表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

プロローグ 始まりの観察

欲望とは帳簿に似ている。

足したり引いたり。

残るものもあれば、消されるものもある。


私はただ、それを見届ける。

記録の番人。観察者。

今日もまた、ひとりの名がここに記される。

救いとなるか。請求となるか。

……それは、私の知るところではない。


さあ始めよう。


鈍い蛍光灯の下で、彼は書類の山に埋もれていた。

安月給、長時間残業、家庭との板挟み。

名前はまだ語られない。


ただのサラリーマン。

妻の腹には、これから生まれるはずの子がいた。

「あと少しで落ち着くから」と何度も言い訳を重ね、深夜に帰宅し、空の弁当箱と眠る妻の横顔に「すまない」と呟く日々。


その積み重ねが限界に達した夜。

会社からの帰り道、彼はふと信号の灯を見上げた。

赤から青へ。

ただ、それだけの瞬間。

世界がねじれた。


地面が消える。

街の音が消える。

妻の笑顔も、まだ見ぬ子の未来も、すべてが帳の外へと落ちる。


残ったのは、光と声。


「ようこそ。あなたの番だ」


……帳簿に新しい名が記された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ