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虚無の旋律  作者: 東屋 篤呉
第四章『夢想現会』
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1.アカイイト

 

 誰か渇きを癒してください

 水をいくら飲んでも渇きが止まらないんです

 一体この渇きは何処から来るのでしょう

 砂漠に居ると錯覚してしまいそうに干からびた私の心は

 満たす何かを求め続けています

 誰か空っぽな私をうめてください

 それ以外に何も望みません

 早く

 早く

 お願いだから



『夢想現会』



 * * *



 僕は針を刺されるような、身体に染み渡る寒さの中、目を覚ました。

「ああ、またか……」

 竹箒に今は主のいない犬小屋、そんなものが僕の周りを取り囲む。ここは家の外の倉庫だ。

 体勢を変えようと身じろぎして激痛が走る。

 僕は今日も叩かれたのだ、それでも痛みを感じないほど寒い。きっと外は雨ではなく雪が降っているだろう。このままなら僕はまず間違いなく凍え死んでしまう。

 いや、その前に失血死してしまうだろう、身体の全身からこんなに血が出てしまったら。

「今日はここ? 本当に毎日酷い目にあうね」

 心配するような声と共に倉庫の扉が開く。ほんの僅かな月の光ですら眩しく感じるが、それ以上に今日も彼女に出会えたことが嬉しい。

「ねえ、なんでそんな目に遭わせるあいつを憎まないの?」

「憎んだって……変わらないものはある」

 僕は諦めたように呟いて

「でも君がいるからまだ生きよう、って思えるんだ」

 この言葉に嘘偽りはないし誇張でもない。これは紛れもない真実であると共に、心が壊れないでいられる防波堤のようなものだ。

「……ありがとう」

 それでも今ある体力に相応しく、弱々しい、けど心からの笑みを浮かべる。彼女はそんな僕を見て優しく微笑む。そして僕の頬に両手を当てて顔を近づける。

「いつもの、もって来たよ」

 そう言って彼女は口付ける。

 僕は寒くても桜色のままの彼女の唇の間に舌を差し入れ、ひな鳥が親鳥からえさをもらうときのように、彼女の口内をむさぼる。

 幾度と無く繰り返されてきた生きるための行為。それはとても蕩けるように官能的で今、確かにここにある幸福と、快楽と、命を感じる。

 僕と彼女との間に既に言葉はいらなかった。

 寒空の下にある倉庫の中、延々と息の音しか聞こえない。

「……っはあ」

 短すぎる永遠の幸福。それは口付けは息継ぎと共に終わる。

 その口と僕の口には赤い糸が見えている。

 その赤は命の色

 鮮やかな生を知る色

 そして僕はまたこの世にしがみ付くため、また永遠の幸福(かりそめの幸せ)を求め

 彼女を求めた。


 

* * *


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