第2話、わざとじゃないけど秘密を聞いちゃう重要人物のメイド
「ふー、危なかった」
よかった、逃げ足が早くて。
そこでふと我に返った私は、今更ながら辺りを見回す。
……そして、重大なことに気がついた。
「あれぇ、ここどこだ?」
そう、迷子になったのだ。
間抜けな声を出しながらも、内心かなり焦っていた。
――なぜなら、私がいたのは廊下。しかも豪華絢爛な装飾が施された、だ。
ということは、ここはそれなりの身分がある人が通る場所だということ。
そして極めつけは、私はお掃除メイド。御貴族様と会ったことがない。それイコール……
「御主人様やアンドルフ様と会ったら、間違いなく、ジ・エンドする……!」
頭を抱えながら私は、藁にも縋る思いで、自分の位置状況を得ようとする。
幸いにも掃除のためにこういうところには来たことがある。
しかし、神は残酷である。ここは見覚えない廊下だった。
「ど、どどどどどうしよう……!」
オロオロしていると、廊下の方から扉の開く音がした。
(ヒイィィィ!!)
とっさに私はキンギラギンの柱に身を隠す。
そして近づく足音。
なにかの話し声。
(こ、これって……!)
――わざとじゃないけど秘密を聞いちゃう重要人物のメイドみたい!
そんな物語みたいなことは無いと知りながらも、私はつい期待してしまう。
(なんだろう、どんなことを私は聞いちゃうの!?ちょっと怖いけど、ワクワクする!!)
無駄な期待をしながら、私が柱の陰で両手を組んでいると、少しだが誰かの話し声が聞こえてきた。
「……では…の……だな?」
「はい……でしょう…すれ……けです」
「…はっは!……もついに……だな!いい気味……だ!」
なになに?と私は少し身を柱から出す。
(なんかまじで危ない系じゃなかった……?)
「いい気味」なんて言葉も出てきたが……
ほんの少しの好奇心だけで聞いてしまった私は、思ったよりもその重大さに今更ながら真っ青になる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)
そうこうしているうちに、また話し声が聞こえてくる。
「ええ……ですね、…様は」
「本当に……だ!もう……すれば……ものの!」
聞きたくないと思いながらも聞いてしまう。
私が更に身を乗り出したところで、ひときわ大きい声が響いた。
「これですべて私のものだ!ざまぁみろ!
……――アンドルフめ!!」
その瞬間、私はつい「あっ」と声を出してしまった。
慌てて口をふさぐが、もう遅い。
「!?……今、なにか声がしなかったか?」
「はい。確かに『あっ』という声が……」
やばい、終わった。口封じに殺されるんだ。
だんだん近づいてくる足音に絶望しながら私は覚悟する。
(ママ、パパ、私を育ててくれてありがとう……こんな馬鹿な娘でごめ……)
――その時だった。
「パリンッ!」
なにかの音がして、たった一瞬、足音が止まった。
そして、私はそれをチャンスと見て廊下に飛び出す。
(お願い!どうかバレませんように!!)
そのまま無我夢中で逃げると、いつのまにか私は見知った通路にいた。
追いかけては来なかった。