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Episode1-(17)

久しぶりの更新です。

「――――うわああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 すぐ傍から聞こえてきたそんな悲鳴に思わず振り返る。

 その視線の先には、腹の辺りを押さえて蹲っている一人の男性プレイヤー。

 更には、その蹲っている男性プレイヤーに向けて再び攻撃を加える、もう一人の男性プレイヤー。そのいかにもチンピラ風な風貌には似合わず、猫耳をついている。

 そこまで苦痛になるほどの痛みは感じないはずなのだが、精神的ダメージ等もあるのだろう。

 押さえた腹部の周辺の服には、うっすらと血の色が滲んでいる。

 それは、何とも生々しい光景だった。少なくとも、普段こういった刺激的なシーンを見ないプレイヤーにはトラウマにもなり得る。無駄じゃないのか? と思うほどにリアルに再現されている。それが余計にグロテスクな印象を与えた。

 凄惨な光景。

 しかし、それよりも俺には気になることがあった。その男性プレイヤーの姿だ。一方的に攻撃している方ではなく、されている側のプレイヤー。

 俺は、何処かで見たことのあるそのプレイヤーを記憶から引っ張りだす。

 特徴的な青い長髪。整った女顔。

 あれは確か――。

「――ラルクッ!?」

 そう。何処かで既視感のあったその姿は、ラルクのものだった。初めてモンスターを倒した際に、俺に色々と助言してくれた、あのラルクである。

 先日会った時の、明るい雰囲気は消え去り、恐怖に顔が歪んでいる。

 俺の声にピクリと反応する。

 それが、そのやられているプレイヤーがラルクだという事を表していた。

「Ke……i……?」

「くそっ!」

 既に、ラルクのHPは半分程度削れている。もし、アナウンスの言った事に嘘偽りが無いならば、そのHPが全て無くなった時、同時にラルクの命も終わりを迎えるという事だ。

 ラルクに攻撃を加えている男が、何故そんなことをしているのか理由は分からなかった。が、既に目は少し虚ろになっていた。恐らくは、正気を保ちきれて居ないのだろう。外部からの切断が切られたといっても良いこの極限状態の中で、気がおかしくなってしまったのかもしれない。

 俺は、すぐにラルクの下へと走り出す。

 そうしている間にも、男はどんどんラルクのHPを削っていく。

「へ、へへ……」

 男が不敵に笑みをこぼす。

 それはもう正常とは思えないほどに壊れていた。

「た……すけ……」

 ラルクが俺に向かって手を伸ばす。俺はそれを受け取る代わりに、今にも馬乗りになりそうな勢いの男をタックルで弾き飛ばす。やはり、STRの能力パラメータでは俺が圧倒的に上回っているようだ。男が俺の身体に吹っ飛ばされる。

 しかし、男の眼の色は変わらず、虚ろなままだ。

 やはり、何処かがおかしかった。常人ではない。今まで、感じたことのない恐怖にゾクリと背中を撫でられる。その男に、直接的な恐怖を与えられているわけではないのだが、何かその後ろには言葉で言い表せない不気味なものが憑いているように感じた。

 ひとまず、横たわって息も絶え絶えといった感じのラルクの方を見やる。いきなり男に刺されたのか、何の抵抗も出来なかったため、HPはかなり減ってしまっている。

 うっすらと滲む涙。

「ポーション、ある?」

「……無い」

 俺は、メインメニューのアイテムウィンドウから、ポーションを選び、使用対象をラルクに設定して使用する。

 すると、途端にラルクのHPが八割程度にまで回復する。これで、そう簡単にHPが無くなる様な事はないだろう。ラルクも、助かったという様な表情で脱力している。

「助かったよ。有難う」

「こないだ、経験地貯めるの手伝って貰ったお礼だよ。それより、何があった? 何か、喧嘩でもしたのか?」

 そう問うと、ラルクはまさかとでも言うように首を振る。

「そんなわけがないだろう? 僕は平和主義者なんだ。喧嘩は好きじゃないし、立場上そういった問題を起こすわけにもいかない」

 そういえば、ラルクは現実では教師をしていると聞いていた。

 確かに、生徒の模範とも言える存在がそんな喧嘩をしていたら、話にならないだろう。とすれば、喧嘩の線は消える事になる。つまりは――

「向こうから襲ってきた……って事?」

「ああ。さっきのアナウンスからもうかなりの時間が経つが、外部からの連絡は途絶えた。ログアウトも出来ない状態だ。そういうのに、痺れを切らしたんだろうな。恐らくは、実験しているんじゃないか? 本当に、人が死ぬのかって。まぁ、答えはもう出ているけれど」

「!?」

 男が、その虚ろな目を一瞬ギラリと輝かせる。

「どういう事だ? もう分かっているっていうのは……。ラルク、まさかもう誰か人を――」

 すると、ラルクは苦笑し、まいったなという表情で話し出す。

「失礼な事を言うな。僕は、誰かが死んだところなんて見た事はないし、ましてや誰かを殺した事なんてない」

「じゃぁ、答えって言うのは……」

「分からない。これが答えだよ。仮に、誰かのHPが全て無くなってしまったとしよう。どうやったら、その人が現実でも死んだと分かるんだい? 今の僕達はこの《AFO》に閉じ込められているといってもいい。現実でその人が死んだかなんて確かめる事は出来ないだろう?」

 そのラルクの言葉で納得する。

 確かに、誰かがこの《AFO》からいなくなっても、その人が死んでしまっているという事を確認する術は俺達にはない。いや、もしかしたら最初から死ぬなんて在り得ないかもしれない。あれは、アナウンスが言ったハッタリじゃないのか? とも思う。

 だが、しかしそれを確認する術も無い。

 誰かが、それを試みようとするのもそれは何時の話になるのだろうか。もしかしたら、アナウンスが言った事が全て事実で、本当に死んでしまうかもしれない。その恐怖に縛られて、行動に移せるような人はそこまで居ないだろう。

 死と隣り合わせのチャレンジなんて、誰も望まない。

 八方塞だ。

「とにかく、圧倒的に情報が少なすぎるんだ。僕達に出来る事は、限られている。何処かに潜んでいる主犯を見つけるしか、ひとまず方法は無い」

 そこまで聞いて、周りも納得したのか溜息を吐く。それもそうだろう。答えが分かると言われた後のあれである。勿論、それは正論なのだから責め様が無いのだが、少なくともこの極限状態の中で出た小さな希望だったのだ。

 ラルクを攻撃してきた男も、まるでさっきまでの狂気が嘘だったかのように、落ち着いている。顔はやつれて、憔悴しているのが伺えた。

「Kei。君は本当に助かったよ。でも、ここからは敵同士だ。君とは、戦いたくないけれど。僕は、何としてでも戻らなきゃいけないからね」

 ラルクはそう言って笑うと、俺から離れていった。

「敵……か」

 八頭。そして、ラルク。

 繋がりの深ささえ違えど、両者共、一度は心を許した相手だ。それが、次から次へと俺の傍から離れていく。

 仕方ない。

 そうやって割り切る事は簡単だったが、だからといってそれらと完全に、関係を断ち切ることは出来なかった。

 俺は弱い。ステータス上、俺はかなりの上位に入るかもしれないが、中身は所詮人間なのだ。それも、まだ成熟しきっていない餓鬼だ。

 そんな俺がもし一人だったら、恐らくはさっきの男のように何時かはなってしまっていただろう。今だって恐怖に押しつぶされそうなのに。それが、何故俺が正気を保っているのか。そう聞かれれば、俺は迷わず答える。仲間がいるから、信頼出来る親友がいるから。

 俺以外の、別の存在が今ある俺を支えている。

 だからこそ、帰らなければならない。俺はアイツらと共に。

「……長くなりそうだなぁ」

 プレイヤーの気持ちとは裏腹に、眼の前に広がる嘘にまみれた空は、真っ青だった――。


時間が無いため後書き省略

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