御貴族様
「君が私の宝物を取り戻してくれたのか!」
「……? ああ、持って帰ったモノの中にあった訳ですか。別についででしたのでわざわざお礼に来て頂く必要などありませんよ」
どうやら盗品の中にコイツのモノがあったらしい。全く面倒な。お礼なんていらないからさっさと帰ればいいのに。
「いやいやご謙遜を。私も配下を使って方々に手を回したのですが、発見した所で返り討ちにあうか逃げ切られるかで全く隠れ家を掴めず半ば諦めていたところでしたので」
「それは良かったですね。要件がそれだけなら、私も生活があるのでこれで失礼致しますね」
面倒になったので、俺はそう相手に言うと立ち上がろうとする。
「ちょっと待ちたまえ」
すると慌てて責任者が立ち上がって俺を呼び止めた。いや、お前の立場的にその行動はしちゃだめだろ。
「いやいや、あんたもここの責任者ならちゃんと規則読め。依頼以外で冒険者に拘束される義務はねーよ。それは相手の立場が何であろうと変らない。むしろ貴族だからこそ俺たちはある程度の馴れ合い以上はしない様にするべきなんじゃないでしょうかね?」
……お前が貴族に媚売ってるって風評をもみ消せないレベルで流してやろうか? などと心の中で毒づく。
「貴様!!」
一冒険者に自尊心を傷つけられて激昂したのか椅子から勢い良く立ち上がった。
……うわぁ、腐りきってるなぁ。
「まあまあ、オレイアンさん」
そこをすかさず貴族さんが嗜める。いやはや、高感度を上げるタイミングを逃さないのは流石ですね。気付かれてる場合はそんなあからさまだと逆効果なんですがね。
「うむぅ」
責任者はしぶしぶ引き下がった様な動きで椅子に座りなおす。……何この茶番?
「君も、そんな急いで帰ろうとかせず、もう少し落ち着いて話を聞いてはくれないだろうか?」
貴族がにこやかに笑みを浮かべてこちらを見てくる。
「ごめん被る」
「「……は?」」
いや、何その「この流れでそういうこと言うか?」みたいな態度は?
「そもそも、お前らの発言は前提からして間違ってるんだよ」
もうお前で良いよね。あとコレは会話とか対話にはなってない。自分が勝手に決めた流れに持って行こうとしているだけの状況に付き合ってるのが馬鹿馬鹿しい。
「まず、お前らにへりくだる理由が無い。庇護下に居ない俺は貴族に対して最低限の礼儀以上は必要ない。責任者にしてもだ。ここを使えなくするとか越権行為してきたら他の所に行けば良いだけだし。思い上がって調子に乗るなよ汚職野郎」
「……」
「貴様!!」
「大体な、回りくどい言い方しやがって、手前らが俺みたいなのを呼ぶ時は自分の利益無しでは無いだろうが。どうせ、君がどうやってあの男を見つけたのか教えて欲しいとか、どうやって倒せたのかとか聞き出そうとしたんだろ?」
「ならば話は早い」
「教えるわけねーだろ」
「っ?!」
「たまたま見つけただけだっての。なまじそんな方法があったとしても生活のためにも秘匿するに決まってんだろ」
「横暴な! そんなでは民の安寧が」
「本当にバカだな。だからこそだろ。お前に教えたら部下からそいつらに流れてその方法が使えなくなるのが関の山だ。それこそ対処不能で民が不憫だろうさ」
「しかし」
「しかしじゃねーよ、もとより俺らとお前らじゃやり方が違うんだよ。そこを理解して納得しろよ。それでは、見つけた分の報酬を頂いたら出て行きますので宜しく。用意していないって事はありませんよね?」
こんなクソが居る所になんぞ居座る気は無い。報酬貰ったら今日中に町を出よう。