3. 二人だけの時間
それから数ヶ月の間、ルシアとアレクシスは何度も会い、話を重ねた。
最初は、王宮の庭園を散歩しながら、何気ない話をすることから始まった。
「あなたの趣味は?」
ルシアの問いに、アレクシスは少し考えてから答えた。
「狩猟ですね。馬に乗るのも好きですが、森で静かに獲物を狙う時間は落ち着くのです。」
「私も馬は好きです。でも、狩猟はしたことがありません。」
「それなら、今度一緒に行きましょうか?」
アレクシスの提案に、ルシアは微笑んだ。
「それは興味深いわね。ぜひお願いします。」
こうして、二人は社交の場だけでなく、二人だけの時間を持つようになった。
数日後、アレクシスの領地にある広大な森へと向かった。
アレクシスは、弓を携えながら馬を駆る姿が堂に入っていた。
ルシアはその姿を眺めながら、少し意地悪そうに微笑んだ。
「ずいぶんと慣れているのね。」
「まあね。幼い頃から父に鍛えられましたから。」
「……じゃあ、私にも弓を教えてくれる?」
ルシアの言葉に、アレクシスは驚いた表情を浮かべた。
「貴族の淑女が弓を扱うのですか?」
「女性が弓を扱ってはいけない理由は?」
ルシアが小さく微笑むと、アレクシスは一瞬驚き、そして笑った。
「分かりました。では、あなたにも弓の使い方を教えましょう。」
アレクシスは、ルシアの言葉を聞いた瞬間、驚きとともに、彼女への印象が変わるのを感じた。
貴族の令嬢は、一般的に控えめで、優雅で、家庭を守る存在とされる。彼女も例外ではないと思っていた。
しかし、彼女はそうではなかった。
「女性が弓を扱ってはいけない理由は?」
その言葉には、自らの意思を持ち、自分の枠を超えようとする強さがあった。
アレクシスは、過去に憧れた女性、レティシアを思い出した。
彼女は美しく、気品に満ちていたが、自分の運命を受け入れることしかできなかった。
それが貴族の女性の「あるべき姿」だったからだ。
だが、ルシアは違った。
彼女は型にはまることを良しとせず、自らの意志で世界を広げようとする。
弓を扱うということが、単なる好奇心だけではないことを、彼はすぐに理解した。
それは、彼女自身が自由でありたいという証だった。
(この人は、今までの知っている貴族の娘ではない何かを持っているか)
アレクシスは、彼女の強さに魅力を感じた。
「分かりました。では、あなたにも弓の使い方を教えましょう。」
そう答えながら、彼はふと気づいた。
——自分は今、彼女の笑顔を見たいと思っている。
それは、婚約者としての義務でも、形式的な関係でもなかった。
ただ純粋に、彼女がどんな風に弓を引くのかを見てみたいと思ったのだ。
彼女に対する興味が、静かに芽生えていた。