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41. 戦いの幕開け

弓弦が鳴った。

 放たれた矢は一直線にレオンの胸を狙い、夜明け前の静寂を裂いて飛ぶ。


 ――ギィンッ。

 剣が閃き、鋭い音を残して矢は弾かれた。火花が散り、矢じりは地に転がる。

 しかし続けざまに、二の矢、三の矢が暗がりから放たれる。


 レオンは身を捻り、あるいは剣で弾き、あるいは外套で受けながら前へと踏み込む。だがその足取りは確かに重くなり始めていた。

 ――多すぎる。二十を下らぬ伏兵。狙いはただひとつ、ここで自分を葬ること。



 屋敷の窓辺から、その光景を見てしまった私は息を呑んだ。

「レオン……!」

 エドワードが小さな拳を握りしめる。

「叔父上……!」


 ただ祈るしかない無力さに胸が痛む。握る短剣の柄が、冷たく震えた。



 一歩踏み込んだ瞬間、矢が脇腹を掠めた。鮮血が外套を染める。

「くっ……!」

 膝を折りかけながらも、剣を支えに立ち上がる。

 ――まだ倒れるわけにはいかない。この屋敷の中に、守るべき者たちがいる。


 その時。


 空から甲高い鳴き声が降り注いだ。

「キュウウゥ!」

 朝霧を切り裂いて舞い降りたのは、一羽の鷹。鋭い翼で敵の弓を叩き落とし、放とうとした矢を逸らす。さらに二羽、三羽――闇を裂く影が頭上に現れ、襲撃者たちの間に混乱を生む。


「……お前たちか」

 レオンの唇に、わずかな笑みが刻まれる。

 ――この屋敷を守るために、彼らが空から舞い降りてきたのだ。


 鷹の群れが舞うということは、援軍が近くまで迫っている証。

 侯爵家の血に連なる者だけが知る、密かな合図でもある。


「……もう少しだ。そうすれば、仲間が来る」

 心の奥でその言葉を噛みしめる。思い浮かぶのは、幾度も戦場を共に駆け抜けた騎士たちの姿。

 ――あの旗の下に集った、忠誠を誓う者たち。彼らがこの森を抜け、必ずここへ駆けつけてくれる。



 敵は混乱し、陣形が一瞬崩れる。だが完全に止められるわけではない。矢はなおも雨のように放たれ、鷹の爪が阻む隙間を縫って飛ぶ。


 レオンの肩にさらに一本の矢が掠めた。赤い血が滴り落ちる。

 それでも彼は倒れぬ。剣を振るい、迫り来る敵の刃をはじき返す。

「ここは……通さん!」


 鷹が旋回し、甲高い声で鳴きながら空を舞う。その声は、遠くにいる仲間へと伝える合図でもあった。


 ――援軍はすぐそこまで来ている。

 レオンはその確信を胸に、なおも剣を握りしめた。

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