表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

Episode2-(1)

改めて。Episode2突入です

 ――俺達がこの《AFO》に閉じ込められてからおよそ半年が経った。

 四〇〇〇。

 この数字は、研究ギルド《キャプチャー・ワールド》の所属プレイヤーが、《AFO》の一時間の平均ログイン者数から、現在確認されているプレイヤーを引いた数だ。

 つまり、この数字は今この《AFO》から居なくなったプレイヤーの数を表す。

 HPが〇になり、この世界に完全に閉じ込められた人数だ。

 最初にプレイヤーがこの世界から居なくなったのは、このゲームに閉じ込められてから数日も経たなかった。HPが〇になった理由は、自殺。

 《AFO》には、モンスターから与えられるダメージ、プレイヤーからの攻撃で与えられるダメージ。それに加えて、オブジェクトダメージというのはある。

 オブジェクトダメージというのは、例えば倒れて来た建物や木に当たったり、もしくは高いところから地面に打ちつけられたりした時に発生するダメージの事を指す。

 そして、最初に自殺したプレイヤーはこのオブジェクトダメージを使った。

 所謂、飛び降り自殺である。本人は、興味本位のつもりだったようなのだが、結局そのプレイヤーのHPが〇になって結晶化してから、そのプレイヤーを見たのは誰も居ない。

 そして、外部からの救援も来ない。

 もしそのプレイヤーが元の世界へと帰れたのだとしたら、何らかのコンタクトがあるはずだった。それが無いという事はつまり、このプレイヤーはアナウンスが言っていたように《AFO》から永久に出られなくなり、植物状態になったという事だろう。

 そして、今は約4000人のプレイヤーがこの《AFO》に永久に閉じ込められている。彼らが何を考え、いや、もう考える事すらも出来ないのかもしれない。

 彼らがどうなってしまったのか。

 それを知る由は俺達には無かった。知りたいとも思わない。知ってしまえば、多分俺は本当の恐怖を味わう事になるだろう。

 現在、《AFO》のプレイヤーは完全にそれぞれの種族同士で分かれてしまっている。パーティを他の種族と組むなんて事は在り得ないといっても良かった。まず、どのフィールドも何処かしらの種族が持っているから、そのフィールド内に入り込めば、すぐにその種族のリーダーへと情報が通達されてしまう。そうすれば、何人かの集団で捕らえられてしまうだろう。

 その後の処分がどうなるのかは、その時の状況にもよるのだが、そこまで良い扱いはされないだろう。良くても、交渉材料。

 運悪く過激派に捕まれば、最悪は――。

 俺の種族である《レーシー》は今この世界のフィールド所有数が最も少ない。つまり、弱小と言える種族である。

 その理由として挙げられるのは、まずはスキルが弱い事。他の種族は、ある程度のレベルになると高威力の攻撃スキルを習得出来るのだが、《レーシー》はそういったスキルがほとんど無い。高レベルになって覚えられるのは、身体強化や状態異常。

 完璧にサポート役である。

 それらのスキルが使えないというよりは、寧ろ重宝すると言える。しかし、それは必ずもう一人アタッカーがいるという前提での話である。

 単体での使用ではあまり意味が無いのだ。故に、今までの戦争ではほとんどが負けている。完全に力負けしているのだ。

 例えば、《クーシー》が初めに覚える攻撃の上位スキルは、《ディレンザー》という斬撃系統のスキルである。威力も中々に高く、また、レベル十六という比較的低いレベルの内から使える、使い勝手の良いスキルである。

 それに対して、《レーシー》が上位攻撃スキルを覚えられるのは最低でもレベル五四。《AFO》でも百人程度しかいないレベル五〇を突破していなければならないのだ。

 そして、《レーシー》でレベル五〇を突破しているプレイヤーは僅か一二人。種族全体のプレイヤー数は約三千人。戦争で選ばれる百人の中の一二人がその上位攻撃スキルを覚えているアタッカーだとすれば、後の八八人はサポート役なのだ。

 当然、それで勝てるはずも無く。

 今までやった二回の戦争で千人というダントツの戦死者を出した。アタッカーも人数が少なすぎるせいで自由に動き回る事が出来ずに、包囲されてしまうという非常事態。

 正直、どうしようも無かった。

 今は、どの種族でも一時休戦状態なっているのだが恐らく、それが解ければ真っ先に潰されてしまうのは俺達だろう。

 そして、俺は自軍が負ける姿を遠くから見るたびにこう思う。

 何故、戦争をするのか。

 何故、協力しようとしないのか。

 何故、俺達はこんな風に命を危険に晒さなければならないのか。

 考えても分からない。

 しかし、プレイヤーには確実に《死》が迫ってきている。それだけは、分かっていた。この世界での《死》では無い。現実世界でのそれだ。

 アナウンスは基本的にタイムリミットは無いといった。

 しかし、確実にタイムリミットはあるとも言った。

 それはつまりどういう事なのか。

 俺はひたすらモンスターを倒している間に考え、そして結論に至った。

 やはり、アナウンスが言っていたようにタイムリミットは確実に存在している。この世界のタイムリミットではない。向こうの世界でのタイムリミットだ。少し考えれば分かる事だった。この世界では、食事をする事も、休眠する事も出来る。

 そうやって疲れを癒しているのだ。

 だが、それがそもそもの間違いだった。

 俺は寝てなどいない。食事などとってはいない。疲れなんてものは癒されてなどいない。寧ろ、徐々に蓄積されていっている。

 つまり、こういう事だ。

 この世界と向こうの世界への繋がりは無い。こっちの世界で何をしようが、向こうの世界には全く関係無いのだ。重要なのだ、俺達の身体が今現在進行形で衰弱していっているという事。俺達がこの《AFO》に閉じ込められてから半年が経っている。その間、俺の身体はどうなっているんだろうか? 恐らくは、ここにログインした時と同じ状態で保管されているのだろう。いや、俺がまだログインしっぱなしでいられるという事は、何処かの病院の施設に移された可能性がある。

 何らかの方法で俺は今生き永らえている。しかし、もしそれが後半年、いや三ヶ月ずっと続いていたらどうなるのだろうか?

 何時かは衰弱死という形で終わりを迎えるのではないか?

 つまりはそういう事だ。

 タイムリミットは、俺の身体が死ぬまで。

 それが俺の行き着いた結論だった。

 そして、そのタイムリミットが訪れる前に、俺達はここを出なければならない。

 が、その出られる方法である、アナウンスを見つけるという事が事実上ほとんど不可能になっていた。まず、手がかりがほとんど無いのだ。アイツはほぼ完璧と言っても良いほどに、俺達の中に上手く紛れ込んでいる。

 見つけない限りはこの狂ったゲームを終わらせることは出来ない。

 いや、出来る事は出来るのだが、もう一つの方法はあまり取りたくなかった。

 多大な犠牲を出してしまうからだ。これが一番手っ取り早いのだが、最後の一つの種族になるまで戦争を続けるのは不毛すぎる。

 しかし、今俺達はもしかすればこの方法を取らざるを得ないかもしれない。崖っぷちの状況にある。見付ける手がかりが無いまま、ただ時を過ごすだけでは遅かれ早かれ全滅だ。

 ならば、自分だけでも助からなければならない。

 《クーシー》はそんな考えを持った、戦闘集団だ。元々、高威力スキルが多いこの種族のリーダーが好戦的という事もあり、今現在最大のフィールドを保有しており、最も戦力が整っている。


 ――そして、今。


「リーダー! 《クーシー》が戦争をしかけて来ました!」

 俺達レーシーには今正に、《死》が纏わりつこうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ