Episode1-(13)
物語が遂に動きます。
なんか知らないけど気付いたら5000文字突破していました^^;
「それじゃぁ、早速今のこの状況を説明してもらえる?」
爽やかな風が俺の銀髪をふわりと揺らす。陽光に反射してキラキラと光るそれは、まるでそれ自体が発光してるかのように、眩しかった。
俺は、数分前に八頭にこの《AFO》に誘われてログインしたばかりだった。その当初の八頭の言葉は、経験地を貯めてレベルアップするのを、手伝ってほしいという解釈で良かった筈だ。断じて、エチケットを守らないプレイヤーに喧嘩を売るということではないだろう。
では、この状況をどうやって説明するのか?
「えと、俺と慶太がいます」
「それから?」
「いかにも、悪役な男性プレイヤーが二人います」
「それから?」
「思いっきりキレてます」
「それから?」
「それは、俺が二人に喧嘩を売ったからです」
「それから?」
「…………」
「それから?」
「…………」
「それから?」
「うぅ、ずびばせんでじた」
つまり、状況を整理するとこうなる。
まず、八頭が俺を呼んだ理由はモンスターを倒すアシストでは無く、このプレイヤー二人を倒す事のアシスト。どうやら、俺がログアウトした後に八頭がこのフィールドでモンスターを倒すのに四苦八苦していたところ、俺達の目の前で思いっきりガン付けをしてくるこの二人組みのパーティに会ったらしい。
この男達と会うだけなら良かったのだが、どうやらこのプレイヤー達の素行は余り良くないようで、周囲のプレイヤーの邪魔をしては、最後にダメージを与えて経験地だけを持っていくという行為を繰り返していたらしい。
それを見かねた八頭がその男に、抗議をしたところ今のような状況になったそうだ。
八頭の正義感は素晴らしいと思うし、この男達がやっている事は、明らかに最低な事だと思う。
恐らく、他のプレイヤーが口出し出来ないのはこの男達の容姿のせいだろう。どちらも、無精ひげを生やしている目つきが悪い、ゲームに出てくるゴロツキのテンプレートみたいな顔をしている。はっきり言うと、あまり良い顔立ちとは言えない。
従来のオンラインゲームならば、本当の相手の顔は見えないし、そもそもこういった人相の悪いキャラクターを、選択肢に入れることが無い。
しかし、《AFO》はそういった従来の要素を根本から変えているわけで、当然リアリティを出すためにアニメ顔のイケメンばかりではない。
更に、この《AFO》の世界は現実の世界とほとんど同じなので人相の悪い男に絡まれれば、当然恐怖を感じる事だってあるのである。例え、この男達を現実で操作しているのが気弱そうな平凡な少年だったとしても、《AFO》内ではゴロツキになれるわけだ。
そういった物は精神にも影響を及ばすだろう。例えば、現実では不良に苛められたりしている人がこの《AFO》でその不良になりきれたら?
恐らく、その不良と同じ事をするだろう。今までやられてきた分、やる側にいたいのだ。それは、従来のMMORPGでも変わらない。
ネットゲームの世界で第二の自分になることが出来る。どんな人でも、時間さえかければ簡単に力を持つことが出来る。そうやって優越感に浸ることが出来るのだ。
しかし、決定的に違うのは、今までは、自分の操作しているキャラクターしか持てなかった力も《AFO》ではまるで、自分がそうなったかのような幻想を抱ける。自分が操作するだけのゲームならば、こういったプレイヤーに文句をつけることは容易だ。実際に、何かしたりされたりするのは自分では無く、画面の中の自分を象ったものだから。
《AFO》ではそういった感情を全て自分で感じる事が出来る。操作では無い。体験だ。
だからこそ、こういった人達は相手が強く言えないのを良いことにつけあがる。
しかも、俺や八頭がいるこのフィールドは共有フィールドであり、初心者が多く集まる場所だ。当然、ステータスも低く、少しやりこんだプレイヤーならば誰でもこういった行為を行う事が出来るというわけだ。
勿論、どんなに感情が左右されるといっても、ゲームの域は出ないのでそういった恐怖に打ち勝てれば、もしくはこれはゲームだと割り切れる人間ならば、問題無いだろう。
しかし、感情という存在がそれを妨げていた。
俺は、もう何度目か分からない溜息をつく。
「それで、どうする?」
「どうするって倒すために慶太を呼んだんだ」
「分かった。ただ、こういう面倒ごとに巻き込むのはこれが最後にしてくれ……」
俺はもう一度溜息をつくと、男二人に向き直る。
表示名は《粒子》と《ミヒャエル》。
恐らく、初心者ではないだろう。初心者がいきなり経験地泥棒なんてするはずはないからな。とすれば、中級者かそれぐらいだろうか?
いや、身に着けている武器は俺と同じ初期のものだ。という事は、ここらへんの初心者プレイヤーよりはいくらかマシという辺りだろうか。
それならばと思い俺は、腰から短剣をゆっくりと取り出す。
そして、それを見た《粒子》の表情が嘲笑に変わる。
「おいおい、《八岐大蛇》が助っ人呼んできたのかと思ってちょっと身構えれば、来たのはひ弱そうな美少女。それに加えて、武器は初期の短剣だけ! 馬鹿にしてんのかっ?」
手をパンパンと叩いて挑発するように中傷する二人。
「なんだとっ!」
そして、その挑発に簡単に乗った八頭を手で制止する。
「おっ? やんのかテメェ!」
「あぁ、やる」
平然とそう答えた俺に、男達は一瞬ポカンと口を開けたがすぐに、醜く顔を歪めると同時に短剣を片手に突進する。
「じゃぁ、やってみろやぁぁぁ!!」
そういって、最初に突進してきたのは《粒子》。
真っ直ぐの突進。やはり、そこそこに能力は上げてあるようだ。初心者の八頭やSTRに振って攻撃面に特化している俺に比べると圧倒的に速い。
恐らくは、AGIにポイントを振っているのだろう。このAGIにポイントを振ることでかなり行動速度の補正がつき、速く行動する事ができる。
もちろん、俺にその攻撃を防ぎきれるわけがなく。
「くっ!?」
モロに短剣を突きつけられる。
「はっ! どうだ、くたばりやがれ!」
が、しかし。俺のHPはほとんど減っていない。
僅かにHPが減少しているがさして気にするほどでは無い。というよりもHPバーでの変化はほとんど見られていない。ステータス画面でHPを見ない限りはほとんど満タンと変わらないだろう。
切りつけられたところからは、ツツーと血が流れるが痛みは感じない。
「チッ! テメェそこそこやるじゃねぇか! おい!」
《粒子》がほとんどHPが減っていない俺を見て、一旦身を引く。その様子を見る限りは、恐らくこの男は連続攻撃を主流とした割り振りなのだろう。所謂、AGI極振りというやつだ。攻撃力の低い代わりに相手を牽制したり、することが出来る。
しかし、攻撃力は低いため一対一は向いていないのだろう。
《粒子》は《ラファエル》を呼びつけると、耳打ちをする。《ラファエル》は軽く頷くと短剣を腰にしまいなおす。
「八頭、ラファエルの動きに注意していてくれ」
「おうっ!」
俺は八頭を一瞥すると、相手に向き直る。
途端、またも《粒子》がその速度で迫ってくる。俺はその速度に追いつこうと速めに短剣を構える。
ヒュンという音と共に短剣が目の前に迫る。俺はそれを短剣で弾く。やはり、誇れるのは速度だけのようで俺が少し力を込めると、《粒子》の短剣は飛ばされた。俺はそのまま、短剣を《粒子》に突きつける。ズブッという感触と共に、深く短剣が突き刺さる。《粒子》のHPが一気にレッドゾーンへ突入する。
「んだとっ!? 何だその攻撃力は! 初期装備でここまで削られるなんてありえねぇ! てめぇ、チート使ってんのか!?」
「チート? いや、正常だよ。ただちょっと、STRが高いだけさ」
「……! くそがっ! おいラファエル! やれ!」
《粒子》が後ろに引く。と同時に地面が揺れる。
「っ! 何だ!?」
八頭がぐらぐらと揺れる大地に驚愕する。
ゴスッという鈍い音と共に俺の体が宙へ浮かぶ。
一瞬何が起こったのか理解出来なかった。俺が宙を舞う間に見たのは、下から伸びてくる家を建てるとき使うような木材。
「くぅっ!?」
「よっしゃ! 決まったぜ!」
《ラファエル》が、余裕を見せる。どうやら、今の木による攻撃はこいつが発動させたらしい。スキルを使ってきたのだろう。木材はまるで、生きているかのようにグネグネと動き回り、なおもしつこく俺を攻撃してくる。自動攻撃型のスキルだ。これは、発動プレイヤーの意思とは関係無く指定した相手に、発動プレイヤーがスキルを解いたり、もしくはプレイヤーが破壊しない限りは同じ攻撃を繰り替えす。
厄介な攻撃だが、下位スキルのようでさして能力は高くない。
HPもさっきの《粒子》の攻撃よりは高いが、それでも俺のHPのバーが若干動くだけだ。
「おらおらヤレェ!」
《ラファエル》が興奮気味に叫ぶ。そして、その声に呼応するかのように木材がグングンと伸びてまるで触手のように俺へと向かってくる。
俺は後方に下がりながら木材の攻撃をかわす。
「こうなったら……」
俺は短剣を放り投げる。
「おい、慶太! お前何やってるんだよ! 武器捨てたら戦えねぇじゃねぇか! 待ってろ! 俺が今短剣を渡しに言ってやるから――」
「――――いや、渡さなくていい。これでいいんだ。素手で戦うからいいんだよ。短剣じゃ木に切れ目をつける事は出来るけど、壊す事は出来ないからな」
「あぁ!? 何言ってやが……る……?」
バキバキという音に《ラファエル》の言葉が止まる。
俺が振り下ろした拳はさっきまで生き物のように動いていた木材の中ほど辺りを貫いていた。そのまま拳をもう一度思いっきりぶつける。
すると、頑丈に見えた木材はボロボロと崩れていき、小さな木片に変わり果てる。砕け散った木片を頭から被りながら、目の前の光景を唖然と見つめる二人。
俺は地面に落ちたままの短剣をゆっくり取り直すと、呆然としている二人に近づいて笑みを浮かべる。
「一つ教えてあげる。俺は、美少女じゃなくて美少年だ」
そして、サクッと短剣を刺すと圧倒的なSTRのおかげでみるみる内に、二人のHPは削られていく。先に結晶化したのは《粒子》。
そして、その後を追うようにして《ラファエル》も結晶化していった。
ウィンドウが表示されて、経験地の加算とレベルアップの知らせ。それに加えて、俺に初のスキル習得の知らせが表示された。
一瞬の静寂。
そして、湧き上がったのは八頭の喜びの声と、いつの間にか集まってたギャラリー達の拍手と大きな歓声だった。
「おっしゃ!! やったな、慶太!」
やはり、さっきの二人組みに迷惑していたプレイヤーはかなり多かったようで、口々に俺を褒め称える声が聞こえる。俺はそれに、少し照れ笑いを浮かべる。
「いや、たまたまだよ」
「それにしても、流石だったぜ! 何時の間にあんなに強くなったんだよ! いやぁ、いいなぁ! 俺も早く慶太みたに悪者をこう、ズバババババーン! と、倒してみたいぜ!」
八頭が子供のようにはしゃぐのを苦笑しながら見る。
「それじゃぁ、俺はログアウトしてもいいか?」
「えー、もう帰っちまうのかよ! 後ちょっと、俺のレベル上げにも付き合ってくれよぉ」
「嫌だ。俺は体調が悪いんだ。ログアウトするからな」
俺は文句をいう八頭に耳を貸さずに、メインメニューを開く。
「えーっと……ってあれ?」
「おう! 慶太やっぱり俺に付き合ってくれる気になったか!」
「いや全く」
俺は八頭の言葉を軽く流すと、もう一度メインメニューを開きログアウトを押す。
しかし、全くその気配は無い。
「あれっおかしいな。ログアウト押しても反応しないぞ?」
「はぁ、何言ってんだよ。ログアウト出来なかったらゲームから出られないじゃねぇか」
八頭が呆れたというように指を振る。しかし、その表情もみるみるうちに険しいものに変わっていく。
「本当だ。ログアウトが出来ねぇ。でもこれって、相当ヤバくねぇか?」
「あぁ、かなり重大なバグだな。運営側もこんなのが見つかったって知ったら相当叩かれるに違いない」
何せ、全世界の注目を集めたゲームなのだ。当然、このようなバグが見つかれば大事になってしまうのが必然。
「まぁ、これだけ大きなバグだったら運営もすぐに――」
『システムアナウンスをお知らせします』
「おっ、流石対応が早いな。これで解消されるだろ」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
しかし――
『《AFO》のサーバーを乗っ取りました。皆さんは、僕が操作するまで現実の世界には戻れません』
どうでしたでしょうか?
今回の後書きの恒例コーナーはお休みさせていただきます。
疲れました(ぇ