12.穏やかな愛の誓い
アレクシスは、そっとルシアの髪を撫でた。
「緊張していますか?」
「……少し。」
彼女が小さく呟くと、アレクシスは微かに微笑んだ。
「大丈夫ですよ。」
「……」
「あなたを、無理に抱いたりしません。」
その言葉に、ルシアの胸が熱くなる。
(この人は……私を、本当に大切にしようとしてくれているのね。)
アレクシスは彼女の肩を引き寄せ、そっと額に口づけた。
「……あなたが私を受け入れてくれるまで、私は待ちます。」
ルシアは、彼の穏やかな瞳を見つめた。
そして、静かに微笑む。
「……ありがとう。アレクシス様。」
彼は満足げに微笑み、そっと彼女を抱きしめた。
二人の心が、確かに結びついた瞬間だった。
アレクシスは、ルシアをそっと抱き寄せると、彼女の頬に指を滑らせながら微笑んだ。
ルシアの鼓動が早まるのを感じたが、それでも彼の温もりの中で不思議と安心感を覚えていた。
「……あなたのことを大切にします。」
彼の囁きに、ルシアは静かに瞳を閉じた。
(この人となら……。)
アレクシスの唇がそっとルシアの額に触れ、次第に深く求め合うように、彼らは初めての夜を共に過ごした。
彼は終始、彼女を労わりながら優しく触れ、痛みを最小限にしようと努めた。
ルシアもまた、彼のぬくもりを受け入れながら、彼への信頼が深まっていくのを感じていた。
夜が更けるまで、二人は互いの存在を確かめるように抱き合った。
翌朝、ルシアは微睡みの中で、身体を包む心地よい温もりを感じた。
薄く目を開けると、アレクシスの腕の中にすっぽりと収まっていた。
(あ……。)
昨夜の出来事が脳裏に浮かび、頬が熱くなる。
彼女がそっと動こうとすると、アレクシスの腕が少しだけ力を込めた。
「……もう少し、こうしていても?」
低く響く彼の声に、ルシアは驚いた。
彼は目を閉じたまま、彼女を抱きしめるようにしていた。
「え……。」
「あなたが逃げようとしている気がしたので。」
「……そ、そんなこと……!」
ルシアは慌てて否定しようとしたが、アレクシスは穏やかに微笑んだまま、彼女の髪をそっと撫でた。
「身体は……大丈夫ですか?」
「……え?」
「痛くないですか?」
アレクシスの優しい気遣いに、ルシアは思わず胸が温かくなった。
「……少し、違和感はありますけど、大丈夫です。」
彼女が小さく呟くと、アレクシスは安堵したように微笑んだ。
「よかった。でも、今日は無理をしないでください。何かあれば、すぐに言ってください。」
「……あなたは、本当に優しいのね。」
ルシアがぽつりと呟くと、アレクシスは少しだけ眉を上げた。
「……そう見えますか?」
「ええ。」
「それは、あなただからですよ。」
そう言って、彼はそっと彼女の指を絡めた。
(この人は……本当に、私を大切にしてくれている。)
ルシアは、胸の中に広がる温かい感情を大切に抱きながら、アレクシスの腕の中で静かに微笑んだ。
その後も、二人は寝室でゆっくりと過ごした。
朝食を済ませた後も、アレクシスはルシアに無理をさせないよう、昼間は読書や散歩を一緒に楽しんだ。
そして夜になると、再び彼はルシアを優しく抱きしめた。
「……あなたを抱くのは、今夜が最後ではないのですよ。」
彼の囁きに、ルシアの胸が高鳴った。
「そ、そんなこと、分かっています……!」
彼は微笑みながら、そっと彼女の唇に口づけをした。
「あなたが求めてくれるまで、私は待ちます。」
彼のその言葉に、ルシアはまたしても胸を締め付けられるような感情を抱いた。
(この人は、私のことをこんなにも大切にしてくれているのに……私は何もできていない気がする。)
そんな気持ちが湧き上がる。
(もっと、私も彼のことを知りたいし、大切にしたい。)
ルシアは、少しだけ勇気を出して、そっと彼の手を握り返した。
「……私も、あなたを大切にしたいわ。」
アレクシスは少し驚いたように彼女を見た後、優しく微笑んだ。
「ありがとう、ルシア。」
その夜も、二人は互いを求め合いながら、穏やかに過ごした。
その後の一週間、二人はほとんど寝室で過ごしていた。
朝は寄り添って目覚め、日中は庭を散歩したり、共に食事を取ったり、静かな読書の時間を持った。
アレクシスは戦場に立つ騎士であるにもかかわらず、ルシアの前では穏やかで優しかった。
「今日は、一緒に馬に乗ってみませんか?」
「私が……?」
「ええ。私が手を引きますので。」
そう言って、彼はルシアの手を取る。
二人乗りで馬を走らせながら、ルシアは彼の背中の広さと温かさを感じた。
(ああ、私、本当に彼と結婚したんだ……。)
穏やかで、優しい日々。
それは、噂をしていた貴族たちが思いもしなかったような、確かな幸せだった。
そして、
ルシアは、ようやく屋敷の者たちと顔を合わせるようになった。
「奥様、少し……お痩せになりましたね。」
侍女が控えめに微笑みながら言うと、ルシアは恥ずかしそうに微笑んだ。
(だって、毎晩……。)
アレクシスは、そんな彼女の頬の赤らみを見て、口元を緩める。
「少し休ませすぎましたかね?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
彼の意地悪な微笑みに、ルシアはますます赤くなった。
しかし、それもまた甘やかな記憶の一つだった。
ある夜、ルシアはアレクシスの胸に顔を埋めながら、そっと呟いた。
「……ずっと、こうしていられたらいいわね。」
アレクシスは彼女の髪を優しく撫でた。
「ええ。私も、あなたとこうしている時間が好きです。」
「本当……?」
「ええ。だから、あなたをもっと知りたい。」
ルシアは彼の言葉に驚き、そして微笑んだ。
(私も、もっとあなたを知りたい。)
そう思いながら、彼の手をそっと握る。
「これからも、ずっと一緒ね。」
「もちろんです、ルシア。」
二人は静かに微笑み合い、夜はまた甘く深まっていった——。