第17話、もう帰っていいですか?
「「「おかえりなさいませ、坊ちゃま」」」
お屋敷に入れば、使用人たちが通路の脇に並んで、一斉に声を出した。
うわぁ!本当に出迎えってあるんだ!……いや、確かに今まで伯爵家に仕えていたけれど、玄関前の掃除は担当していなかったからわからなかったのよ。
いや、それよりも……
(坊ちゃま……!アンドルフ様って、坊ちゃまって呼ばれてたのか!)
まぁ、貴族にでもなれば、『坊ちゃま』と呼ばれるのは普通になるかもしれない。でも……あの伯爵令息にならまだしも、アンドルフ様に、『坊ちゃま』……。っ、似合わない!失礼だけど、似合わないっ!
私が少し笑いそうになったのがわかったのか、アンドルフ様が睨んできた。
すると、そんなわたしたちの様子に気づいていないのか、たくさんの使用人の中でも、一番偉そうな御高齢の執事が前に出てきた。
……なんだか、白い髭を蓄えて、燕尾服みたいな執事服を着てるって……なぜかはわからないけど、とても偉そうと感じてしまう。
前に出てきた執事は、そのシワを最大限に活用して、好々爺の顔を浮かべた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま。じいやは貴方様のお帰りを、待ち望んでおりました」
「ぶっ」
まさかの第二波……。しかもじいや!!こらえきれなくて吹いてしまった私を、執事とアンドルフ様がジロリと睨んだ。
……アンドルフ様、耳が赤くなっておいでですよ?
「……ゴッホン。えー、じ、じいや。僕も、そなたに会いたかった」
「えぇ、えぇ、貴方様は昔から、じいやっ子でしたからねぇ。……それで、その娘はどちら様で?」
じいやっ子なんて言葉、初めて聞いた。アンドルフ様の、まさかの裏情報である。……まぁ、その話は一旦おいておいて。好々爺だったじいやが、最後の一言で剣呑に目を細めた。
アンドルフ様は、それを予想していたかのように、急に真面目な顔になった。
「少し事情があってね……彼女、エミリー・ワトンソンを、僕の専属メイドにしようと思って」
「ほうほう……んんっ!?」
その瞬間、じいやは目をカッと見開いて、アンドルフ様に詰め寄った。
「専属メイド!?坊ちゃま、彼女を、専属メイドになされるつもりですかっ!」
「あ、あぁ……興味を惹かれてね」
若干引き気味になって答えるアンドルフ様に、じいやはおいおいと泣き始めた。おそらく、泣き真似であろうが。
「なんということでしょうっ!私の、かわいいかわいい坊ちゃまが、こんな娘に興味を惹かれるなどと!じいやは、専属メイドをいつまで経っても雇われない坊ちゃまに代わって、このように候補をリストアップしたのでございますぞ!!」
「え、えぇ……そこまでしなくても」
「何を仰るかっ!!貴方様のためを思って、性格、家柄、技術、容姿においてまで、完璧な淑女を選びましたのに!!……その結果が、この小娘でございますか!?少し顔はいいかもしれませんが、じいやにはわかります!きっと、いいえ絶対に、我が公爵家に混沌の渦を巻き起こす存在でありますぞっっっ!!!」
世話係なのかなんなのかわからないが、じいやにアンドルフ様は刃向かえないようだ。少し押され気味になっている。
……というか、私って、そんなに悪人顔かね?なんです?邪悪なオーラとか出ちゃってますか?じゃなかったら、何なんですか?勝手につれてこられて、容姿を貶されるなんて。不憫すぎやしません?……これで2回目ですよ?泣いていいですか?
じいやの追求は、その後もしばらく続いた。
……私がこの家に受け入れられるのは、まだしばらくかかりそうです。




