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Episode2-(2)

こんばんは藁氏です。

「リーダー! 《クーシー》が戦争をしかけて来ました!」


 金髪碧眼のまるで、絵に描いたような美少年が必死の形相で走ってきた。そして、その少年の言葉に辺りのプレイヤー達の間には、緊張が走る。

 始まる。戦争だ。この頃は少し落ち着いていたのだが、やはり動き出してきた。嵐の前の静けさとでも言おうか。恐らくは、戦力を蓄えていたのだろう。《クーシー》は好戦的な種族だから、他の種族よりも比較的高レベルのプレイヤー達が揃っている。そのままでも十分に強いはずないのだ。ましてや、弱小種族である俺達に戦争をしかけるだけならば、それこそ軽い準備運動のようなもののはずだ。

 しかし、それが今回はわざわざ間を空けて戦争をしかけて来た。という事は、相手の目的は一つだ。

 いよいよ、動き出してきた。

 俺達が出られる方法の一つである、俺達を閉じ込めた犯人を見付けるというのを放棄して、もう一つの方法である、最後の一つの種族になるまで戦うを選択したのだ。一番手っ取り早いが、一番危険を伴う方法であるが故に、これは最後の切り札のようにギリギリまで取ってこないとは思っていたのだが、案外早かった。それほど、切羽詰っているのだろう。

 そして、そんな危険な方法を使ってくるという事は、それなりの自信があるのだろう。

 まぁ、向こうの考える事を予想すると、まずは一番戦力が低い俺達を全員殺してから、それで得た経験地を利用して更にレベルアップ。そうやってループするんだろう。

「落ち着きなさい!」

 混乱が広がるプレイヤー達を、一人の女性プレイヤーが一喝した。そのプレイヤーの方に注目が移る。碧眼に黒いショートの髪。少し吊りあがりの眼は、冷静な感じを思わせる。いや、実際冷静なのだ。彼女の名前は、《ユラン》。俺達レーシーのリーダーにして、恐らくは数少ないアタッカーの中で最もレベルの高いプレイヤーだ。

 ユランは主に、近接武器を用いた戦いを好む。高レベルなだけあって、彼女が戦場で負けそうになる場面はほとんど無いそうだ。ただ、やはり近接武器だと、敵と接近しなければ仕方が無いのでその辺りが難点とも言えるだろう。

 一度に複数の人数を相手にすることも難しい。だから、基本的には一人で五人ほどを相手にする。一人というのは戦うのが一人ということで、ペアで誰かサポート役と組む事が必須だ。

 といっても、サポート役は腐る程いるのだが。

「今から、この戦争に主人するためのメンバーを招集します。呼ばれたものはすぐに、私の下へ!」

 そういうと、ユランは一人づつ順番に名前を呼んでいく。呼ばれたプレイヤー達は、まるで死地に向かう兵士のように、深い絶望を露にする。まぁ、気持ちも分からなくは無い。俺だって、人間であるからには生きていたいという欲望はある。

 だが、だからといってこのプレイヤー達に同情することは無かった。寧ろ、何故嫌がるのか疑問に思う。俺は、この半年で様々な事を学んだが一番大事なのは、力が全てという事。自分の身を守るには自分が強くなるしかない。

 それを強いられるこの世界で、逃げるなんてありえない。

 どっちにしろ、《クーシー》の最終的な目的は他の種族の殲滅である。という事は、ひたすらに戦争を挑み続けるという事だ。そうなれば、当然全員戦う事になるのである。やらなければ、やられる。生き残るためには、常にやりつづけるしかない。

「……以上、百名を今回の戦争のメンバーとする」

 ユランが百名のプレイヤーの名前を呼び終わると、戦争の準備に取り掛かろうとする。俺は、それに後ろから声をかける。

「待ってください」

 すると、ユランは一度立ち止まって振り返る。その顔には、長い間リーダーとして恐らくは多くのプレイヤー達の《死》を見てきたのであろう、何か年季のようなものが感じられた。勿論、自分の身の事も考えているのだろう、不安の色も滲んでいる。

「何だ?」

「俺を戦争に参加させて下さい」

「俺……?」

 ユランは不思議そうに俺を見つめる。一人称に疑問を持ったのだろう。

「まぁ、いい。見ない顔だなぁ……。Kei、でいい?」

「はい」

「そうか、ではKei。何故、戦争に参加したいと思ったの? 貴女もプレイヤーなら、分かってるわよね? これは遊びじゃなくて、本物の戦争なのよ。貴女の命の後ろにはその何倍もの命がある。貴女の行動で、人が死ぬ事だってある。無論、それは全員に言えるのだけど。私はね、なるべく皆が死なないようにしたいの。だからこそ、戦争にはベストのメンバーで戦う必要がある。

 さっきも言ったけれど、私は貴女の事を見た事がないわ。私は、一応レーシーのリーダーだから高レベルのプレイヤーは把握しているつもりよ」

「それは、つまり俺が弱いから加える事は出来ない、という事ですか?」

「弱い、とは言っていないけど。私が選んだプレイヤー達は過去の戦争でもそれなりに戦果を上げている、熟練よ。それとも、貴女はそれより強いって言うの?」

 言いたいことが伝わってきた。ユランは俺が足手まといになると考えているのだ。

 確かに、俺は一度も戦争に出たことは無い。それは、自分のレベルをひたすらに上げるためだった。《レーシー》の占拠しているフィールドは僅かなので、わざわざ危険をおかしてまで、他種族のフィールドにもモンスターを倒しに行った。

 おかげで、ギリギリ高レベルと呼ばれる領域にも入る事が出来た。

 俺は、戦うために来たのだ。

 アイテムウィンドウから、一つのアイテムを具現化する。具現化されたのは、小さな百グラム程しかない申し訳程度の肉切れだった。

 俺はそれをポンとユランに手渡す。

「何だコレは?」

「それは、《ラルーグリエット》のドロップアイテムである、《ラルーグリエットの腿肉》です」

 俺がそう告げると、ユランは途端に表情を変える。

 《ラルーグリエット》とは、獣型のモンスターの最上級とも言えるモンスターである。その圧倒的なスピードと、見上げるほどの巨体。

 恐らくは、これを倒すには高レベルの上級プレイヤーが何人も集まらないと無理だろう。いや、集まっても一つのミスが命取りになる。

 それ程、強いモンスターなのだ。

 そして、俺がそのドロップアイテムを所持しているということはすなわち。

「何人で倒したの?」

「ソロです」

「ソロ!? あの、《ラルーグリエット》を一人で倒したの?」

「はい。多少苦戦はしましたが」

 俺がそういうと、ユランは考え込むようにして俺に背を向ける。

「会議を開くからそこで待っていて」

 そういうと、ユランは何やら数人のプレイヤーを引き連れて別の場所へと移動していく。


 ――そして、俺に参加を認めるという通知が届いたのは十分後だった。

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