第6話、まさかの……
私は必死に足を動かして、お茶会が行われているお屋敷の3階へ向かった。
すると、なにやらいい香りがしてくる。
甘いものが大好きな私は、その匂いにうっとりしながらも、足は止めない。なぜなら……
(もしかしたら、事件!?毒殺未遂事件とかですか!?)
本の読みすぎで、妄想が進み、少々ハイになってしまっていたからだった。
わかってますとも、馬鹿げてることぐらい。少し声が聞こえたからって、そんな事件がポンポン起きるわけがないって。だけど、やっぱり人間、気になることはあると思うんだよ!!
そんな風に心で言い訳をしていると、どんどん香りは強くなってくる。そして、だんだん部屋が見えてきた。
お茶会室の観音開きの立派な扉が開け放たれ、その前には数人のメイドがオロオロしていた。
その中に見知った顔――アリスを見つけ、私はそこへ迷いなく突っ込んでいく。
「アリス!」
「えっ……は!?エミリー!?」
私はアリスに抱きつくと、上目遣いで見上げた。
そこには案の定というか、怒った顔のアリスがいた。
「こら!エミリー!なんであなたがここにいるのっ」
「ご、ごめん。なんだか悲鳴が聞こえたから……」
私のこの言葉にアリスは「はっ」と声を上げると、視線をお茶会室の中へ移した。
そして、とたんにその顔は青白くなる。
「アリス?どうし……」
つられて部屋の中を見た私は、ヒュッと喉を鳴らす。
そこには、立派な服を着た貴公子様が真っ青な顔でえずいており、そのそばで同じく御貴族様の方がオロオロしていた。
近くには血の気を失った執事が数名。そしてメイドが二人。
(まさか、本当に……毒殺が?)
先程は不謹慎ながらも少しわくわくしていた私だが、流石に現実ともなれば話が違ってくる。
だけど、それよりも、この方がとても高貴な方で、絶対に何があっても死なせてはいけないことはわかった。
だからこう叫んだ。
「みなさん!!ボーっとしてないで、早く!助けないと!!」
私の声にハッとした使用人達が、ショックだからかぎこちなくも行動を起こした。
そして、当然私も動き出す。
まず、状況確認から。
「ねぇアリス」
アリスは掠れた声で、「なに……」と言った。
「今更だけど、一体何があったの?」
そんな私に、頭を錆びついたように動かしながら、アリスは震える唇からポツリポツリと話し始めた。
――アリスいわく。始めは普通にお茶会が始まったようだ。
御主人様やアンドルフ様は仲良く談笑をされ、その合間にメイドや執事達が紅茶を注いでいく。
そこで、アリスは違和感を覚えた。
「なんだか……え、エドワード君が、少し緊張しているようだったの」
私はおかしく思わなかった。だって、それはそうだろう。執事のエドワード君は、最近入ってきたばかりの新入りだ。慣れないお屋敷生活だけでも大変だろうに、貴族同士のお茶会ともなれば、緊張するのも仕方がない。
しかし私がそう言うと、アリスはフルフルと首を振った。
「違うっ!そういう緊張の仕方じゃない!……っ、なんだか……そう!隠し事をしているときのような、やましいことをしているときのような……そんな感じで」
なるほど。私は顎に手を当てた。
アリスのただの勘違いかもしれない。エドワード君はただ緊張していただけかもしれない。でも、それにしては……アリスは必死だったのだ。だから、少し心に引っかかった。
しかし、その後は特に異変もなく会は進められた。
――アンドルフ様が毒見をされた紅茶に口を付けるまでは。
なんでも、アンドルフ様が紅茶を飲んだ少し経った後――10分程度だったそう――突然アンドルフ様は倒れ、真っ青な顔で喉をかきむしりだしたそうだ。
「……なんだかおかしくない?」
私はその話を聞き終わった後、迷わず室内に入った。
アリスの止める声が聞こえたが、今はそれどころではない。
「失礼します」
そう言って私は床に膝をつけると、倒れている御貴族様――話の流れ的にアンドルフ様だろう――を起こし、迷うことなく袖を巻き上げる。
――その白い腕には、赤い発疹が浮かび上がっていた。
「ぎゃぁ!!」
すると、もう一人の御貴族様が悲鳴を上げた。多分、私達の御主人様――マルドス様だろう。
彼は助けるどころかアンドルフ様と距離を取った。まぁ、それもそうでしょうね。
対する私は恐ろしく冷静に判断した。
(赤い発疹、さらに呼吸困難。……ほぼ、確定した)
あとはどう対処するかだ。
アンドロフ様が倒れた原因。それはわかった。でも、もしもということもある。
本当は良くないのだが……。私は、アンドルフ様の喉に手を突っ込み、その奥を刺激し、吐かせた。
しかし胃液が少し出るだけで、顔色は戻らない。
だったら……私は彼のポケットを探ってみた。――あった。
私はそれを躊躇なくアンドロフ様の太ももに刺し、少し様子を見た。
彼はしばらくの間えずいたかと思うと、顔を上げた。
その顔はまだ少しやつれていたが、先程よりも体調はマシになったようだ。
「大丈夫ですか?」
そう訊くと、アンドルフ様はまだ焦点の合っていない目で「うん」と頷いた。
※今回は完全ファンタジーなので、もし誰かが誤飲したり中毒症状を起こしたとしても、良くないときもあるので無理に吐かせようとしないでください。まずは医師の指示に従いましょう。




