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7.芽生える想い

市場での時間は、アレクシスにとっても予想以上に心を揺さぶるものだった。


ルシアは、貴族の淑女としてのしなやかさを持ちながらも、自由を求める強い心を持っていた。


彼女といると、まるで風が吹き抜けるような心地よさを感じる。


それは、かつて彼が求めていたものと似ているようで、まったく違うものだった。

(この人となら……。)


そんな考えが、ふと彼の心に浮かんだ。


政略結婚であることに変わりはない。


だが、ただの義務としてではなく、この結婚を自分の意思で受け入れたいと思い始めていた。


「次は、私からあなたを誘おう。」


アレクシスはそう決意し、ルシアの元を訪れることにした。





アレクシスはルシアを訪ね、彼女の邸宅の庭で二人だけの時間を過ごすことにした。


ルシアは読書をしていたが、アレクシスの姿を見つけると顔を上げた。


「アレクシス様?」


「少し、お時間をいただけますか?」


「もちろんよ。」


ルシアが本を閉じると、アレクシスは微かに微笑んだ。



「次の休日、一緒に出かけませんか?」


「どこへ?」


ルシアは興味を持ったように身を乗り出した。


「もうすぐ王宮で開催される舞踏会が開催されます。それ一緒に行きましょう。

私がエスコートします。」



アレクシスの提案に、ルシアは驚いたように目を見開いた。



「舞踏会……?」


「ええ。あなたと正式に夫婦になる前に、婚約者として一緒に社交界に出るのも良い機会でしょう。」


アレクシスは静かに彼女の目を見つめた。


「それに、私があなたと踊りたいのです。」


その言葉に、ルシアは思わず頬を赤らめた。


「……私でいいの?」


「当然です。」


アレクシスは微笑んで彼女を見つめた。


「私は、あなたと共にいる時間を楽しんでいます。

それが義務ではなく、心からの願いだということを、あなたにも知ってほしい。」


ルシアは、彼の真剣な表情を見つめた。


(この人は、私との結婚を義務ではなく、自分の意思で選ぼうとしてくれている……。)


そのことに気づくと、心の奥が温かくなった。



「……ありがとう。嬉しいわ。楽しみにしてる。」


ルシアは微笑み、彼の申し出を受け入れた。






舞踏会当日。


アレクシス・フォン・リューンハイムはルシアをエスコートするために迎えにきて邸の入り口で待っていた。



「お待たせしました。」


ルシアは深い青のドレスをまとい、髪を美しく結い上げていた。


アレクシスは彼女の美しさを見て彼女の姿に目を奪われていた。


「……あなたは、本当に美しい。」


アレクシスは、思わずそう声が漏れていた。


ルシアはその言葉に驚きつつも


「ありがとう。」

と微笑み返した。



彼は黒の礼服を身にまとい、背筋を伸ばした堂々たる姿勢で立っていた。


武人としての鍛え抜かれた体躯は、他の貴族の男たちとは一線を画している。


広い肩幅、引き締まった胸板、しなやかで無駄のない筋肉。


それはただの貴族の嗜みとしての鍛錬ではなく、騎士だけが持つものだった。


ルシアは、その姿を見つめながら、ふと自分の胸が高鳴るのを感じた。


(こんなにも、美しく堂々とした人だったのね……。)


彼と過ごしてきた時間の中で、優雅で冷静な人物だとは思っていた。


だが、こうして改めて見ると、彼が持つ武人としての逞しさが、彼女の目には鮮明に映った。


「あなたと共に行けることが嬉しい。」


アレクシスが静かに微笑み、ルシアの手を取った。


「あなたもとても素敵だわ。」


ルシアはアレクシスに微笑みながらそう伝えた。







煌びやかな王宮の大広間へ到着した二人。


「私は、今夜あなたと踊れることを心から嬉しく思っています。」


アレクシスは、そう言って彼女の手を取った。


「……私も。」


煌めくシャンデリアの下、貴族たちは華やかな装いで談笑し、優雅な音楽が響いていた。


その中央に立つの姿は、圧倒的な存在感を放っていた。


2人の姿を周りの貴族達が見てヒソヒソと話し始めていた。


アレクシスは以前他の女性と舞躍会へよく来ていた。


美男美女で一目を惹く二人であったため、誰もが二人は結婚するものと思っていた。


しかし、結局二人は破局してしまいその後アレクシスはほとんど姿を公に姿を見せることはなかったからである。


それが、今回、ルシアと共に舞躍会に参加したため、周りの貴族達は驚いたのであった。



ルシアもまた、婚約者がいたのだが破局後姿を見せなくなっていたため、そんな二人が登場した事に周りはどうしたものかと思い噂をし始めた。




そんな周囲の目などお構いなくアレクシスとルシアは、二人静かに見つめ合いながら、ルシアは舞踏の輪の中へと足を踏み入れた。



アレクシスの手は、貴族の男らしく優雅な仕草を持ちながらも、剣を知る者の硬さと温かさが混ざり合っていた。


「踊っていただけますか?」


低く落ち着いた声が、ルシアの耳に心地よく響いた。


「……ええ、喜んで。」


彼の手に導かれ、その姿を見て、ルシアの胸が高鳴った。


(こんなにも美しく、堂々とした人が、私の婚約者なのね……。)


「あなたもとても素敵。」


「ありがとう。こんな美しい人のエスコートが出来る喜びを与えてくれて誇りに思うよ。」


と優しく微笑みルシアに手を差し出した。




優雅な音楽が流れ、二人は踊り始めた。


優雅なワルツの旋律が流れる中、二人は踊り始めた。


アレクシスは騎士らしく、迷いのない確かなリードでルシアを誘った。


彼の腕はしっかりと彼女の腰を支え、手のひらは決して強くも弱くもなく、心地よい温かさで包んでいた。


「……意外ね。」


ルシアは、彼の肩にそっと手を添えながら微笑んだ。


「何がですか?」


「あなたがこんなに踊りが上手だなんて。」


「意外ですか?」


アレクシスはわずかに微笑んだ。


「ええ。騎士のあなたが、これほど優雅に踊れるとは思わなかったわ。」


「騎士である前に、私は貴族ですから。礼儀作法の一環として幼い頃から学んでいました。」


彼はルシアの手を引き、くるりと回転させた。


その動作は洗練されていて、まるで彼が生まれながらのダンサーであるかのように思えるほどだった。


だが、彼の体を感じると、やはり戦場を生きる男の強さが伝わってくる。


しなやかに見えて、その腕には確かな筋力が宿っている。


彼が本気を出せば、どれほどの力を持っているのだろう——そんなことが、ふと頭をよぎった。


(……守られているような気がする。)


ルシアは踊りながら、心の奥でそう思った。


アレクシスの腕の中にいると、まるで戦場の嵐の中でも彼が盾となって守ってくれるような気がした。



「……あなたの腕は、とても頼もしいわね。」



思わずこぼれた言葉に、アレクシスは穏やかに微笑んだ。



「そう言っていただけるのは光栄です。」




音楽は続き、二人の足音が滑らかに響く。


まるで時間がゆっくりと流れているかのようだった。



「アレクシス様。」



ルシアはそっと彼を見上げた。



「あなたは、結婚することに迷いはないの?」



彼はその問いに、少し考えた後、静かに答えた。



「迷いがないと言えば嘘になります。」



「……そうよね。。。」


「ええ。しかし、それは誰と結婚するかの問題ではなく、私が夫として、あなたを幸せにできるのかという問題です。」


「え?」


(私を幸せにできるのか。そんなことまで。。)


アレクシスは続けた。


「私は騎士として育ち、戦場での勝利を追い求めてきました。

しかし、夫としての役割は、また別の責任を伴うものです。」


彼はルシアの手を握る力を少しだけ強めた。


「だから、私はあなたを支え、あなたを守ると決めたのです。」


ルシアの胸が熱くなった。


(この人は、本当に私を守ろうとしてくれているんだ……。)


これまでの彼の振る舞いを思い返すと、すべてが腑に落ちた。


彼は言葉少なだったが、いつも彼女を気遣い、確かな信頼を築こうとしていた。


(私も、この人を信じてみよう。)


音楽の最後の一拍が響いた。


アレクシスはルシアを引き寄せ、ダンスの締めくくりとしてそっと彼女を支えた。


その瞬間、ルシアは彼の鼓動を感じた。


それは、自分と同じように、どこか高鳴っているような気がした——。

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