納得がいかない(side マールトン)
予定してなかったんですが、思いついたのでサイドストーリーを書きました。
俺は罪人として、魔術研究のモルモットにされている。
新しい攻撃魔法を受けたり、骨折を治せるはずの魔法陣に乗せられたり、体液を採取されたり……人権というものは、ここにはない。
マッドサイエンティストの集まりだ。
時間だけはたっぷりあるから、いろいろと思い出したり考えたりする。
俺は、歴史あるヘーデルヴァーリ伯爵家で生まれ育ったマールトンだ。
なんの罪も犯していない。
禁術を使ったのは、しけた魔道具屋の店員だし。
イロナはカタリナに毒殺されたのであって、俺は関与していない。
何一つ悪くないのに、冤罪でここにいる。
なぜだ。
イロナ、助けてくれ。
今度こそ、お前を大切にして、愛してやるから。まずは、ここから出してくれ。
父上、母上、大切に育てた俺を切り捨てるなんて、嘘ですよね。反省したら、「それでいいんだ」と頭を撫でてくれますよね。
巻き戻りに協力した店員は陰気で背中を丸めて、長いボサボサの髪で目元も見えず、不気味な奴だった。
騎士団にどこの店か連れて行けと言われた。
だが、そこにいたのは、はきはきとしゃべる、爽やかな青年。別人だ。
姿勢良く、小綺麗な服を着て、髪型もすっきり。
少し、イロナが好きな役者に似ていた。
よく捜査に協力しているらしく、騎士に「この前は世話になったな」なんて話している。
「え、この人はヴァッシュ邸での毒殺未遂の関係者なんですか?」と驚かれてしまった。
関係者というか、直接は関係していないんだが。
そうか、こいつが事件の日にイロナを助けてくれた連中の一人か。
「イロナを助けてくれて、感謝する」
と鷹揚に声をかけてやった。貴族の俺が、平民に。
「ああん?」
男の雰囲気が急に変わった。首を斜めにして、濁音がつきそうな……。威圧をかけられた。
「余計なこと言うなよ」
騎士が気安く小突いてくる。
「こいつ、行き倒れたときイロナちゃんに飯食わせてもらって、一目惚れしたんだってよ」
「そのあとから身だしなみにも気をつけるようになっちゃって」
「そんで、毒殺計画も察知しちゃうんだから、愛の力は偉大だな」
「もう婚約者じゃないヤツが、婚約者面するから睨まれたんだぜ」
騎士と兵士たちが好き勝手にはやし立てる。
頭の片隅に、ちらりと巻き戻しをした魔道士の影が差した。
あいつが俺を出し抜いて、イロナといい仲になる?
そんな馬鹿げた考え……ありえない。
目の前のコイツと、顔も思い出せない陰気なアイツが同一人物なんて。
短期間で、こんなに変わるなんて不可能だろう。髪型や服装だけでなく、姿勢も話し方も、まとう空気も。
「……じゃあ、お前が私の部屋に、毒薬の材料を仕込んだのか」
気がついてしまった。イロナを好きになったなら、俺が邪魔なはずだ。
それが証明されたら、俺は釈放されるぞ。父上と母上に頭を下げて、もう一度イロナとやり直すんだ。
どっと笑い声が起きた。
なぜだ。何がおかしい。
「平民の僕でも、伯爵の屋敷に簡単に忍び込めるんです? そんな緩い防犯体勢で大丈夫なんですか」
俺が平民に馬鹿にされている。
駄目だ。そんなの、駄目に決まってる。
手錠をかけられているので、足で魔術師を蹴った。
足を魔力で強化して……メキョッと奇妙な音がした。
声も出せないほどの激痛が走った。
身体強化した俺の方が負けるとか、有り得ない。
「このエプロンは魔道具が暴発した場合にも対応できる高性能なやつなんで」
魔術師はけろっとしている。
「骨折を治す魔道具の試作品があるんですけど、試します?
まだ試したことないんだよなぁ」
「ふ、ふざけ……るな」
脂汗を流しながら、とんでもない提案を蹴る。
「でも、騎士様たちも、現場検証中に容疑者が善意の協力者を害そうとしたって、バレたらヤバくない?」
「……そうだな。気を抜いて、第三者を守れなかったというのはよろしくないな」
「んじゃ、ここに座らせてぇ」
うきうきと準備する魔術師。
体中に落雷のような衝撃が走って、俺は気を失った。
俺の足は、歩けるけれど痛みが残っている。
「魔道具にかける前に、添え木した方がいいみたいですね」と、魔術師は反省も謝罪もしなかった。
前回の俺は、家が傾きかけ、妻の裏切りに傷ついて、人生をやり直そうと決めた。
運が悪かっただけの、普通の貴族だった。いや、普通よりかなりカッコいい貴族の令息。
婚約者が生きていて結婚できたら、家は豊かなまま。それどころか、彼女の実家の銀山の儲けのお裾分けをもらえたかもしれない。
子どもだって、貞淑な彼女となら安心だ。
婚約者が殺されたのが不運の始まりだった。
だから、巻き戻れば幸せになれると疑いもしなかった。
それなのになぜ、俺は牢屋暮らしで、頭のおかしな奴らのオモチャになっているんだ?
すぐ側で、魔術師どもが嬉々として物騒な内容の話を検討している。
扉越しに、男の叫び声が聞こえた。また、カタリナの父親かな……。
おかしい。こんなはずじゃなかった。




