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01. 茶葉の香りに恋した日

※最後にちょっとしたおまけシーンもあります!


――これはブルームに入学する前、王都の片隅にある仕立て屋でのこと。俺が変わるきっかけになった特別な日。


俺と彼女は出会ったんだ――


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺はブルーム学園の制服を発注するため、義理の姉・ミレイユに王都へと送ってもらっていた。

 

「はい、ブティックの場所は地図に記しておいたから。あとは自分でどうにかしなさい。」


「姉さんは来てくれないのか?」


「はぁ!?行って何のメリットがあるわけ?私はブルームの寮掃除があるから、どっちにしたって行けないの。」


姉さんはすごいツンツンしてる人だ。特に、俺がブルームに合格した時から、そのツンツン度が増していった気がする。


「とにかく、発注が終わったら呼びに来てちょうだい。帰りも送っていってあげるから。」


「おっ、優しいじゃん」


「チッ……あんたはまだ箒に乗れないんだから当たり前でしょ。本当は置いていきたいけど、」


――あれ?

 今本音が混じらなかった?


「送らなかったら私が怒られるのよ。」


「そういうことは黙っておいた方が優しく見えるぞ。」


「どうしてあんたに優しくする必要があるのよ?」


優しいと思った俺がバカだった。義理とはいえこれまで過ごしてきた3年があるんだ、さすがに傷つく。


姉さんはそそくさと去っていった。俺もブティックへと向かう。


店の名前は「セラフィリア・ブティック」

学園と関わりが深い貴族が運営してるらしい。


(ここでしか発注できないのもそのせいか……)


重たい扉を押して中に入ると、年季の入ったタキシードに、真っ赤なネクタイを締めたイケイケなおじいちゃんが出てきた――


(インパクト強すぎたろ!?)


それは心の中に閉じ込めておいた。


「いらっしゃいませ。ブルーム学園の制服発注でございますね。」


どうしてわかったのか、でもそんなことより――


「そうなんですけど、どうして店の中でサングラスを?」


「サングラスのことですか、それは……」

「……あなたの笑顔が、眩しいからですよ。」


「え」


紳士すぎるよおじいちゃん、今までこの人に何人やられてきたんだろう。俺も危ないところだったじゃないか。


「コホン。それでは早速、発注作業に取り掛かっていきましょう。」


「ああ……よろしくお願いします。」


軽く自己紹介してから発注作業に移る。おじいちゃんのエスコート力のおかげでスムーズに進むことができた。


「フイン様の髪色と合わせますと、制服は赤ベースにすると雰囲気に合いますね。」


「それから袖の長さは――」


こんな感じでだいたい30分で終わらせて、その間の雑談とかでおじいちゃんとも仲良くなれた。


「フイン様、後ほどお茶をお淹れ致しますので、申し訳ありませんが奥の部屋から茶葉をお取りいただけますか。」


「了解、この部屋ですか?」


「そちらはお手洗いですね。」


「……こっちか」


「お茶目なフイン様も、魅力的ですよ。」


「えっと……ありがとう?」


――変な友情が生まれてしまった瞬間だった。


それから廊下へと進んでいく。


廊下はしんと静まり返っていた。

カウンターから離れると、外の喧騒が嘘みたいに消えていく。


(茶葉、茶葉……ってどこだ?)


突き当たりの扉を開けた――


――えっ?


陽の光が差し込み、舞い上がる埃が金色に輝いていた。

その中に立っていたのは、透き通るような青い瞳を持つ、淡い白髪の少女。

まるで冬の朝にだけ咲く花のように、儚く美しい。


この時点で、俺は彼女を忘れられないと確信していた。


「えっと……あなたは?」


「その!俺は店のおじいちゃんに茶葉を取ってきてほしいって頼まれただけで、別に変な意味でここまで来た訳じゃなくて!」


――やってしまった。第一印象は絶対「変な人」だ。


「お、落ち着いて!?そう言われると逆に怪しくなっちゃうよ!(笑)」


声は軽やかで、どこか人懐っこい。その笑顔に、不意に心臓が跳ねた。


「私はイリーナ・セラフィリア。イリーナで大丈夫だよ!あなたは?」


「フイン・アスターだ……よ。」


――なんかぎこちない!


「アスターくんっていうんだ?今日ここに来たのはブルームの制服発注?」


「そうなんだ。そしたらおじいちゃんから茶葉を取ってくるよう頼まれて……」


「そっか!だからこの部屋まで来たんだね。」


そう言って、彼女は軽やかに戸棚を漁り始めた。

白い髪が揺れるたび、光が柔らかく跳ね返る。


「たぶんこれかな?」


そう言って、彼女は茶葉の瓶を取り出そうとする。

しかし、思いの外瓶が重かったのか――瓶が少し揺れ、その反動で彼女の体が後ろに傾く。


――落ちる


心の中で警報が鳴る。

気がつけば、勝手に体が前へ飛び出していた。


「危ないっ!」


腕を伸ばし、彼女の肩を掴む。

淡い光が宙へと舞い、すれ違う距離でかすかに甘い匂いがした。


――彼女の頬が赤くなっている

  俺はたぶん……それ以上だ。


「ありがとうアスターくん。その、そろそろ離してもらえる……?恥ずかしいよ……」


――しまった!肌が柔らかくてつい……

  って変態すぎるだろ!?


「ごっ!ごめん……」


数秒、気まずい空気が流れる。さっきまで友好的だった彼女も、口を開こうとしない。

なら――


「イ、イリーナさんは何学科なの?」


そう、ブルーム学園は4つの学科に分けられている。総合、剣術、魔術、英才科だ。


「え?」


――いやそうなるよな。この空気でいきなり「学科はどこですか」なんて聞いたらびっくりする。


「私は英才科なんだ。アスターくんは?」


「俺は総合科だよ……」


――胸の奥が少しだけ重くなった。

英才科――それは王国の未来を背負う家系の人達が集まる場所。俺とは、たぶん住む世界が違う。


『セラフィリア』このブティックと同じ名前。

わかっていたはずなのに、言葉にされると妙に遠く感じた。


「ね、この茶葉カウンターに持っていこっか。」


「あ……そうだった。」


――ここにはおじいちゃんから頼まれた茶葉を取りに来たっていうことを忘れてた。


「うん、そうしよう。」


茶葉の瓶を手に取り、彼女が先導する形でカウンターへと向かった。


「お嬢様!さては、フイン様となにか交流があったのですね?」


「うん!アスターくんはもうすっかり私の友達だよ!」


友達、今はそう言ってもらえるだけで嬉しかった。心の中のモヤが少し晴れた気がする。


「そうだスターチス、頼んでた茶葉、持ってきたよ!」


――あ、この人スターチスっていうのね。


「これはありがとうございます。お嬢様、フイン様。では、早速お淹れします」


おじいちゃん、いやスターチスは、手際よく湯を沸かし始めた。

湯気が立ちのぼり、ふわりと甘い香りが広がる。


「はい。まずはお嬢様から」


「ありがとうスターチス。……うん、やっぱり落ち着く香り」


イリーナは一口含んで、目を細めた。その横顔が、妙に記憶に焼きつく。


「フイン様も、どうぞ」


「いただきます……うまい。胃まで温かくなる感じがする」


「わしの茶葉は胃にも恋にも効くんです」と、スターチスは冗談めかして笑った。


やがて、ドアの向こうで馬車の気配が止まる。


「――そろそろ行かなきゃ。アスターくん、今日はありがとうね」


「うん。また」


白い髪がひるがえり、馬車のステップを軽やかに上る。

その姿は、夕陽の光に溶けるようだった。

 

(英才科、手の届かない場所。……でも)


「イリーナさん!また、学園で!!」


馬車に乗りかけている彼女に届くよう、声を張った。

すると――


「うん!また学園で!」

  

胸の重さは、いつの間にか熱に変わっていた。


――この出会いを、ただの偶然で終わらせるつもりはない。


俺は、必ず彼女に届いてみせる。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

「面白そう!」と思っていただけたら、評価やブクマをいただけると励みになります。

次回も甘酸っぱくお届けします。おまけもお楽しみに!


【おまけ】

ブルーム小話 #1 スターチスおじいちゃんの葉から恋


――フインとイリーナが奥の部屋で話してる時

「フイン様、遅いですね。もしかしてイリーナ様とお会いして……!?」

「ふふ、フイン様、私の茶葉より恋を取るとは。

中々のやり手ですな 」


おしまい。第2話に続く。

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