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虚無の旋律  作者: 東屋 篤呉
第二章『涙炎縛鎖』
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5.エピローグ『縛鎖』

「ただいま、いや本当に久し振りの我が家だ」

 家に入るなり人気のない我が家に話しかける。

「充彦お義父さん! お帰りなさい!」

「稲穂! 久し振りだな、元気にしていたか」

 そう言って私は稲穂の頭を撫でる。ここでは鬼警部と呼ばれる私もただの父親だ。

「雫は……いつも通りか」

 私は二階への階段をみて呟いた。

「うん……」

 こういう妙な猟奇的殺人事件が起こって解決した翌日、雫は私が帰っても部屋から出てこようとしない。しかも学校を休むことも多々ある。きっと昔のことを思い出してナーバスになるのだろう、そんな雫や稲穂を放って置けなくて二人を引き取ったというのに何も出来ていない。むしろ私は自分の無力を思い知る。

「そういえば今回の事件は」

「ああ、厄介だよ。取り敢えず容疑者は確保したが意識が戻らない、その親族の妹も急に視力が戻ったとか言って精密検査を受けている状況だからな」

 稲穂が眼を見開く

「何か驚くことでもあったか?」

「いや、なんでもないよ。良かったねって思っただけ」

「何だ? 家に帰ってきてまで皮肉を聞きたくないな」

 私は正直、皮肉は聞きたくなかったが嬉しそうな稲穂の顔を見るとつい顔が緩む。

「兄さんにも伝えてくる!」

「おい! ちょっと待ってくれ、腹ペコで死にそうなんだ! ご飯もお願いしてくれ!」

「今日は私が作る!」

 ご機嫌な返事に思わず頬が引きつる。

 胃薬、あったかな?




「ねえ、お兄ちゃん」

 唯一血の繋がった人をようやく戻った視力でガラス越しに見つめる。今回の事件でお兄ちゃんが最初に殺したのは私達の両親だったらしい。今視力の戻った今だからこそかも知れないけどお兄ちゃんは私達を酷い目に遭わせた人たちに復讐をするつもりだったんだろう、と思う。

 それに私が受け入れるだけの存在じゃなければお兄ちゃんの目は覚めていたかもしれない。そうすればこんな事態になる前に止められたはず。

 きっと私がお兄ちゃんの痛みを感じて(引き受けて)しまったから

 きっと私がお兄ちゃんの悩みを感じて(引き受けて)しまったから

 だから自分の心が悲鳴を上げていることに気が付かないで、私のためになると思ってこんな凶行に及んでしまったのだろう。

 だからお兄ちゃんの罪は私の罪でもある。だから

「だから目を覚ましたら」


 ―――― 一緒に償おう(生きよう)ずっと ――――





「あら?」

 とある町の一角で女性が立ち止まる。腰ほどまである長い髪と凛と整った顔つきが人々の目を引く。いや、それ以前に御祭りも無いのに桜色の和服を着ていたら嫌でも人の眼を惹くだろう。

「使ってくれたんだ、私の『眼』」

 呟いたその人の表情は髪に隠されてうかがい知ることは出来ない。

「待ってて、私の逆さ鏡」

 ゆっくりと振り返りもと来た道を引き返す。

「また愛し合いましょう(殺しあいましょう)ね、『雫』」




「縛鎖・完」


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