Episode1-(1)
こんにちは。
どうにか、更新する事が出来ました。
応募用も順調に書き進めております。
では、宜しくお願いします。
――2036年。それは、世界に新たな可能性が出た年。
「慶太、早く! 早くしないと売り切れるって!」
友人は靴を履くのに手間取っている俺の肩を叩いて急かす。しかし、もうほとんど真夜中っていう時間に叩き起こされた形でつき合わされている俺は半ば眼を虚ろにしながら、ゆっくりと靴の紐を結んでいく。
「馬鹿! ほら、行くぞ!」
「おっ……? うぁっ、ちょっまだ靴紐が――」
「帰ってから結べ! さっさと行くぞ!」
「いやいや、帰ってからだったら意味無いから」
友人に溜息混じりに突っ込みを入れる。しかし、既にそんなことは頭に入っていないようで、まだ靴紐を結び終えていない俺を無理矢理立たせ、家の外へ連れ出す。
冷たくて乾燥している冬の風が、家の中から出てきた俺を凍らせるかのように強くふきつけてくる。思わずブルリと身体を震わせる。
早くも、吐く息は白く染まっていた。着ているダウンジャケットのファスナーを首元までしっかりと上げて、防寒対策をする。
友人はグズグズとしている俺に苛立っているのか、靴で地団駄を踏むようにして俺を無言で急かしてくる。しかし、待ちきれないと思ったのかまだ準備が出来ていない俺を置いて、先に走って行ってしまった。
ここから、何処に行くかは知らされていない。故に、ここで友人と離れてしまうと準備した意味が無くなってしまう。俺は、急いでしっかりと靴紐を結び直し、もう既に曲がり角まで走っていた友人を大急ぎで追いかけた――。
世界中が歓喜と熱気の渦に包まれた日。このニュースは、全世界で大々的に取り上げられ、翌日の全ての新聞は、この見出しで踊った。
〝遂に完成! 新感覚の体験型MMORPG!?〟
そう、体験型のMMORPG。操作では無く、体験へ。
これは、このゲームが発売した当初に掲げられたキャッチフレーズである。今までは、パソコンの画面の中にある自分が生成した、身代わりとも言える存在。アバターを、マウスやキーボードで操作してゲームをプレイしていた。しかし、このプレイには安全という絶対的な前置きが入ってしまっていた。ゲームは所詮ゲームであり、自分が操作しているキャラクターがどんなに過酷な状況で凶悪な敵と戦っていても、それが操作している人間にその臨場感を伝える事は出来なかった。
しかし、今回完成したMMORPGはそんな今までのゲームに対する認識を根本から覆すほどの、機能を兼ね備えて次世代ゲームである。
プレイヤーは自らを象ったアバターを操作ではなく、アバターに入り込む。つまり、ゲームの世界に入って今までアバターだけが感じてきた臨場感を、自分自身で体験することになるのだ。それは、ゲームプレイヤーなら誰しもが一度は夢を見る、理想のゲームの在り方だった。
このゲームをプレイするためにはフィールプロテクターと呼ばれている、黒を基調にした音楽を聞くヘッドフォンと見た目は何ら変わりの無い機器を装着しなければならない。
見た目が似ているというだけで、構造事態は全く異なっていてこれを装着することにより、フィールプロテクターから発信される特殊な信号を脳に与える。そうすることで、あたかもゲームの中に入り込んだかのような感覚を装着者に見せる事が出来る。
この次世代ゲーム。又の名を、EXMMORPG。
そんなEXMMORPGの先駆けとして、初めに登場したのが、オール・ファンタジック・オンライン。通称《AFO》である。このシステムを作成した、ライトシュバルツ社から満を持して発売された、初めてのゲームである。ゲーム自体は無料なので、フィールプロテクターを何とか入手しようと、集ったユーザーによりフィールプロテクターは店頭に並んで数分後に全て完売してしまった。
一時は、これを手に入れるためのユーザー同士のトラブルが頻発して発生し、社会現象にまで発展したこのフィールプロテクターは増産に次ぐ増産により、落ち着いた。
売り上げた数は、実に10億台にも及ぶともいわれている。
同時アクセスユーザー数は8億3456万人。あまりの多さにサーバーがパンクした程である。
結局、俺達はそのフィールプロテクターを買うために発売店舗が開店する何時間も前から店の前で並ばなければいけなかった。
しかし、その甲斐あって残り在庫僅かというギリギリの状態で何とかフィールプロテクターを二つ購入したのだった。
その日は、いきなり当日に真夜中に電話をかけられて、まどろみかけていたのを無理矢理覚醒させダッシュで店舗に並んだのが不幸を呼び、家に帰った瞬間に俺はベッドに身を投げ出して眠ってしまっていたのだった。
――翌日、俺が眼を覚ましたのはもう朝とは呼べない時間帯になってからだった。心の中で昨日無理矢理俺を起こした友人を罵倒する。
カーテンを開けると眩いばかりの光が部屋の中に差し込んできた。しかし、光はさほど暖かくは無く布団から這うようにして出ると、その寒さに思わず布団の中にまた戻ってしまいそうになる。
時間を確認するために手に取った携帯は、着信を告げるお知らせの光が点灯していた。着信履歴を開いてみると、着信は14件。その多さに思わず俺は目を見張ってしまう。普通は、こんなに着信が来る事は無い。
何か特別な事があったのかと名前を確認する。しかし、そこに合った名前は全て、|《八頭竜人》《やず りゅうと》と示されていた。約30分おきに一回着信が入っており、計算すると7時間ずっと同じように電話をかけていることになる。八頭は、昨日俺を真夜中に呼び出し夜更かしの原因となったあの友人の本名である。短髪で、がっちりとした体躯を持つ、大柄な男。悪くない、ワイルドな風貌を持っていて、結構格好良いと女子に評判だったりする。中学校からの縁で今では唯一親友と呼べる存在だが、たまにこうやって暴走することもあり面倒臭いところもあったりする。
俺は仕方なく八頭に電話をかけると、八頭は待ってましたと言わんばかりに、五秒も経たずに電話に出る。相当焦っているのか、俺が電話恒例の「もしもし」を言いかけたところでまくし立てる様に話し出す。
『慶太、出るのおせぇよ!』
「いや、悪い。けど、俺だって昨日お前に無理矢理付き合わされたせいで寝不足になったんだぞ? もう少し罪悪感を持って欲しいよ……」
「そんなことはどうでもいいって! 七時間も前から電話してたの全然お前が出てくれなかったから、思わず睡魔に負けそうになっちまったよ――あ、それで本題なんだけど昨日買っただろ? フィールプロテクター! 早速アレ使ってゲームやろうぜ! 《AFO》俺はもう先に会員登録したからお前待ち! 30分後にログインしてくれ、俺もログインするから向こうで落ち合おうぜ! じゃな!」
八頭はそう言い残すと、電話を切った、残ったのはまだ寒い冬の空気とそれを取り巻く静かな空間だけ。俺は、盗み見るようにしてベッドの脇に無造作に置いてある機械を見る。まだ箱に入ったままの機械をゆっくりと取り出す。
ずっしりとした感触。ヘッドフォン型になっている機械を装着すると思うと、肩が凝りそうで若干付けるのを躊躇う。
俺は溜息を零して機械をベッドの上に置いておき、スタンバイになっているパソコンを立ち上げる。デスクトップは何のこだわりも無い無地。八頭にはもっと派手なデスクトップにしろと言われたが、俺はそんなことをする気は更々無い。
インターネットエクスプローラを開き、出てきた検索画面に《オール・ファンタジック・オンライン》と入力する。検索は1秒程で完了し、検索結果が無数に出てくる。その中から公式サイトを見つけ出す。
公式サイトは正に、お祭り騒ぎと言っても良いほどに賑わっていた。サイト内に設置されている掲示板にはまだサービス開始から一日しか経っていないのにも関わらず、1万件以上のレスが投稿されている。これだけを見れば、いかに多くの人がこのゲームに興味を抱いているのもわかる。こんなゲームを手に入れる事が出来たのだから、八頭がああも興奮するのも無理は無い。本当は、プレイガイド等もっとゆっくり見たかったのだが、八頭との約束があるので、ざっと目を通すだけで新規登録へと移る。
他のMMORPGと変わらないような、名前や性別ユーザーIDやパスワード、メールアドレスを慣れた手つきで入力し終わる。
大抵はもう次辺りで自分のキャラを生成するわけなのだが、このゲームは少々違うようで更に10個ほどの質問に回答しなければならないみたいだった。
例えば、性格であったり自分の身体的特徴であったり。俺は面倒臭くなってしまったが、おおよその回答を終わらせる。
全て入力し終えて、《送信》ボタンを押すと定型な文が表示される。俺はメールボックスに《AFO》運営からのメールが届いたのを確認し、ベッドに置いてあったフィールプロテクターを手にとって眺める。説明書によると、スイッチを入れてヘッドフォンを付けるだけで後は勝手に無線がパソコンに接続されるらしい。
他にもいろいろと書かれていたが、専門用語が飛び交っていて理解不能だったので説明書を投げ出し、フィールプロテクターを装着する。
思い通りの重量感で、若干ベッドに横たわるようにして首を休める。確か……説明書にはここの緑色のスイッチをONにしてから――
「コネクト・イン! オール・ファンタジック・オンライン!」
閑散とした部屋の中に男としては少し高めな少年のような声が響き渡った――。
携帯から読んでいる方も疲れないように4000文字程度で区切りました。
第1話。どうでしたか?
拙い文章力ですが、頑張って書くのでこれからも宜しくお願いいたします!