Episode1-(10)
こんばんは、藁氏です。
本日2度目の投稿となります。
――3分後。八頭は俺の予想通り、何も知らずにその歴戦の戦士の顔で近づいてきた。勿論、戦を経験しているのはその顔だけであり、実際はこの《AFO》初心者である。現実と唯一リンクしているのはその鍛え抜かれた体躯だけ。
顔は似ていない。と思う。
「お、慶太。待たせたなー」
まるで、容姿と言動が噛み合っていない。その顔で、そんな暢気な事を言う戦士が何処にいるのか。俺はそのギャップに苦笑しつつ、軽く手を挙げて答える。
流石に昨日の昼間程の賑わいは無かったが、それでも早朝という時間にしては余りにも人が多すぎた。そんな時に、俺のアバターがあると当然振り向く。浴びたくも無い注目が俺達に集まる。それは、俺の容姿に対してなのか、それとも八頭が俺の本名で呼んだからなのか。
それは分からなかったが、俺は集まる視線を避けるようにして八頭に近づき耳打ちする。
「おい、ここは注目を集めるから一旦フィールドに出るぞ」
「! 美少女の吐息が……」
「気持ち悪い事言うな馬鹿! 男だ!」
「分かってるよ、夢を壊すな」
文句を言う八頭を置いて俺は一人フィールドへと向かう。後から、八頭が情けない声を出して俺に声をかけてきたが、無視した。
すると、やれやれと言った様子で八頭は俺の後に付いて来る。
やれやれはこっちなんだけどな。
そして、俺達がやってきたのは昨日ラルクと一緒にモンスターを倒していた場所だった。ここは、初心者向きという事らしく、良く見ればあちこちで《ポップ》したモンスターとプレイヤーが戦闘を繰り広げている。昨日は自分の戦闘で手一杯だから気付かなかったけれど。
フィールドと言っても、その形状は様々にあるらしい。ちなみに、名前が無いフィールドは共有スペースみたいな物でこのフィールドは、中立都市と同じように誰でも使えるフィールドだ。
しかし、こういった共有のフィールドはこの《AFO》には数えるほどしか存在していない。ほとんどのフィールドは種族占拠フィールドになっている。
種族占拠フィールドとは、その種族が保有しているフィールドの事を示す。
この種族専用フィールドには、共有フィールドよりも強いモンスターが生息していていわゆる中級者や上級者がレベルを上げるために使うフィールドだ。
しかも、このフィールドは種族ごとに出るモンスターが違っていて、比較的弱いモンスターしか出ないフィールドや、はたまた強力な高経験地モンスターが多数生息するフィールド。更には、遥かに強い所謂魔人級と言われる未知のモンスターが生息しているフィールドもあるという。
つまりは、この種族占拠フィールドをいかに効率的に使うか、またどれだけ保有しているかが種族繁栄への第一歩となる。
そして、戦争はこのためにある。
戦争をする事で、その種族占拠フィールドを奪う事が出来る。勿論、勝てばの話だ。戦争の勝ち負けはどれだけ敵軍にダメージを与えられたかで決められる。
戦争は基本、お互いの種族からリーダーが選抜した九十九人とリーダーを含めた百人で戦う。そして、自軍のHPはその百人のHPの合計となる。つまり、勝つためには敵軍の全員を一度倒すぐらいのダメージを与えなければならない。勿論、それは百人全員を倒せという事ではない。相手が回復魔法を使えば、個人のHPはいくらでも回復する。
相手のHPの総量分ダメージを与えた時点で、与えた側の勝ち。それが防衛側なら防衛成功。侵略側ならば侵略成功となり、そのフィールドを占拠する事が出来る。
話を戻すが、つまりこの共有フィールドには比較的弱くて経験地が弱い初心者向けのモンスター、悪く言えば雑魚モンスターが《ポップ》する、初心者には格好といって良い狩場なのである。無論、八頭にとってもここが経験地を集めるのには最適だろう。
「おぉ! すっげぇ! 馬路でモンスターと戦ってるよ! 俺達も戦おうぜ、早く、早く!!」
「焦るなって。そうだ、八頭。このフィールドへ来る手順は覚えているよな?」
「え? 覚えてるけど……それが?」
「そうか。じゃぁ、俺はここで待ってるからもう一回からこのフィールドまで来てくれないか? さっきから、ずっと我慢していたんだ」
「へ? お前何を――」
八頭が言い終わらないうちに、俺は短剣を突き刺す。言い忘れていたが、一応攻撃を与えられると痛みを感じる。といっても、そこまで大した痛みではない……はず。この《AFO》では走れば息切れするし、疲れも感じる。ほとんど現実と変わらないのだ。
俺は何か言いたそうに口をパクパクしている八頭に微笑を浮かべつつ、何度も短剣を突き刺した。
なるほど。
流石、STRにポイントを大幅に割り振ったおかげでラルクとモンスターを倒した時よりも遥かに力が付いている気がする。いや、実際に目に見えるような筋肉がついたとかそういう訳ではないのだが、これが能力補正という奴なのか、何か特殊な力が働いているような気がする。
そして、見る見るうちに八頭のHPは減っていき、遂にはイエローゾーン。そして、すぐに真っ赤に染まってしまった。八頭のアバターが見る見るうちに結晶化していく。
「あぁ、すっきりしたー」
俺は、何が起こったのかと仰天している周囲のプレイヤーの奇異の視線を受けながら清々しい気分になった。
「…………空が」
「――青いなぁ」
「真っ赤だよ!」
突然響いた大声に思わず振り向く。
すると、そこには正に息も絶え絶えという感じの《八岐大蛇》が立っていた。顔は情けなく崩れている。
「おぉ。以外に速かったな」
「うるせぇ! どういうことだ慶太!」
「え? 慶太? 誰ですか、それ? 初めまして《八岐大蛇》さん」
「やっぱり、怒ってたのか!?」
「はは。嘘嘘。お仕置きも済んだことだし、早速モンスター倒しに行こう!」
「あのなぁ……。まぁ、いいわ。気を取り直して、レッツハンティング!!」
やはり、ハイテンションな八頭を引き連れて俺は見覚えのある雑草のような、ツタで攻撃してくるモンスター。《ムーヴィード》に、短剣を突き立てた――。
どうでしたでしょうか?
感想やアドバイス等お待ちしています。