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03. 憧憬は旋律に乗って

評価・ブクマ気軽にしていってください!!


ラヴェルとの約束から二日。

そして今日は開花祭前日。貴族らと交流を深めようとは思ってないけど、胸だけが落ち着かない。



「どうした。今日は落ち着きがないな」ラヴェルが横目で言う。

「いや、開花祭のことでちょっと——」

銀色の前髪が「ん?」と傾く。

「……やっぱなんでもない」



根拠なんてない。ただ、なにかが起こる気がした。

そんなとき――



——ワン・ツー・ワンツー・スリー・フォー!

 

の合図で、金属を焦がすみたいな弦の響きが聴こえてきた。胸の奥まで響いて、迫力がある。

(どこかで聴いたような)



「……雷奏室?」

扉の銘板に刻まれた文字。これは初めて見る字面だ。

「雷魔法で鳴らす楽器を使った演奏団体。一般的には軽音楽と言われてるらしい。」


「気になるな……ちょっと覗いてもいい?」

「『部員募集中』と書いてあるから、別にいいんじゃないか」



ラヴェルの許可が下りたので、扉を開けてみた。

そこには、雷光をまとった弦楽器が二つ。そして小さな太鼓がたくさんついている打楽器が一つ。



「軽音楽……初めて聴くが、悪くないな」

ラヴェルが腰に手を当てて言った。


(なんで上から目線なんだ?)

俺は心の中でツッコミを入れた。

 


雷が弦を走るように、空気が震える。心をざわめかせるようなリズムに俺たちは魅了されていた。


雰囲気はかっこいいのに、奏でるのは少女達。

背の低い子はクールに、重低音ある楽器を弾く子はしなやかに。

そして真ん中で歌っている彼女は――輝いていた



演奏が終わると、背の低い子が仕切り始める。


「はいっお疲れ様。いつもみたいに反省会といきたいところなんだけど……」

「あなたたちは、誰?」と重低音のある楽器を弾いていた子が割り込んで尋ねてきた。



「この部屋の前を通ると、聴いたことない響きが耳に入ってきたから、ちょっと覗きに来たんだ。」


「ていうことは、入部希望者じゃないのか〜」

と、真ん中で歌っていた子が肩を落としながらも、目はまだ輝かせている。


「だが、あの演奏は見事だった。まだ未熟感は否めないが、それでも熱は十分に伝わってきた」


「はいはいどうも。なんだかあなた達とは上手くやっていけそうだよ」と、背の低い子が今度はこっちに近づいてきた。


「わたしはコスミア・アルヴェイン。タメ口で構わないよ、同級生だろうしね」


「俺はフイン。こっちはクラスメイトのラヴェルだ。どうぞよろしく」

「ああ、よろしく頼む」

俺達の自己紹介が終わると、コスミアは後ろ二人に「次はお前らだ。」と言わんばかりに睨みつけた。


「わ、私の名前はペロタン……ていうんだ。よ、よろしく」


「は〜い!ウチはサザナギア。バンドではギターボーカルやってま〜す!まだ下手っぴかもしれないけど……誰よりも声は張るよ!!」


――ちょっと待て、知らない単語がふたつも出てきた。


「バンド……?とギターボーカル?ってなに」


「いいよ。わたしが説明してあげる――」

コスミアが腕を組み、自慢げに語り始める。



「なんか長くなりそうだな」と小声で、

「ああ」と、ラヴェルはそれだけ答えた。


「バンドっていうのは、こういう"魔導楽器"を用いた音楽の小規模グループで、基本的にボーカル、ギター、ベース、ドラムで構成されてるんだ」


「そうなの!それで、ウチはある目的のためにバンドやってるんだけどね――」



サザナギアの目はもう光源なんじゃないかと疑うくらいに光っていた。――目が痛い


「目的……?ただ楽器が弾きたいだけじゃないのか?」

どうやらラヴェルの灰青の瞳には効かないみたいだ。全く動じてないぞ。


「ウチは軽音楽でみんなの心に残るような演奏をしたい。それももちろんあるけど……特に、ミレイユ先輩。彼女に認めてもらいたいの!!」



――え?

俺は驚愕した。「ミレイユ先輩」その人は、俺が一番よく知っている――姉だからだ。

胸がもどかしくなる。いや、それ以上に心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走った。 


「詳しく聞かせてもらってもいいか?」

俺の問いに、彼女は迷うことなく頷いてくれた。


「あれは、ウチが楽器を始めたての頃ね――」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



入学前から音楽に触れていた私は、よく友達の前で演奏していたの。


家であの爆音を鳴らすのは流石に迷惑だったから、いつも外で弾いてたんだけどね?

外だと、友達以外の人からも「すごいね!」とか「その楽器なに!?」だとか、声をかけてもらえることが多かった。


でも、声をかけてくる人全員がいい人じゃなくて――


「まぁ!?この下品で煩わしい響きはなんですの?」

「本当ですわ!王都の格式を落とす真似はおやめなさい!!」


扇子で口元を隠しながら、取り巻きと一緒にクスクス笑う。

私の指は痺れるように震えていた。責められる経験なんてほとんどなかったから、ただ友達を守りたい一心で、けれど声は喉の奥でつかえて出てこなかった。


そんな時に――


甲高い足音が石畳に響いた。

令嬢たちの影を覆うように立った人影に、私は思わず顔を上げる。


濃い紫色の髪をなびかせ、紺の瞳が鋭くも真っ直ぐに射抜いてくる。


「あんた達みたいな感性が乏しい耳だとそう聞こえるんでしょうね。でも――私はすごく素敵だと思うわ」


ミレイユ先輩だった。

暗色ベースの見た目なのに、その瞬間だけ、私には太陽みたいに眩しく映った。


痺れていた指先がふっと軽くなって、胸の奥から音が解き放たれるように感じた。


「私の気が変わらないうちに、さっさと帰ったら?さもないと……こうよ!」


風の魔力が彼女の掌に集まり、空気が震える。

令嬢たちは怯んで顔を引きつらせ、捨て台詞を残して去っていった。


「チッ……今度会った時は容赦しませんから!」


静けさが戻った路地に、先輩の声が凛と響く。


「あんたたち、今日はもう帰りなさい。あいつらが戻ってくるかもしれないから……って、ほら、大丈夫?」


差し伸べられた手。

その温かさが胸に沁みて、私はただ「はい」と頷くしかなかった。


――あの瞬間、決めたの。

いつか私も、誰かを守れる存在になりたいって。


音で、心を震わせる力で。


それが、バンドを組んで音を届けようと思った最初の理由になった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



サザナギアが全て語り終えたあと、教室の空気が一気に重くなった。

 


――姉さん、忘れがちだけど、入学成績はトップだったりですごい人なんだよな。正直劣等感がすごい……


「ミレイユは俺の姉なんだ。」と打ち明けた方が楽なんだろうけど、結局俺は声にできなかった。



「あ、あの、話題を少し……変えませんか?」

この空気の中で先陣を切ってくれたのはペロタンだった。それに続いてコスミアが――


「そうだね、話題を変えようか……ねぇ、君たちに手伝ってほしいことがあるんだけど」


「面倒事は嫌だ」ラヴェルが間髪入れずに答えた。

そんなラヴェルのみぞおちに軽く肘をぶつける。


「――っ!」

 


「……それで、手伝ってほしいことって?」


「あぁ、わたしたちは開花祭のオープニングでライブをすることになっていてね。それの準備をお願いしたい」


「それ、俺達に何のメリットが――」

言い終える前に睨みつけると、ラヴェルはしぶしぶ口を閉じた。


「どうせ暇だし、いいよ。協力する」

いつもだったら俺も断っていたかも知れない。けど、今はただ何かに縋っていたかった。


「ありがとう。頼りになるよ」

「やった〜!実質二人、部員をゲットしたね!」

「いや、そうはならないでしょ……」



準備を手伝うことを約束した俺達は、総合科の寮へと戻っていった。

ただの部活見学のはずが、気づけば胸の奥が熱を帯びている。


――姉さんに憧れる彼女みたいに。

俺も、誰かの心を震わせられる存在になれるだろうか。



それが、イリーナさんへ近づくための最初の一歩になると、無意識に信じていた。



ここまで読んでくれた人に感謝!!



「面白い!」と思っていただけたら、評価やブクマをいただけると励みになります。



次回も甘酸っぱくお届けします。おまけもお楽しみに!



【おまけ】

ブルーム小話 #3 ペロタンの食堂レポート


開花祭前日の夜、食堂にて。


「見ろフイン、これが“幻の裏メニュー”だ」

そう言って、ペロタンはトレーに乗った謎の山盛りカレーをどんと置いた。


「いや待て、それ普通のカレーだろ」

「違う!カレーにハンバーグを二枚重ね、さらに唐揚げを突き刺すことで――“天空のカレー要塞”となる!」

「……ただのカロリー爆弾だな」


周囲の学生たちが失笑する中、ペロタンは真剣な顔でスプーンを構えた。


「そして仕上げは、学食の無料福神漬けを頂点に――ほら、これで食堂の神が降臨するの!」

「いや降臨しないわ」


食堂の隅にいた料理長が、「勝手に裏メニュー作るな!」と怒鳴り、ペロタンはスプーン片手に全力で逃げていった。


……後日、学園内の一部で“天空カレー”を真似する者が現れ、ペロタンは密かに「グルメ開拓者」と呼ばれることになる。

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