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間章・フタエノココロ
「雫……」
闇の帳の中、白いベッドの傍らに立つ人影は確かにそう呟いた。
ベッドの枕元に腰掛けたその人は半開きの窓から満月を眺めている。
「あのときのことはやっぱりトラウマになってたのね」
瞳を閉じながらかすれた悲しい声を出す。あの時とはいつのことなのか、それは当人以外には知るよしもない。ただその人影は愛しむような声を『雫』にかけていた。
「大丈夫よ、あなたのことは私が護る」
その言葉からは決意が容易に見て取れる。
「雫、退魔師の仕事は全て私が片付ける」
窓から入った涼しい夜風が頬を撫でた。
「あなたは眠っていて、雫」
その人物が立ち去ったベッドには月に照らされた窓枠の影だけが残っている。