02. 再会は初恋の匂いとともに
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――彼女に届いてみせる。
ブティックでそう誓ってから、もう一ヶ月が経った。
そして今日――名門「ブルーム学園」の入学式。
朝の王都はやけに眩しくて、胸の奥が落ち着かない。
まるで今日が俺の運命を決める日だと、世界に言われているみたいだ。
この学園は総合・剣術・魔術・英才の四つの学科に分かれている。俺は総合科だ。
そして――総合以外の三つをまとめて"貴族学科"と呼ぶ。
一般の家系は受ける権利すらない。
――また彼女と会えるだろうか……
俺の頭はこれでいっぱいだった。「彼女に届く」といっても、具体的に何をすればいいからわからない。勉学ても極めればいいのか?
――いや無理だな。
即答だった。俺は実技だけで合格したと言っても過言じゃないから、極めるならそっちの方か。
そんなことを考えてるうちに正門前に到着した。
――でかい
壁のようにそびえ立つ正門は、まるで俺たち新入生を試してるかのようだった。
色とりどりの制服を纏った新入生が、緊張や期待を胸に歩いている。その足元には、生徒一人一人を象徴しているかのように、多彩な花々が咲き誇る花壇。
――いい匂いがする。
後ろの方からだ。紅茶の甘い香りが色とりどりに咲く花たちと混ざりあって、春の空気に溶けている。
鼻腔を抜けた瞬間、胸の奥でなにかが弾けた。
――初恋の匂いだ!!
反射的に振り返る。忘れもしない、あの日の出来事。
「やっほ!アスターくん!」
そこにいたのは、ひと月ぶりに会うイリーナさんだった。陽の光と一体化しているんじゃないかと疑う白髪。透き通るほど純粋な青い瞳。 ――とても美しかった。
「おはよう。イリーナさん」
「おはよう!今日から入学だね!」
「そうだね、まぁ学科は違うけど……」
どうしてもネガティブになってしまう。
「そんな悲しいこといわないで!(汗) 学科が違うと言えど、クラスと受けられる授業が少し違うだけでしょ?きっとたくさん会えるよ!」
「そういうものか……」
少しだけ肩の力が抜けた。確かに、ちょっと積極的に動けばすぐ会えるよな。たぶん……
でも、今はそれより気になることがある。
さっきから背中に刺されまくってる――
――周りの視線!!
そうだよな、だってあの侯爵令嬢がどこの馬の骨とも知れないやつと絡んでるんだ。それは気になるよな。
「すげぇ、あいつなにもんなんだ??」
「イリーナ嬢があんなチンピラと……」
みたいな声が聞こえた。――いや誰がチンピラだよ!
「なんか……周りの視線が気になるね。」
「イリーナさんみたいな人が俺みたいな人とつるんでたらね。」
「私はそんなの気にしないのに……」
イリーナさんの顔が少ししょぼくれた。
(か、かわいい……!)
胸の奥がじわっと熱くなる。言葉にするより先に、背筋がピンと伸びた。
「お嬢、お待ちしていました」
灰色のベストに生徒会章。所作のきれいな青年が近づいてくる。
「フィラー、出迎えありがとう。でも一人で行けるって言ったはずよ?」
「申し訳ありません。旦那様のご指示でして。
――アスター君、先日はスターチスの店で」
「え、あ、はい」
周囲のざわめきが一瞬止む。「お嬢」の一言で、空気が変わった。
「参りましょう、お嬢」
「うん……アスター君、また後でね!」
イリーナは小さく手を振り、フィラーに連れられて行ってしまった。
人混みの中なのに、急にひとりになった気がする。
――俺も、行くか。
入学式、とにかく長かった。内容は短かった。
開式、校歌、来賓挨拶。英才科ブロックだけ拍手が綺麗にそろうの、なんでだ。
先生の視線は鋼みたいにまっすぐで、会場の空気は終始張りつめていた。
……で、俺は学園紹介あたりで寝落ちして、クラスがわからない。
(どうしよう。普通に詰んだ)
掲示板は人だかりで近づけない。とりあえず流れに乗って総合科の寮へ。
玄関で案内図をもらい、自分の部屋へ転がり込む。
中は質素だけど新しい木の匂いがして悪くない。談話室のほうから紅茶の香り。
貴族寮と比べると見劣りするんだろうけど、比べなきゃ快適だ。
――いや、比べないと決めたんだ。
うん、ポジティブにいこう。
しばらくすると、外から扉を叩く音が聞こえる。
「入るぞ」
低く落ち着いた声と同時に、光を弾く銀髪が視界に差し込む。冷たい灰青の瞳が、まっすぐこちらを射抜いてきた。
「俺はラヴェル・カリオンだ」
無駄のない所作、氷みたいな声色。……なのに、言ったきり黙る。
(これ、絶対自己紹介しろって空気だよな?)
「俺はフイン・アスター、好きな食べ物はコロッケで――」
「いや、そんなことは聞いてない」
(この人、いったい何しに来たんだ?)
「お前、今朝イリーナ嬢と話していたな」
「ああ、イリーナさんとは制服を作りに来たときに会って、それから――」
「そうか」
無駄に間を空けるくせに、すぐ話を切る。距離感のつかめない奴だ。
「もしかして……ただ友達作りに来ただけ?」
「……悪いか?」視線を逸らす。
意外にかわいいところもあるんだな、この氷男。
「そうだ、俺のクラス知ってる?」
「お前は俺と同じB組だ」
「マジで?助かった!入学式寝てたからわからなくてさ」
「そうか。じゃあ、あの寝言もお前だな」
「……寝言?」
「『スターチス一人目、二人目……三号機起動』って」
「なにそれ!?」
――どうしよう、明日にはみんな忘れてるといいんだけど。イリーナさん、聞こえてないよな?
「大丈夫だ。たぶん忘れることはない。」
「なんのフォローにもなってない!!」
それほど強烈なものだったんだろうな。また詰んだ。
「それで、本題に入ってもいいか?」
「え?友達になってほしいってことじゃないの?」
「違う。いや違くもないが……」
「お前には、俺と一緒に開花祭に出てもらいたい。」
――開花祭……ってなんだ?
「なにそれ。」
「そんなことも知らないのか、開花祭っていうのは――」
一年生交流会《開花祭》は、その名の通り一年生同士で顔を合わせ、食事を囲み交流するもの。いわゆる社交会的なやつらしい。
「それ、貴族学科の人たちも来るのか?」
「ああ。だから総合科はここで顔を広げるのに必死だ。ヘマしたら……三年間、地獄を見る。」
灰青の瞳がそう告げていた。
「なんもしないけど……たぶんな」
「だといいんだが」
――開花祭。貴族学科とも交流できる。イリーナさんには令嬢の繋がりもあるだろうし、話すのは難しいかもしれない。
「俺はフイン・アスター。開花祭、一緒に出てやる!」
「ああ……!頼む、フイン」
「よろしく、ラヴェル!」
俺とラヴェルは拳を合わせた。冷徹な彼がこんなにも熱を帯びる理由はわからない。でも少なくとも、開花祭ぼっちは回避できた。
――開花祭、楽しみになってきた。
このときの俺はまだ知らなかった——開花祭で、イリーナにまつわる“衝撃的な事実”を耳にすることを。
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次回も甘酸っぱくお届けします。おまけもお楽しみに!
【おまけ】
ブルーム小話#2 ラヴェルの一歩目
「入れない……」
フインの部屋の前、肝心な一歩目が踏み出せずにいた。
――今日のイリーナさんかわいすぎただろ!!!
「部屋の中からなんか聞こえる……」
「入りにくいな」
ラヴェルは部屋の扉を開けるまで、結局二分かかった。
その間にフインは「イリーナさんかわいい!」と三回叫んでいた。
おしまい。第三話に続く。