1. 貴族の娘としての運命
「ルシア、お前もそろそろ結婚を考えるべきだ。」
父であるエーベルハルト伯爵がそう告げたとき、ルシア・フォン・エーベルハルトは25歳になっていた。
この時代の貴族の女性にとって、25歳は結婚には遅い年齢だった。
本来であれば、すでに子供を数人抱えていてもおかしくはない。
「相手はリューンハイム侯爵の長男、アレクシス・フォン・リューンハイムだ。」
父の言葉に、ルシアは微かに眉を寄せた。
アレクシス・フォン・リューンハイム。
彼の名は、王都でもよく知られている。
優れた剣士であり、知性に富み、社交界でも評判の高い貴族の青年だった。
アレクシスは見た目麗しい男性であったため、多くの女性に人気だった。
ルシアの心には、少しの迷いがあった。
それは、過去の恋が原因だった。
かつて、彼女は一人の青年を愛していた。
しかし、その恋は実ることなく終わりを迎えた。
アレクシスもまた彼が憧れた女性——レティシア・フォン・グリューンヴァルトと言う女性と仲睦まじい姿をを夜会などでよく見かけた。
2人は美男美女といった感じで常に人目についていた。
しかし、レティシアは、別の男性と結婚してしまったのだ。
そんな二人が「家のため」に結婚する。
境遇はよく似た二人だ。
お互い年齢のことを考えても親が何とか結婚して欲しいと思っていることも察する。
「家のため」
いや、それだけではない。
ルシアも友達は皆結婚してしまい、もうすでに子供がいる友達もいる。
実際、いつまででも未婚でいられるわけでもなく、年齢も近づいてくると焦る気持ちもあった。
「これが運命かも。でも、お話してみないと人となりが分からない。不安もあるわ。」
そう思えば、何も迷うことはない。
「……お会いしてみます。」
ルシアはそう告げた。