表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/67

15.喜びの瞬間

穏やかな日々が続き、ルシアの出産の日がついに訪れた。


暖炉の火が灯された温かい寝室で、ルシアは汗を滲ませながら、新しい命をこの世に迎えた。


「……おめでとうございます、奥様。男の子です。」


侍女がそっと彼女に赤ん坊を抱かせると、ルシアの瞳から涙が溢れた。


「この子が……私たちの……。」


小さな命は、ルシアの胸の上で静かに眠っていた。

温かくて、愛おしくて、胸がいっぱいになる。


「ルシア!」


扉が開き、アレクシスが駆け込んできた。


戦場でも決して動揺を見せなかった男が、今は信じられないほど慌てた表情をしている。


「あなた……来てくれたのね。」


「当然だ。……ルシア、大丈夫か?」


アレクシスは息を整えながら、彼女の隣に座り、ルシアの手を優しく握った。


彼の大きくて温かい手が、彼女を優しく包み込む。


「……ルシア、本当にありがとう。」


彼の言葉に、ルシアは微笑み、赤ん坊をそっと抱き上げた。


「あなたも、抱いてみる?」


アレクシスは一瞬戸惑い、しかし静かに赤ん坊を腕に受け取った。


戦場で剣を振るう強靭な腕が、今は小さな命を優しく包み込んでいる。


赤ん坊は彼の胸の中で小さなあくびをし、ゆっくりと目を開けた。


「……小さいな。」


アレクシスの声は、いつになく優しい。


「でも、力強いですね。握力が……こんなにも。」


赤ん坊は彼の指をぎゅっと握り、まるで「この腕の中が安心できる」とでも言うように、すぐに再び目を閉じた。


その姿を見つめながら、アレクシスの表情がふと和らぐ。


「ルシア……この子の名前は?」


「あなたがつけてくださらない?」


ルシアが微笑みながら言うと、アレクシスはしばらく考え、赤ん坊の顔を見つめた。


「……エドワード。強く、誇り高い男になるように。」


「エドワード……素敵な名前ね。」


ルシアが微笑むと、赤ん坊が小さく笑ったように見えた。


「ふふっ……ほら、エドワードも気に入ったみたい。」


「そうか……。」


アレクシスは静かに微笑み、そっと赤ん坊の額に口づけた。


「エドワード、これからはお前を守る。ルシアと共に——私の家族として。」


---




エドワードが生まれてから、アレクシスとルシアの関係はより深くなっていった。


ある日の午後、アレクシスは書斎で領地の報告書を読んでいた。

そこへ、小さな声が聞こえてきた。


「アレクシス様、エドワードがあなたを探していたわ。」


ルシアが笑いながら言うと、エドワードを抱いた乳母が後ろからついてきた。


「アーアー」


「エドワード。」


まだ幼いながらも、エドワードは父親の姿を見つけると、嬉しそうに両手を伸ばした。


アレクシスは少し驚いた後、すぐに席を立ち、彼を抱き上げた。


「どうした?」


エドワードは無邪気に笑いながら、父の頬に小さな手を伸ばした。


「アウー!」


「ふっ……どうやら、父上に会いたかったみたいですね。」


ルシアが微笑みながら言うと、アレクシスも小さく笑った。


「お前は甘えん坊だな。」


「ふふ、あなたが大好きだからよ。」


ルシアが微笑むと、アレクシスは少し照れくさそうにエドワードの頭を撫でた。


「私も、エドワードのことが大好きだよ。」


赤ん坊のエドワードは、満足げに父の胸に顔を埋めた。


そんな二人の姿を見て、ルシアの胸は温かくなった。


(とても幸せだわ……。)


「ねえ、アレクシス様。」


「なんだ?」


「私たち、本当に幸せね。」


アレクシスはルシアを見つめ、静かに微笑んだ。


「……ああ。お前と、エドワードがいる。それだけで十分だ。」


「私も、あなたとエドワードがいてくれるだけで、幸せよ。」


アレクシスは何も言わず、ルシアの手を取り、そっと指を絡めた。


「これからも、一緒に歩んでいこう。」


「ええ。」


二人の手が絡まり、小さな家族の絆が、さらに深まる瞬間だった。






ある夜——。


エドワードが眠った後、ルシアとアレクシスは庭園を歩いていた。


夜風が心地よく、二人は自然と手を繋いでいた。


「あなたと結婚して、本当に良かった。」


ルシアが微笑むと、アレクシスは静かに彼女を見つめた。


「ルシア。」


「なあに?」


「これからも、私の隣にいてくれるか?」


彼の言葉に、ルシアは優しく微笑み、彼の腕にそっと寄り添った。


「もちろんよ。」


アレクシスは満足げに微笑み、彼女の額に優しく口づけた。


「ありがとう。」


夜空の下、二人は変わらぬ愛を確かめ合うように、静かに寄り添っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ