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62. レティシアの断罪

 王都の大広間。

 高い天井からは巨大な旗が垂れ、左右に並ぶ列柱の間に廷臣と騎士たちが居並んでいた。

 玉座は空であり、そこに座すべき国王の姿はない。

 だが、その名を背負う使者が堂々と歩み出て、高らかに声を響かせた。


「――陛下の勅命により、ここに開廷する!」


 その瞬間、広間にざわめきが広がった。

 「勅命」という言葉に、誰もが身を固くする。だが侯爵もヴァルターも、その声音の裏に別の匂いを嗅ぎ取っていた。

 国王はここにいない――その名だけが利用されているのだ。

 背後にあるのはエルデンローゼ公爵家。


 やがて中央に、拘束されたレティシアが引き出された。

 白い裳裾は汚れ、顔にはなお誇り高い笑みを残していた。

 その姿に広間の視線が集まり、ざわめきがさらに膨らむ。


 使者が言葉を重ねる。

「リューンハイム侯爵家の嫡男を亡き者にしようと企て、反乱を引き起こした主犯として、今ここに審議を開く」


 形式ばった響きの中で、侯爵はゆっくりと立ち上がった。

「――陛下の御名を騙り、侯爵家を戦火に巻き込んだ。その罪、ここで暴かずにはおかぬ!」


 その言葉に騎士たちが剣の柄を叩き、同意の声を上げる。

 矛先が完全にレティシアとその背後の公爵家に向けられた瞬間だった。


 ヴァルターも続いた。

「陛下はこの場におられぬ。名を利用したのはエルデンローゼ公爵家の策謀だ。我らはそれをこの目で見届けた!」


 騎士たちの間に「やはり…」というざわめきが広がる。

 恐怖と疑念が混じり合い、矛先は公爵家へと向けられていった。


 さらに、エーベルハルト伯爵家の使者が証を示す。

「伯爵家は侯爵家を陰から支え続けてきた。兄君は穏健派として王国に尽くし、弟君は隣国皇帝国の騎士副団長――皇帝王子の旧友である。


 その発言力は強く、今や皇帝陛下の片腕として政務を担っているほどだ。

 ゆえに今回の襲撃は、単なる侯爵家への反乱ではない。両国の関係を揺るがし、亀裂を増長させる大罪に他ならぬ!」


 廷臣たちは息を呑んだ。

 この戦がもはや「一侯爵家の問題」ではなく、「王国と皇帝国をも揺るがす国難」として突きつけられたのだ。

 その言葉は広間を驚愕に包んだ。

 侯爵家の背後には、隣国をも揺るがす強き繋がりがある。国王といえど軽々しく潰せぬのだ。


 そして決定的な証言が突きつけられる。

「レティシアは、かつて皇帝宮廷においても不評を買っていた。グランツェル帝の公爵家の子息に嫁いだ折、毒を盛ろうとしたことが発覚し、皇国を追放されていたのだ」


 広間にどよめきが走った。

 ――毒婦。

 その言葉が人々の心を刺し、レティシアの姿を異形の影に変えていく。


 侯爵は冷厳に告げた。

「レティシア。汝の罪は明らかだ。陛下を欺き、公爵家に加担し、侯爵家を血に染めた。――これ以上の言い逃れは許さぬ」


 その声に、広間は完全に断罪の色を帯びた。

 廷臣と騎士たちの視線が一斉にレティシアへと突き刺さる。


 彼女は髪を振り乱し、絶叫した。

「どうしてあの女が生き残るの! 私こそ正妻、私こそ未来の侯爵夫人だったのに!」


 その叫びは石壁に反響したが、誰一人として耳を傾ける者はいなかった。

 かつて華やかに玉座の隣を夢見た女は、今や孤独と狂気の影の中に沈んでいた。


 声は悲鳴となり、石壁に虚しく反響する。

 誰一人として、その叫びに耳を傾ける者はいなかった。

 彼女は孤独に沈み、もはや抗う力を失っていた。


 こうして――レティシアの断罪は、王都の廷臣と騎士たちの目前で確定した。


 リューンハイム侯爵が堂々と立ち上がり、広間に声を響かせた。


「我が家はグリューンヴァルト公爵家の策略によって、多くの騎士を失い、多くの血を流した。

 この流血は一人の女の執念では済まされぬ。

 背後にあった公爵家の野望――その罪こそ、今ここで裁かれねばならぬ!」


 廷臣たちは息を呑み、広間は一瞬にして緊張に包まれた。

 やがて勅使が重々しく頷き、宣告する。


「陛下の御名を騙り、王国を乱した咎は余りにも重い。

 グリューンヴァルト公爵家は、今ここに断罪される!」

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