10. 祝宴の華やかさの裏で
王宮の大広間は、豪奢なシャンデリアの光に照らされ、貴族たちの笑い声と祝福の言葉が飛び交っていた。
華麗な衣装をまとった貴族たちは、主賓であるアレクシス・フォン・リューンハイムとルシア・フォン・エーベルハルトの新たな門出を祝っていた。
しかし、その祝福の裏には、祝宴の華やかさに似つかわしくない静かな囁きが交差していた。
「この二人が結婚するとは……」
貴族たちは、ひそひそとささやき合いながら、ルシアとアレクシスを遠巻きに観察していた。
「しかし、まさかこの二人が結ばれることになるとは……」
「そうよね……それぞれ、別の人と結婚すると思っていたのに。」
「アレクシス様とレティシア様、ルシア様とフィリップ様……彼らの仲睦まじい姿を見てきたのに。」
「まるで……**"失意の二人が行き場をなくして結婚したように"**見えるわね。」
「でも、彼らは決して悪い組み合わせではないわ。」
「確かに。アレクシス様の冷静さとルシア様の聡明さ……互いに尊重し合える関係になるかもしれないわね。」
「それがお互い愛になると良いわね。」
「そうね……。」
貴族たちは、華やかに踊る二人を眺めながら思い思いの気持ちを囁き合った。
一方で、アレクシスの過去を知る者たちは、レティシアのことを思い出さずにはいられなかった。
「彼はレティシア様を本気で愛していたはずよね?」
「ええ、二人が並ぶ姿はとても美しかった。まさに理想的な恋人同士だったわ。」
「でも、レティシア様は隣国の貴族へ嫁がれた……爵位も高く、王家の関係者だったから仕方がなかったのよ。」
「それに、彼女自身も希望していたと聞くわ。」
「そうよね……。リューンハイム侯爵家の跡継ぎではあるけれど、彼よりも爵位の高い家に嫁ぐ方が彼女にとって有利だったのよ。」
「それを彼が許したということよね?」
「許したというより……"受け入れるしかなかった"のでしょう。」
「彼がそれを本当に割り切れたのかしら……?」
「さあ……?」
ワインを傾けながら、貴族たちはアレクシスの様子を探るように見つめた。
彼は優雅にルシアと踊っていたが、その瞳の奥には、何かを隠しているように見えた。
一方、別の一角では、ルシアの過去についての噂が交わされていた。
「それにしても……ルシア様も、あんなにフィリップ様とお似合いだったのに。」
「ええ、フィリップ様は彼女をとても大切にしていたわ。あのまま結婚すると思っていたのに……。」
「でも、彼が浮気をしてしまったんでしょう?」
「それだけならまだしも、その女性が妊娠してしまったのよ。」
「隣国の高貴な家の令嬢だったわよね?」
「ええ、爵位も高く、隣国との関係を考えれば……彼は責任を取るしかなかった。」
「つまり……ルシア様は、愛する人に裏切られ、望まない別れを経験したということね。」
「彼女は泣いていたと聞いたわ。」
「でも、社交界に復帰した時には、何事もなかったように振る舞っていた……。」
「彼女は強いのよ。」
「でも……心の奥では、まだフィリップ様のことを思っているのかもしれないわね。」
そう言いながら、貴族たちは、ルシアの表情を見つめた。
彼女はアレクシスと踊りながら、微笑んでいる。
しかし、その微笑みは本当に幸せなものなのか、それともただの仮面なのか——誰にも分からなかった。