第7話、ひどいです……!まだ根に持ってますからね!
意識を戻したアンドルフ様は、その後すぐに医務室へ運ばれた。
担架での運ばれざまに、ナースの方が色々と聞いてきて「吐かせたので大丈夫です。毒物の心配はありません!」と自信満々に言ったら、「吐物が気管に入ったり、症状が悪化する危険性があるので今後は絶対にやらないでください。良いですね?」とめちゃくちゃ叱られてしまった。悲しい。
……今回の事件。非公式とはいえ、お屋敷にわざわざ足を運んだアンドルフ様が毒殺されかけた、となれば結構な大事だ。
伯爵と公爵では力の差は歴然。下手をすれば失脚の可能性も大いにある。それほどの一大事。なので現場であるお茶会室では、当然のように犯人探しが行われた。
そして、まず疑われたのは、ティーポットやミルクポットなどを運んだメイドのメアリーさんと、紅茶を注いだ同じくメイドのレイチェルさんだった。
マルドス様は、その金色の髪を振り乱して2人を問い詰めた。
「貴様らがやったのだろう!?どうしてくれるんだ!このままじゃ伯爵家は衰退の道を進む!!」
「……っ、わたくしは、何もやっておりません!!」
「そうですっ!あたくしもやっていません!誤解です御主人様っ!!」
わぁわぁと言い争っている3人を見ていると、だんだん私は嫌になってきた。
誰かが喧嘩しているのを黙って見ているのはあまり気持ちの良いものではない。
さっさと終わらせてしまおう……と、私が話に入ろうとした、そのとき。
「……っ!あ、あの娘ですっ、あの小娘がやったに違いありませんわ!!」
そう言ってメアリーさんは、ある一人のメイドを――私を指さした。
私は数秒固まった。多分、他のメイドや執事たちも。
「いっいやいやいやいや!何言ってるんですか!」
必死で反論する私をメアリーさんはキッと睨みつけながら、更に言い募る。
「わたくしは見たのです!その娘が怪しい薬を盛ったのを!!信じてくださいまし、御主人様!!」
いや、この服を!服を見てよ!お掃除メイドのエプロン付きなんですけど!?ついさっき来たばっかりですって。
流石にこれは信じないだろう……と思い、マルドス様を縋るような思いで見た。が、
「ふむ。たしかに怪しいな。……顔が」
それを聞いた私は、失神しそうになった。
(顔は関係ありませんよね!?今さらっと人格否定しましたか!?御主人様!!)
「はいっ!もう顔が、いやいやしいそれでございます!」
(ちょっとぉ!?もう泣きたくなってきたんですが!自分で言うのも何だけど、それなりに美人だと思いますよ!?私は!!)
パニックになっているのか何なのか、さっきから話がズレていっている気がする。いや、「気がする」じゃない。「なっている」。
なので私は、大声で止めに入った。
「ちょっとっ、ちょっと待ってください!他に原因があるんです!」
「なに!?」
「はぁ!?」
その瞬間2人が詰め寄ってきた。そして心なしか他の皆も。先ほどとは違う反応に、若干のけぞりながら私は頷く。
「はい。ですがその前に、少し待ってください」
不満そうに押し黙る二人を前に、私は目線をテーブルに――正確には、アンドルフ様が飲んだティーカップに向けた。
――そして、それを一気に飲む。
「「「「!?」」」」
皆は慌てたように口をパクパクさせた。少し遅れて、マルドス様は、悲鳴に近い声で叫ぶ。
「なっ……!何をしているんだ!何も死のうとは……!」
何やら勘違いをされているので、私はすぐさま否定した。
「誤解です!死のうとしたわけではありません。……見てください。私の腕には、発疹もありませんし、意識もしっかりしています」
「本当ですね……」
メアリーさんが頷いた。
「……い、いや!まだわからないぞ!アンドルフ様が倒れたのは、少し時間が経ってからだったからなぁ!」
まだ毒殺の可能性を捨てきれないアンドルフ様に、私は手で制す。
「でしたら、少し待てばわかるものです。今はそれよりも……この紅茶には、毒も何も入っていないということをお伝えしたかったのです」
「なっ……!だったら、なぜ……!」
「そもそも、アンドルフ様が飲んだのは、すでに毒見した後の紅茶。毒を入れる隙などなかったのでございます」
「確かに……」
「なので、考えられることは唯一つ。なぜアンドルフ様が倒れたのかというと……アンドルフ様は……」
「いいから、早く言え!」
「そうですよ!もったいぶらないでください!」
早く教えろとうるさいので、少し声を張り上げて。
「ああ!もうっ、一旦少し黙ってください!」
私はコホンと咳払いをして話し始めた。
「ズバリですね……アンドルフ様は、ご病気でも毒物を飲まれたわけでもなく、ただ1つの体質……
『アレルギー』だったんです」