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約束  作者: 黄昏
6/13

6

 遊園地で遊んで一週間と少しが過ぎ去った。

 場所は図書室。

 竜樹は教科書やノートと睨めっこするように様々な表情を浮かべる。

 それは彼だけのことではない。他の生徒達もほとんど同じ様子で勉強――あと三日後に迫る中間試験の対策に苦しめられていた。

 学校というものに通っている以上は勉強から逃れられない。成績の良し悪しで先生からの評価や将来の進路などが決まっていくわけだし、苦手だろうとなんだろうとやるしかない。もちろん逃げ続けることもできるかもしれないが、それはそれで後悔を生むかもしれないし。

「竜樹、そこ間違ってるわよ」

「いやいや、そんなはず・・・・・・あ、ほんとだわ・・・・・・」

「ちなみに隣の問題も間違ってるわ」

「はあ? まじかよ! もうここは優秀なサポートを呼ぶしかねえ。おい、昴。これどう解くんだと思う?」

「申し訳ないんだがね、竜樹。僕は君の幼馴染だが、この学校では後輩なんだ。君達の授業範囲を僕は学んでいないんだよ」

 昴はそう言いつつ「まあ、解けるんだけどね」と付け足してヒントを伝える。

「つーかさ、もう勉強とかしなくても何とかなる気がしてきたわ。俺って進学希望じゃねえし」

 器用にシャーペンをくるくると回しながらそんなことを言う竜樹。それに対して理沙は怒気の籠った息を吐き出して、

「進学希望だったらもっと厳しくやってるわよ。あなたの場合はどうしようもなく成績が悪くて、現状は卒業さえ怪しい状態なの! 本当にわかってるのっ?」

「わかってるわかってる、まあそう怒んなさんなって。ほら図書室では静かにしていないとダメだぞ」

「いったい誰のせいだと・・・・・・」

「まあまあ二人とも。――ほら、竜樹。何にしたって留年して僕達の一緒に卒業するわけにはいかないだろう、今回のところは勉強に力を入れておこうじゃないか」

 昴の仲裁に「ほいほーい」と竜樹も適当な返事をしつつノートと教科書に向き直る。いつも通りの雰囲気ではあるが、こうやって勉強しているだけ今回はピンチであるって自覚があるのかもしれない。

「あ、そいや、紅梨は転校してきてすぐにテストって感じだけど、大丈夫そう?」

 ふと気になったことを隣に座る紅梨に訊いてみる。

「事前に話は聞いていたし大丈夫だと思う」

「そうか。まあ、ちょっとでも分からないところあったら理沙や昴に訊いてみるといいぞ。二人とも相変わらず授業成績だけはいいから」

「あなたは教えてくれないの?」

「え、あ、いや、そんなことはない。俺でよければ・・・・・・って言いたいところだけど、人に教えてやれるほどの学力はないんだよ」

 自分で言っていて悲しくなるが揺るぎようのない事実だった。

「それ、あなたこそテストは大丈夫なの?」

「まあ一応。これでもヤマ勘には自信があるんだ」

「それはそれでどうなの」

「まあ赤点は取ってないからセーフだよ」

 そんな冗談を言い合って二人で笑う。こんな日常をずっと望んでいた。

 望んでいたはずなんだが・・・・・・。

「あ、ちょっと喉乾いたから飲み物飲んでくる」

「ん、わかった」

 席を立って図書室を出ると、

「ふぅ・・・・・・」

 ドアを閉めて溜息を一つ零してから、自販機のある食堂へと足を進める。

 紅梨は昔のように接してくれるようになった、と思う。

 それはもちろん良いことだ。僕の中では一番の目的だったのだから。

 しかし、そのきっかけがわからないのだ。

 どうやらまた無理が祟ったのか俺は意識を失ってしまい、目を覚ましたら自室のベッドの上だった。記憶は観覧車へ乗ったのを最後に途切れている。

 覚えている範囲の記憶ではずっと避けられてばかりだったし、仲直りどころか好感度を下げるような出来事しかなかったはずで、彼女との関係性が戻ったのか分からないでいた。

(ただ、一つだけ)

 俺の手元からリボンが無くなり、今は持ち主の髪に結われている。

 きっとそれが答えなのだろうと思う。いったいどうやって返したのか記憶にないことが気持ち悪くて、

「なんか、しっくりこないんだよな・・・・・・」

 仲直りができたのなら理由なんてどうでもいい。そう思わなくもないが、それだと腑に落ちないままだ。俺が理解していない以上、何も解決していないんじゃないかと不安にもなる。

 そうこう考えているうちに食堂へ到着した。備え付けられた自販機にお金を入れてお茶のパックを買って、適当に空いている席へと座り、

「さて」

 胸に居座り続ける不安を払拭するために、何度も記憶をよみがえらせる。

 俺が倒れたのは観覧車から降りた後らしい。つまりは観覧車で何か話をしているはずなのだが、何とか思い出そうと頭を回し続けるが答えは出ない。

 自己満足でしかないことは分かっている。

 でも、彼女との思い出を捨てられないのだ。

 パックから中身がなくなる間――俺の中ではほんの数分の間もの思いに耽っているつもりだったのだが、ふと時計を見ると、俺が図書室を出てから三十分くらい経っていた。

「やべ・・・・・・」

 流石に物思いにふけすぎた。

 空になったパックを捨てて、図書室へと戻ろうと廊下を歩く途中、窓から夕焼け空が視界に入ってきて思わず足を止めてしまう。

 雲も少なく綺麗な景色だけども、何故か物足りないと思ってしまうのは何故だろうか。つい最近どこかでもっと綺麗な空を見たような・・・・・・。

「まったく思い出せん」

 少し考えてみてもその光景がなんだったのか、そもそも本当に見たのかさえ記憶が怪しくになってくる。夕焼け空なんて学校の帰り道で見かけることだって多いし、その数多くの中で印象に残る空があっただけかもれない。

 そう結論付けると視線を前へ戻そうとしたところで――空ではなく、それよりも下にある学校の校門の方へと目線を奪われた。

「・・・・・・竜樹達か?」

 見知った三人の後ろ姿が校舎を後にしている。

 スマホを開いてみるが誰からも先に帰るなんて連絡は入っていない。こっちから電話をしてみるが、三人とも出る気配はなかった。

 ・・・・・・俺に連絡なしで帰るなんて珍しい――どころか、皆で集まった日に連絡もせずに帰ることなんて今まで一度もなかったはずだ。妙な違和感を覚えながら足を前に進めて図書室のある廊下に着く。

 図書室の前には、二人分の鞄を持っている紅梨の姿があった。

「紅梨?」

 彼女の名前を呼ぶと、こちらへ顔を向けて手を振ってくれた。

「おかえり」

「竜樹達は?」

 俺の見間違えの可能性もあると思ったのだが、どうやらそうではなかったらしい。紅梨は困ったように笑って、

「先に帰っちゃった。あなたが図書室を出てから、また竜樹と理沙が揉めて、皆図書室追い出されちゃって・・・・・・。はいこれ、あなたのバッグ」

「あ、ああ、ありがとう。いやでも、珍しいことあるもんだな。先に帰るときはいつも連絡とかあるんだけど」

「そうなんだ。今日は私がいるから連絡しなくてもいいと思ったんじゃない?」

「そうか、まあ、たしかにそうかもな」

「きっとそうだよ。さあ、私達も帰ろう」

 そう言って紅梨は廊下を歩きだそうとしたところで、

「なあ、待ってくれ」

 二人きりになったからだろうか、どうしても聞かずにはいられなかった。

「ん?」

「俺は、俺は紅梨と仲直りしたいって思ってたんだ」

「え、う、うん。でも、こうやって話せてるよ?」

「ああ、そうだ。だけど俺にはそのきっかけが思い出せないんだよ。あの日、俺とお前はいったいどんな話をしたんだ?」

「他愛のない話だよ」

 言いながら紅梨は微笑むが、俺はまったくそう思えなくて、

「他愛ない話なら教えてくれてもいいじゃないか」

「話しても、きっと今のあなただと、きっとまた忘れちゃうから」

「今の俺だと忘れる?」

「さあ、もう帰ろう?」

 俺が聞き返した言葉には返事をせず、先に歩き出してしまう。

 その背中を追いかけながら、彼女の言葉の意味を考えて、けれども帰り道の中でその答えが分かることはなかった。


 そんな出来事から数日後。


 ついにテスト本番の日が訪れた。

 中間テストというのはその名の通り、学期の中間に行われるテストである。

 テストの範囲は学期開始からテスト数日前の授業の辺りまで。

 学んでいないところは当然出てこないし、ちゃんと授業を聴き、ノートを取り、少しでも予習復習をやっておけば苦労することはない。つまりは腕試しの一つだ。

高い成績を目指すならば並々ならぬ努力が必要だが、平均よりも上程度の話であれば、それくらいの努力で問題ない――という先生のありがたい言葉で始まったのだが、

「・・・・・・ああいうの、絶対綺麗事だと思う」

 向かいの席に座る紅梨は眉間に皺を寄せて、ノートにペンを走らせつつぼそっと呟いた。

「言いたいことは分かるよ」

 俺も授業中に取ったノートやプリントを読み返し、その内容を頭に叩き込んでいく。

 先生の言葉の通り、ある程度の成績であれば日々のちょっとした努力で何とかなることだろう。しかし、そのちょっとした努力ができるというのもまた才能の一つだ。

 授業中についつい眠ってしまったり、ついついゲームに熱中して勉強をサボったり、そういった負の積み重ねの方が作りやすいというのが普通の高校生というものであると、少なからず俺は考えている。

「ちなみに紅梨は結構ヤバそうなの?」

「そんなことはない・・・・・・と思うけど、低いよりは高い方がいいじゃない」

「そらたしかに」

「あなたこそ大丈夫なの? この前もヤマ勘がどうとか言ってたけど」

「・・・・・・多分」

 向上心も大事だが、何よりも赤点を取らないことと、高望みはせず平均点かそれよりもちょっと高いくらいがちょうどいい。

今回もそれくらいは取れていると思うのだが、常日頃から努力しているわけじゃないし自信があるわけでもない。

 今日のテストで五科目のうち三科目が終わった。

 テストは午前のうちに全て終わるため、普段よりも早く自宅へ帰れるのだが、明日のテストに備えて図書室や食堂、空き教室に残って一部の生徒が勉強している。俺も紅梨も例にもれずその中の二人だ。

「でも、思いの外勉強のために残っている生徒って少ないね。この教室だって私達しかいないし」

「図書室とか食堂のある第二校舎とか、部活棟の方は残って勉強している人も結構いると思うよ。第一校舎は本当に教室くらいしかないからかな、ここの校舎で勉強している人は少ないね」

「そうなんだ。そういうの広い学校特有って感じ」

 納得したように頷く。

 俺はこの学校しか知らないから詳しくは分からないけども、ここが一般的な高校と比べて大きいということはわかる。転入してきた紅梨にとっては違いが明確にわかって新鮮なものなのだろう。

「そういえば竜樹は帰ったのかな」

 勉強と言えば、成績がやばそうな幼馴染の顔が頭に過る。

「二人は理沙の家で勉強だって。理沙が『学校だとすぐ逃げるし、自分の部屋だと絶対に勉強しないから、私の部屋で縛り付けてでも勉強させてやるわ』って」

「ああ、なるほど」

 竜樹の性格を考えると勉強させるにはそれが一番いいのかもしれない。

「昴も自分の部屋で勉強した方がリラックスして捗るって帰っちゃったし、今日の居残り組は俺と紅梨だけか」

「何か文句でも?」

 ぎろりと睨まれて、慌てて釈明する。

「あ、いや、そんなことは全然まったく。ただ最近集まりが悪いようなーって思っただけ」

 話さなくなったわけでも、集まらなくなったわけでもない。

 しかし、どうも距離を取られているような気がしてならなかった。

「いつも一緒なんて歳でもないじゃない。そういうこともあるでしょ」

「そう言われると思った」

 そうだ。ただの偶然で、俺の気のせいだって可能性もある。それに理沙も竜樹も進路が関わってくるから頑張らないといけないし、昴はあれで成績が良いから今回も維持できるように努力しているのだろう。

 俺も少しは頑張らないといけない。

 自分に喝を入れてノートに向かう――が、今一つ集中できないでいる。

 目の前から聞こえてくるノートにペンを走らせる音、落ち着いた息遣い、ゆらゆらと揺れるリボン。いつもと違う環境だからだろうか、色んなものに意識がいってしまう。

「どうかしたの?」

「あ、いや・・・・・・そのリボンって邪魔になったりしないのか?」

「リボン? これのこと?」

「そうそう、もみあげのところに結っているだろ? 作業するときに邪魔だとか、視界に入って鬱陶しいときとかないのかなって」

 髪に使うリボンというのは、後ろ髪に使うヘアアクセサリーというイメージが強い。

「全然邪魔じゃないって言ったら嘘になるけど、このリボンは私が見えるところに付けておきたいの」

 そう言ってリボンを見つめる。その視線は優しげで、

 大切なものなんだな。

 声にこそ出さなかったが、それくらいは分かる。しかし、どういったものなのかは分からない。家族から貰ったもの? 仲のいい友人から貰ったもの? それとも恋人――いや想い人から貰ったものかもしれない。

「本当にどうしたの? なんか、変な顔してるけど」

「あ、いや、その」

 声を掛けられて上擦ってしまう。

「ああ、なんだ、リボンさ、大切なものなんだなって」

 本当は誰から貰ったのか訊いて安心したかった。でも、そんなことを聞く勇気はとてもじゃないが出てこなくて、そんな当たり障りのない質問になってしまった。

「これは・・・・・・」

 俺の言葉に驚いたのか、それとも別の感情を抱いたのか、俺には読み取ることのできない笑顔を浮かべて、

「そう、大切なものなの。かけがえのない人がくれた大切な宝物」

「そうか・・・・・・そうだよな」

 彼女の言葉は僕に重くのしかかった。

 考えてみれば当たり前の話なのだ。紅梨ほど可愛くて、強くて、そんな女の子にパートナーがいないなんてそれこそ信じられない。

「どんな人だったんだ? そのリボンをくれた人って」

 俺のそんな質問に少し驚いた表情を見せてから、まるで悪戯するかのように。

「このリボンをくれた人は、そうだね、とても冷たい人だったかな」

「冷たい?」

「そう。生活環境のせいかな、他人にあまり関心を持ってない子でね。ずっと本ばかり読んでいて、夢中になっちゃうと全然人の話を聞いてくれないの。散々呼びかけても、肩を揺すってみても、「ああ」とか「うん」とか、生返事ばっかりで」

 在りし日の思い出を懐かしむように、紅梨は言葉を続ける。

「私が話しかけてもちっとも反応しないくせに、とお――、ううん、彼のお兄さんが声を掛けるとすぐに本を閉じるの。それで普段は見せない笑顔を浮かべるんだ。口数も全然多くてね。今思い出しても悔しいなって、嫉妬しちゃうなって思っちゃう」

「なんだ、ええと、ブラコン・・・・・・じゃなくて、あれだ。兄弟思いの人だったのか」

「ふふふっ」

 紅梨は何故か俺の顔をみて笑う。

「え、なんだよ」

「ううん、なんでもない。あなたの言う通りブラコン。超ブラコンだったの。兄が自分の世界全てだって言うくらいには」

「そりゃまた、随分大層なことを・・・・・・」

「私も最初はそう思ってた。でも、彼にとってはお兄さんだけが拠り所だったから」

「・・・・・・君は」

 その拠り所にはなれなかったのか? そんな言葉を俺は飲み込んだ。

 聞くまでもない。俺は彼女の話す『彼』のことも、その『お兄さん』のことだって知らないけど、ずっと近くにいたからこそ二人のことを理解しているのだ。『彼』もそんな彼女にリボンをプレゼントした。彼女だって拠り所だったはずだ。

「・・・・・・私は」

 ポツリと呟かれた声を拾う。

「私は、ずっと一緒にいられると思ってた。いつまでも一緒なんだって・・・・・・」

「紅梨・・・・・・」

 俺は彼女の言葉の真意を掴めなくて、掛けられる言葉を見つけれらなくて、

 少し悩んだ末、言葉の代わりに彼女の頭をポンポンと撫でる。

「あ・・・・・・」

「ご、ごめん、嫌だったか?」

「ううん、そんなことない。ただ、あなたに撫でてもらうのも久しぶりだから、なんだか懐かしいなって思っただけ」

「ごめん、まったく覚えがない」

「・・・・・・そっか。でも、たしかにしてもらったんだよ」

 紅梨は気持ちよさそうに目を細める。

 しばらくの間、俺は取り留めのない会話を交わしながら彼女の頭を撫で続けた。

 それを打ち切ったのはチャイムの音。

「ふふふ、今日はもう帰ろっか。集中力も切れちゃったし」

「あ、ああ、そうだな」

 その提案に頷き、それから俺達はノートの類を片付けていく。そんな中でも俺は彼女の話した『彼』という存在が頭から離れないでいた。

 それから二人で話をしながら帰り道を歩くときも、

 紅梨の背中を見送ってから自分の部屋へと入るときも、俺の心に、まるで棘のように俺の感情を刺激していた。

「ふうぅぅ」

 深々と溜息を零す。

 着替えないと制服に皺が付いてしまうと頭に過るのだが、そんな気力もなくてそのままベッドへと倒れ込んでしまう。

 せっかく紅梨と並んで帰ったのに、話した内容も彼女の表情も頭に入ってこなかった。

 紅梨の話す『彼』のことを知ったところで何かできるわけでもない。いや、そもそもそんな出来事があったという話だけなのだから、何かできるできないの話ですらない。

 俺が俺の知らない紅梨のことを知りたいだけ――ただの我儘だ。

 それを自覚したと同時に、

『紅梨の事しか考えていなくて、自分の周りを見ないからだよ』

『紅梨と過ごしたラブラブな日々を思い出していたんだろうよ』

『しかし、君も好きだね。紅梨のこと』

 三人の声が頭の中で蘇ってきて、自分の気持ちに改めて向き合わされて、顔が熱くなる。

「・・・・・・いや、否定する気もないけどさ、ないんだけど」

 俺は俺が思っている以上に恋をしているのかもしれない。

 こうして目を閉じるだけで彼女の姿が浮かんでくる。

 笑顔、泣き顔、怒っている顔、楽しんでいる表情やちょっと物憂げなときの表情、どんな表情をしていたって彼女は魅力的で、可愛らしくて、ほんの少し思い出しただけで鼓動が速くなる。

「好き、なんだな」

 きっと、幼い頃に出会ってからずっと好きだった。

 今まで意識していなかったのは、きっと連絡を取ることもなく五年近く過ごしてきたからだろう。再会して距離が少し近づいてみるとこんなにも彼女のことが気になって仕方ないのだから。

「・・・・・・あとは、この記憶障害も原因の一つか」

 久しぶりに事故に遭ったことがつらく感じた。俺は紅梨と多くの思い出を作っていたはずで、それを忘れてしまっていると思うと悔しくなる。

「竜樹達なら、何か知ってるかな・・・・・・」

 今までこれといって困ったことはなかったし、竜樹や理沙、昴に昔の話を訊いたことはほとんどなかった。三人なら色々と知っているだろうし、もしかしたら話を聞いたきっかけで記憶の曖昧な部分や忘れてしまった部分が改善されるかもしれない。

「よし、そうと決まればだな」

 ポケットからスマホを取り出してSNSアプリを開いた。

 見慣れた三つのアカウントへ「明日の午後、集まってほしい」とメッセージを送る。すると、思っていたよりも早く返事が来て、

『わかった。ちなみに愛の告白なら僕は放課後の校舎裏に憧れているよ』

『了解。どこで待ち合わせする?』

『それよりも今助けて。理沙にころs』

 まともな返答が理沙しかなくて思わず苦笑する。

 何はともあれ明日のテストが終われば話が聞けるはずだ。

 まだ俺の望んでいる話が聞けるかもわからないのに心が躍り出す。居ても立ってもいられなくなってベッドから起き上がって深呼吸を一つ。

「・・・・・・よしっ!」

 テンションは高まったままだが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 明日の話を心置きなく聞くためにも不安材料を取り除く――具体的には明日のテスト勉強をちゃんとやっておかなければ。もう一度深呼吸をして気持ちを入れ替えてから、俺は勉強机へと向かった。


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