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虚無の旋律  作者: 東屋 篤呉
第三章『供花時雨』
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6.エピローグ『供花』

 * * *


 一瞬雫が本気で紫藍(きらん)を殺そうとした、と思ってしまった私が恥ずかしい。雫は殺すように見せかけ、まずは足のロープを、紫藍(きらん)は当然逃げ出した。そのときに紫藍(きらん)の背中で両手を縛っていたロープを斬り、最後に全員に背を向けた瞬間を見計らって目隠しも取った。

 私は結局あの冷徹な雫の表情は作り物だと思って胸を撫で下ろした。

「逃がしてしまいましたね」

 しかし雫の声も顔もまだ冷徹なままだった。背中を氷が這ったような気味悪さを感じる

「でも、関係のある人間を斬れば良いならここにもう一人いますよね?」

 そう言って振り返った雫の目線の先にあるのは祖父の姿。雫はまるで亡霊のようにゆらりと祖父に向かって歩き出す。雫が手に持った刀が妖しく(きら)めく

 私はとっさに脇に置いた刀を抜く。

 祖父に向かって振り下ろされた雫の刀を私は刀の(つば)で受け止める。

「茜姉さん、何で止めるんだ! こいつは父を、母を、殺した! (ゆる)せない!」

「殺しても何も変わらないから、ただ、それだけよ」

 冷たい表情のまま憤怒をぶつける雫を見てると、苦しくて、悲しくて、でも何も出来ない自分が悔しくてしょうがない。

「分かってる、分かってる! けど……」

 そういった瞬間雫は突然崩れ落ちた。雫の刀は手から滑り落ち、私は刀を手放し、雫を受け止めた。雫の目尻に残った涙で、季節感の無い私の桜色の和服が濡れる。

「よくやったな、このままアラミの社に連れて行け」

 目線をあげると祖父の話していた相手は真っ黒な黒子の姿をした鏑葉(かぶらは)家の人間。雫を気絶させたのもこの人間だろう。

 私は眼をつぶったままの雫を強く抱きしめる

 ただ愛しくて

 ただ悲しくて

 ただ虚しくて

「茜、雫を離せ」

 この子()がいなくなったら私は

「……やれ、鏑葉」

 首筋に衝撃を感じ意識が遠のく

「し、ず、く……」



 次に眼が覚めたとき部屋には誰もいなかった。恐らく雫はもう、アラミの社の中に居るのかもしれない。私は縁側から足袋のまま外に出る。まだ降り続いていた長すぎる夕立は地面をぬかるみに変えている。

 頬を雨粒が伝う。

 右から誰かの足音がした。

「雫は!」

 しかし振り返った先にいたのは雫の幼馴染の稲穂ちゃん。

「茜さん、雫はどうなったんですか?」

 雫がいなかった、ただそれだけで私は答える気もうせた。

 生きていること自体に虚無感を感じてしまった。



 だから雨よ

 もっと降って


 皮膚を打ちつけて

 痛みを与えて


 今ここに生きているって事を

 刻み込んで


 * * *


『供花時雨・完』


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