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昼休みの教室は人が散散としている。
天気は良好。校庭で思いっきり遊べる暴れ日和だ。こんなひにじっとしていられるはずもなくヤロウ共は給食のおかわり戦争が終わるなり、一目散に室外へと駆け出していった。
結果、向野芹を除き、室内に残ったのは女子の皆さんである。
そんな室内に響く声高い女子のおしゃべりは黄色や桃色を帯びている。周囲にまる聞こえなのを知ってか、知らずか、好きな芸能人、テレビ、雑誌、身近な好きな人などの話で盛り上がっては騒ぎ立てている。自分達の世界に入り込んだら、彼女等を取り巻く外の世界など全く関係ないのだろう。だから、その周囲の女子の皆さんも自分達のお喋りに夢中で。つまり、周囲の音を聞いてはいないのだ。
こうして何気無く聞いているのは芹ひとりぐらいなもの。
「は〜ん、なるほど」
勝手に聞こえてきた話に得たり顔を浮かべる。
どこぞのヤロウと違って、これまたメルヘンなお考えであそばすこと。
どこかの女子がどこかのヤロウに恋の告白をしたようで、聴衆がどうなったかとことの展開を話し手にせかしている。が、ことはまだ進展中らしく、私はこう思うなどと、いつのまにか予想大会と化している。
ちなみに人気枠は恋に恋する女子の皆さんらしくハッピーな両想いだ。
どうせヒトゴトだから、イイように描いてられるんだろ。ジブンがノゾムお話に。
「ついていけないな」
なかなか女子の意見など聞く機会がないヤロウ共には盗み聞きはおすすめかもしれない。女子の皆さんに想いを寄せるならば、何かと参考になるだろう。考え方の差異、求めるモノの違い、個人という枠を越えてきづかされているモノにぶち当たり、それをどう受け止めていくべきか。
「外いくんだった」
「芹君…ゴメンね」
ヒマをもてあましたシコウのザレゴトと居ずまいのわるさについもらした独り言に、わけもなく友人が詫びる。
「もう少しで終わるから」
「悪いのは俺」
と、九割方女子のおしゃべり。
女子の皆さんにシコウを影響されたのは芹で彼女ではないし、輪をつくっておしゃべりしてる女子の皆さんに彼女は含まれていない。
遅筆だとイヤミにとられたなら、軽いお口の芹が悪い。利き手を突き指なんぞして、字が書けないと甘えたことをぬかして、代筆してもらっている身なのだから。
だらりと椅子によりかかったまま、隣で丁寧にノートを書き写している園崎優へフォローがわりの礼を言う。
「サンキュー」
「いいの…」
うつむきぎみに小さく首をふると優はシャーペンを色ペンに取り替えた。重要事項を色分けして書くのだろうか。他人のノートなのだから、適当にしとけばいいものをこまかなところまでまめだ。
ナメクジとミミズの這ったあとのような前ページと比べれば、書き手の違いなど一目瞭然。月とスッポン、幼稚園児と書道有段者なみの違い。隣に並べられようものなら、真剣に字の練習にとりくもうかと思うほどのひどさ。