出逢い語り
「ねえ、美紀」
「ん? なーに眞子?」
「いくらなんでもまずいよ、勝手に入るのは」
「大丈夫! 何のために一時間空けたと思ってるの?」
もうすでに会話の通じない美紀は、戸惑う私をよそに赤根さんの家の扉を開く。インターホンを押しても誰も出てこない、けど鍵は開いている。なら中に骨折して休校中の雫さんがいるのは間違いない。
しかし元は御見舞いと言う話だったのに、目的が完全に入れ替わってしまった。
原因は一時間前、赤根さんの家に入ったスタイル抜群の金髪美人。
「おおっと、赤根さんの貞操の危機!」
なんて恥ずかしい言葉を叫んだ美紀が「眞子、赤根さんを守るぞ!」と言い出し今に至る。つまるところ不法侵入。
あれだけ格好いいのだから、彼女が一人ぐらいいても不思議じゃないとは思うのだけれど……、痛む胸は事実を知りたくて結局、美紀のなすがままになっている。
「御邪魔します……」
小さい声で言った私を無視して美紀は階段を駆け上がる。
「おおっ! これは特ダネだ!」
と言って入り口で携帯電話のカメラを構える美紀。
何事かと思って見るとなんてことは無い、寝ている雫さんの枕元で、稲穂ちゃんが突っ伏すように寝ているだけの話。
「確かに珍しいけどけど、別に特ダネでもないじゃない」
私が言うと「むぅ、確かに……」と美紀は黙り込んでしまった。
二人の兄と妹は静かな寝息を立てている。
私はそんな二人を見ていて、ふと浮かんだ疑問を口にしていた。
「美紀は何で雫さんたちと仲良くなったの?」
よく考えれば、人を寄せ付けない雫さんと人をひきつける美紀。この二人は積極的に関わることは無いはず。
「あー、まあ出会いが強烈だったからねぇ」
遠い目で二人を見る美紀を見て、私は首をかしげた。
「それよりも! あの金髪美人はどこに消えた!」
美紀はいつも肝心なことをはぐらかす。私は美紀に救われた、もちろん私だって力になりたい。
「ねえ、美紀」
「なに、眞子?」
「悩みがあったら言ってね、力になりたいから、友達でしょ?」
「いきなり変な事言わない! いまさらじゃない!」
私たちは二人が目を覚ますまで部屋にいることにした。
めったに見ることの出来ない、優しい表情で眠る二人の兄妹の姿を眺めながら。