ伏せたり、霊の様に共通の目標がある訳ではないので、傘下以外の魔術組織がクリスに従う義務は無い。ましてや、魔の定義に基づけば現代科学も魔術の一種として見なされるからと言って、世界中の人類を従わせるなんて実際には不可能である。

 それに科学者はSTとしてはあまり重宝されていない。何故なら、兵器を実際のST戦争に使用するのには、制御に関して二つの欠点があるからだ。

 一つは範囲。敵味方区別せずに巻き込むので、自軍(民間)が甚大な損害を被る事。

 二つは媒介。必ずしも道具を介して発術する為、簡単に封殺、無力にされ易い事。

 以上の問題がある故、魔における科学(同様で錬金術)の地位は遥かに下位であった。

『能力制限』の問題――。

 STには『能力の制限(能限)』が存在する。動物に昼行性、夜行性が存在するように、各STにも活動に適合する時間帯や環境がある。

 妖は午前零時から妖力が大きく上昇し、二時間前後で絶頂に達するが、それを過ぎてしまうと徐々に能力と行動に一定の制限が介入してしまう。その為、妖は夕方から深夜に掛けて行動を開始するのが得策であり、神の代行者である霊の能限はその真逆である。

 けれども魔の能源は一定ではなく、性質や環境によって人其々(それぞれ)異なる為、集団戦闘には向いていない。膨大な魔力量を常に維持する器を持たないクリスは、今夜を最低として三日周期で高低を繰り返す。変化幅度が他者より緩やかで、昼夜であろうと制限を受ける事はまず無いのだが、魔力低迷日の時はほぼ一日中制限を受けてしまう。

 そしてリサに関しては、魔力は太陽の光量によって極端に左右され、夏期の晴天が最高、逆に雨天なら年中構わず最低となる。今回、彼女が同行しなかった理由の一つに、日本特有の『梅雨』があった。

 その他にも、自然破壊が進行している土地ではマナを搾取しづらい等の共通制限があり、協力者のいないクリスがタイミング悪く妖王に発見されてしまえば、あの世行きは確定事項となる。

「相手は不死帝を倒す男だもんね……。あの霊王、御影蒼史でも勝てなかった相手に」

 クリスは霊王とは幾度か対峙した経験があるので、その強さは嫌と言う程、骨身に染みていた。そして彼ですら敵わなかった怪物を消滅させた男が現妖王の鳳雅俊なのである。

「あーあ。日本人てこんなのしかいないのかな……」

 考えるだけで憂鬱になっていく。結局、クリスにとって、日本人と謂う存在は母親を含めて凶々しい怪物でしかないのだった。


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