Episode1-(9)
こんにちは。藁氏です。
今日は二回更新しようと思います。
翌朝、俺が目を覚ましたのはピピピという電子音だった。うっすらと靄のかかる視界から苦労して目覚まし時計を探し出す。ひんやりとした鉄の感触が伝わってきた。俺は、その鉄の物体もとい恐らくは目覚まし時計であろう。
アラームのスイッチをオフにする。しかし、鬱陶しい電子音は鳴り止まずに鳴り続ける。という事は、これは目覚ましの音ではないのだろう。その正体不明の音もやがては消えていく。部屋の中には、早朝の静けさが残った。
「なんだ、それならもう一眠り……」
俺がゴソゴソと布団の中に入った途端に、また電子音が鳴り出す。目覚ましではない事が分かったので無視を決め込んで半分覚醒している脳を無理矢理機能停止させる。
しかしその後も電子音は、鳴ったり鳴り止んだりと規則的に音を奏でる。俺はその音に反応してしまいどうにも寝付けず、布団から這うようにしてベッドから出る。
音のするほうへとゆっくりと這う。冷たい床の感触とカーテンの隙間から差し込む朝の光が余計に眠気を吹き飛ばしていく。徐々に、その音の正体がはっきりと輪郭を持ち始める。
目覚まし時計。否。さっきから鳴り続けているのは机の上に置かれている携帯だった。
一体、こんな早朝から電話をかけるのは誰だ? しかも、一度ならずその後も何回も鳴らすなんて無作法極まりない。
俺の友人にそんな事をする奴は…………。
そこで、ふと一人の友人の顔が頭をよぎる。短髪のワイルドな風貌を持ち、《AFO》内では浅黒い肌の歴戦の戦士を思わせる鋭い眼の男。
「いや、まさかな……。いくらアイツでもこんな事をするほど馬鹿じゃぁ――」
しかし、またここで過去の嫌な記憶が浮かび上がってくる。あれは確か《AFO》を買った翌日の時だったか。あの日、俺の携帯の着信履歴は一人の友人の名前で埋め尽くされていた。それはもう、陰湿な嫌がらせかと思うほどに。
そんな事を考えていると再び携帯が鳴り出す。俺は急いで携帯を開いてディスプレイに映し出されている着信の知らせを見る。
そこに表示されていたのは――。
「――やっぱり馬鹿だった……」
俺は深い溜息を吐いて、通話ボタンを押す。
「一度でもお前を信じた俺が馬鹿だった」
『な!? 何だよいきなり!! 俺は馬鹿じゃないからな?』
「うるさい。大声を出すな。何で早朝からそのテンションを出す事が出来るんだ? 馬鹿か? 馬鹿だからなのか? おい、答えろ馬鹿」
『だって、昼間ずっと寝ていたから夜中は寝れなかったんだぜ? だから、早朝でもこのハイテンションを維持出来るって訳だ!』
「成程。つまりは馬鹿って事か」
『だから違うって! 慶太、お前もしかして怒ってる?』
「いや、そんな事全然無いよ。くそっ! 人が気持ちよく寝てたのに起こしやがって」
『慶太さん? 心の声が漏れてますよ?』
「あ、ごめん」
『……。まぁ、いいや。それより今から《AFO》出来るか? やっぱり、一人でやってもつまらないからさ。ずっと慶太が起きるの待ってたんだよ』
「待ってた? 無理矢理起こしたじゃなくて?」
『……うぅ。謝るからもう許してくれ……』
「まぁ、いいさ。もう。《AFO》やるんだろ?」
『え? あ、あぁ。じゃぁ、今からログイン出来るか?』
「分かった。じゃぁ、《AFO》で会おう。すぐに」
『おう!』
八頭の返事を聞いて即座に通話を切る。部屋の中にはさっきの八頭の小うるさい声はもう響いてこない。しかし、俺の頭の中には八頭の声が鳴り響いている。
八頭の――――悲鳴が。
フィールプロテクターを装着し、再びベッドに潜り込んで目を閉じる。
「コネクト・イン! オール・ファンタジック・オンライン!」
《AFO》へと入る途中、妹の不亜の声が聞こえたような気がしたが今はそれに構っている場合じゃなかった――。
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俺は《AFO》にログインすると早速メインメニューを開く。どうやら、《八岐大蛇》はまだログインをしていないようだ。そして、それは俺にとっては好都合でしか無かった。
《ステータス割り振り》を開くと、そこには俺が昨日ラルクと一緒に協力してモンスターを倒していたおかげなのか、ちゃんとレベル分のポイントが入っていた。どうやら、レベルが上がるとポイントが入るようでそれを割り振る事で、ステータスを上げるらしい。
俺は五十ポイントほどのポイントをステータスに割り振っていく。HPに十を割り振り、STRに三十、余った十ポイントをMATKに割り振った。
ちなみに、それぞれの英単語は能力値の略称であり、HPは言わずとも知れているが体力。つまりはヒットポイントを指す。STRは力。よく、STRとATKは同一視されがちだが微妙に意味合いが違い、ATKは装備を足した分の力の総合を示す。つまり、ATKに割り振るという事は出来ない訳で、逆に割り振りたいならSTRに振れば良いという事である。MATKは魔法攻撃力。名前の通りである。
つまり、今俺はほとんどのポイントを自分の力の値に振ったという事だ。
それは、何の為なのか?
俺はそれを証明するため、八頭のログインを心待ちに待った。
どうでしたか?
ではまた、二度目の更新で。