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悪魔の狩り

悪魔は御伽噺の存在ではない。


闇から出でしそれは超常的な魔法を操り、 人を喰らう異形の悪鬼。


しかし魔法を操る人間もいる。


彼ら「魔法使い」は悪魔から人々を守っていた。


夜の路地裏を、一人の男がふらふらと歩いていた。


傍から見ると酔っ払いのような足取りだが、その横腹からは赤い染みができており、そこから鮮血が流れていた。


「くそっ、なんでこんなことに⋯⋯」


悪態をつきながら歩みを続ける。 一度止まると、動く力が無くなりそうだったからだ。


しかし、それも長くは続かない。


建物の壁に寄り掛かりゆっくりと座り込む。


深呼吸し、震える腕で懐から拳銃を取り出す。


通ってきた方角から、物音がした。


闇の向こうは何も見えないが、「それ」がいるのはわかる。


ゆっくりとそこに銃を向け、獲物の姿を捉えようと目を凝らす。


引き金に掛けた指が強ばる。


「どこだっ、 どこだっ」


何度も引き金を引く。


弾丸が様々な軌道を描きながら飛んでいく。


瞬間、腕に何かが落ちてきた。それが白いロープのようなものであるとわかったと同時に、自分がもう「それ」の攻撃を受けてしまったと理解した。


「悪魔がっ」


そのまま飛び上がるように腕から空へと引っ張られる。


絶叫が響くも、骨ごと肉を砕く音と水音が暫くしたらそれも止んだ。






悪魔が時折出現するこの街において、 更に治安が悪い地域を夜に出かけるという自殺行為に及ぶ人はあまりいない。


「ここだよな?」


「喫茶サンレイン」と書かれた建物の前に男はいた。


すでに「CLOSE」と札がされているが、 情報筋からこの店は開いているという情報は得ている。


扉に手をかけると、 確かに鍵はかかっていない。


そこはレトロな雰囲気の喫茶店だった。


入ってすぐに、 強烈な匂いが鼻をくすぐる。


その正体はすぐにわかった。


入口すぐそばのテーブルに大量に置かれた料理の数々。


ピザやパスタ、その他色とりどりの食がテーブルから溢れかねないほどに並べられた中央で、 男がそれにがっついていた。


ドアベルの音に気付いたのか、 男は掴んだハンバーガーを頬張りながら顔を上げる。


しかしすぐに食事へと戻る。


その横では長身の女が空いた皿を片付けようとしていた。


女はこちらに目を向けると、 男の向かいに座るように手で誘導する。


「依頼でしょ、 でも悪いね。 今食事中なの。 気にしないで待っていてくれる?」


気にしない方が難しいと思うが、 とにかく男が満足するまで食を貪り終えるのを待つことになりそうだ。


「あ、 ウチはコーヒーしか出せないけど飲む?」


カンダは溜め息を吐いて、 椅子に座った。


数枚の皿が空になった時、 ようやく男が口を開いた。


「お待たせして申し訳ない。 俺はレイン、 魔法使いだ」


魔法使い、 そう言った男はにっこりと微笑む。


それがビジネススマイルであるというのは察せられる位には下手な笑顔だった。


傾けた顔から揺れる先端を白く染められた青い髪は、 右目の部分を隠している。


そして、 と視線を隣に向ける。

「彼女はレガリア、 オレの助手だ」


横にいた女がひらひらと手を振る。


年頃のまま育ったかのような幼さを感じさせる愛嬌のある顔だが、肉感的な身体付きからどことなく蠱惑的な雰囲気を漂わせている。


情報屋(ラビット)から話があった人だね。確かカンダさんでしたよね」


カンダは首を縦に振る。


「じゃあ早速仕事の話に入りましょうか」


魔法使いにとっての仕事、 即ち「悪魔狩り」だ。


普通の人間では悪魔に太刀打ちなどできない。


全身が魔力で形成されている悪魔には、 通常の攻撃が効きにくい。


魔力を操り魔法を武器とする魔法使いこそが、 悪魔に対しての有効札となるのだ。


「どのようなことが?」


レインはまだ残っていた料理に手をつけながら問いた。


「仕事で大きなミスをしてしまって、ものすごくムシャクシャして深酒をした日があったんです」


ひとしきり満足して帰路についている途中、 二人組の男とぶつかった。


高級そうなスーツを着て、 鋭利な刃物のような雰囲気を表に出す、 つまり堅気ではない男だった。


やめておけばいいのに酒が入って強気になっていたカンダは、 「邪魔だ」と男の肩を押してしまった。


気付いた時には取り押さえられていた。


逃げられないようにする為か、 男二人に挟まれ、路地裏へと連れられる。


その時にはもう酔いなど覚めていた。


絶対にタダではすまない、 そう思いながら歩みを進めていると、 ふいに異変を感じた。


男の姿が消えていた。


少し間を置いて、 悲鳴が響いた。


ポタポタと雨が降ったかのような感触を頭上に感じ、手で触れるとぬるりとした。


それは血であった。


見上げると、 先程の男がが空中に浮いているのが見えた。


その背後には、 人の形に似た異形がいる。


腕が人間のものと同じ位置からだけでなく、 腹部から四本、 計六本も生えている。 その内の二本で、男の両腕を掴み首元の肉を喰っていた。 一本一本が太く鋭利な牙からはてらてらとした血が滴る。


その姿から、 蜘蛛が連想された。


それが悪魔である、 というのはすぐに理解できた。


それくらい、人が悪魔に喰われる光景はよくあることとなっているからだ。


もう1人のチンピラと共に絶叫し、 一目散に走り出す。


走る。 走る。 走る。


がむしゃらに走り、 日の明かりに気が付いたら都心部の人混みの多い場所にいた。


一緒に走っていた男はどこにもいなかった。


襲われたのか逃げきれたのかはわからない。


今は自分が生きているということしか頭になかった。






「へぇ、 蜘蛛の悪魔ですか」


レインは左手にペパロニとオリーブ、右手にパインの乗ったピザを交互に食べる。


真面目に聞く気があるのかと問いたくなったが、魔法使いの大半はこういった「変わったやつ」だと聞いたことがあるのを思い出し言葉を押し留めた。


「気になったんだけど、 なんでウチに依頼を?」


フォークでクルクルと巻いたカルボナーラを弄びながらレインは問う。


「ほら、 悪魔狩りするってならもっと実績とかあるところとか、 有名なところとか大人数でやるじゃない」


「それに、 ここは表向きは喫茶店で、 悪魔狩りの依頼をしてるってことは一部の情報屋にしか伝えてないからね」


カンダは少し言いにくそうにしたが、 ここで黙ると悪印象だと思い、 話すことにした。


「実は、大企業とかだと依頼料が高くてですね、 安くしてるここに⋯⋯」


その言葉にレインは頷く。


「まぁ仕事が来る分にはいいけど」


気が付けば、 大量にあった料理は全て無くなっていた。


「じゃ、 最後に質問を」


レインの顔つきが真剣なものとなる。


「そいつは強いと思う?」


吸い込まれそうな翠の目が、 カンダをじっと見つめる。


「そ、 そういうのはわかりません⋯⋯」


実際、カンダ自体その悪魔の強さなどはわからない。


普通の人間が悪魔と戦うのは死と同義だから。


「そうですよねー」


背もたれにもたれかかるレインは視線を外す。


その視線の先を追うと、 カウンター奥に置いてある写真立てが目に入った。


そこにはレインと共に笑顔で映る女性がいた。


見た目はレガリアと同じだ。違うのは髪の色が赤色ということと、 どこか雰囲気が違うということだ。


「強いといいんだけどなぁ」


あの写真は、 と聞こうとするとレインは少し慌てた様子を見せる。


「こっちの話、 なんでもない」


無理矢理この話題を逸らそうとするように、 すっと立ち上がる。


「よし、 早速行こうか、その悪魔のところに」


そう言うとレガリアがいつの間にか持っていた灰色のコートを羽織り、 玄関へと足を進める。


軽い足取りで、レガリアも続く。


事務所を出ていく二人の後をカンダは追う。


「あの、 場所はわかるんですか!?」


それを聞いて二人は「あ」と顔を見合わせた。








「ここです」


男に連れられた街の路地裏には、 ゴミや汚物などが散乱し、 あまり入りたくないと思わせるには充分だった。


時刻は深夜、 この付近の店は殆ど閉まっていて人も居ない。


悪魔の痕跡を見付けるために行動を開始すると、 足元に何かが当たった。


銃の弾が落ちていた。


拾い上げ、 掘られた彫刻をなぞってみると、 独特な「力」を感じた。


「強い魔力を感じるな、 どこかの魔法使いが落としたか」


レガリアの動きが止まる。


「悪魔の気配、 すぐ近くだ」


「あ、アイツです!」


カンダが指を指した先には、 建物の間を空を浮いているかのように立つ者がいた。 よく見ると、白い糸の上に立っているのがわかった。


蜘蛛の悪魔だ。


直後、 上空からなにかが飛ぶ。


とっさに後方へ飛び、 回避する。


先程までいたところに、 飛ばされたなにかが着地する。


糸だ。


「やるな、 人間」


ガチガチと牙を鳴らしながら話す悪魔の言葉に、 レインは肩をすくめた。


「悪魔に褒められてもね」


蜘蛛は手をかざす。その爪先からは細い糸が伸びていた。


蜘蛛の頭上から、 ゆっくりと人が二人降りてきた。


男女が俯いている。


二人の目は虚ろで、 血の気の引いた顔をしている。


「操り人形か?」


「俺が喰ったやつらさ」


男が手にしていた銃を構え、 発砲する。


レインは少しだけ体を動かし、 それを避ける。


しかし避けた銃弾が、 くるりと弧を描いて再びレイン目掛けて突き進む。


ギリギリで避けるも、 少し顔にかすって血が流れた。


カンダが小さな悲鳴を上げる。


「その人を守ってろ」


レガリアは頷き、 カンダと共に少し後方へと下がる。


「こいつは銃弾を自由に動かす魔法使い」


今度は女が腕を横に伸ばす。


その先には、 大きなゴミ箱があった。


「そいつは物を飛ばす魔法使いだ」


ゴミ箱がガタガタと揺れ、 中が開く。


そこから何かが飛び出した。


大量の刃物だ。


それは空中に貼り付けられたかのように浮いている。


魔法使いが腕をレインへと向けると、 ものすごい速度でそこへ飛ばされていく。


「うおっと!?」


横転して回避する。


先程まで立っていた場所に何本もの刃物が刺さる。


「コートに穴が空いたらどうするんだ!」


砂を払いながらレインは声を荒らげる。


「死ぬ寸前に魔力を注ぐ事で、 生きたまま意のままに操る魔物がいる。 こいつもその類だろう」


落ち着いた口調で、 レガリアは分析していた。


更に目の前に男二人が降りてきた。二人共筋骨隆々だ。


悪魔は得意げに笑う。


「喰って仲間にする前に聞いておこう、 貴様の魔法はなんだ?」


レインはフッと笑う。


「見せてやるよ」


そう言うと拳を構え、 戦闘態勢に入る。


銃を持った魔法使いが再び発砲したのを合図に、 レインは前方に走る。


目にも止まらぬ速さだった。


男の腹部にパンチを入れると、 ぐちゅりと不快な音と共に男が吹き飛ばされる。


もう一人の男が殴りかかるも、 それを左手で受け止める。


そのまま首を蹴りつけると、男の首が折れた。


「身体能力強化の魔法か」


「正解」


銃を持った魔法使いが発砲する。


刃物を掴み、 男へと投げる。


眉間に刺さり、 銃を落とした。


それを拾い、 残った女へ鉛玉を撃ち込む。


あっという間に、 全ての操り人形は動かなくなった。


「これで終わり?」


「なるほど、 少しは食べがいがありそうだ⋯⋯だが」


「レイン!」


再び戦闘態勢に入ろうとするレインだが、 その耳にレガリアの声が入り振り返ると、 衝撃と共に動きが止まる。


その背中を、 カンダが大振りなナイフで刺していた。


「は?」


カンダが苦悶の表情をしながら震える。


「すまない⋯⋯悪く思わないでくれ」


悪魔は蜘蛛の糸をロープとして勢いをつけ、 キックを放つ。


避けることができずに命中し、レインは壁へと叩き付けられる。


「レイン!」


叫ぶレガリアの顔に糸が張り付く。


呼吸ができないのか顔に手を当てもがき倒れる。


よろめきながら立ち上がるレインの右腕はぷらぷらと揺れていた。


先程の衝撃で折れたようだ。


蜘蛛の悪魔は爪先から糸を飛ばし、残された左腕を壁に貼り付けた。


「中々上モノの魔法使いだ。 今回もいい働きだよ、 カンダ」


カンダは頭を抱え震えながらうずくまっていた。


「カンダさん、 やっぱりコイツと契約していたのか」


悪魔は小さく笑い声を上げた。


「喰う前に教えてやるよ 」




カンダがこの悪魔と遭遇するところまでは真実だった。


しかしその後、 カンダは逃げる事に失敗していた。


喰われる、 と思ったカンダだったが、 悪魔はある提案をしてきた。


「魔法使いをここに送り続けろ。 そうしたら生かしておいてやる」


糸に絡め取られた獲物は、 それに乗るしかなかった。




「俺は大食いでね、 少しの魔力じゃ満足しねぇ。 ただの人間より魔力量に優れた魔法使いを喰った方が効率がいい。 だから、 そいつに魔法使いを呼ばせていたんだ。 安全に狩れるように、 一人か二人でやってるやつらをな 」


「大食いか。 奇遇だね、ボクもだよ」


顔全体を糸で覆われ喋るどころか息もできないはずのレガリア。


彼女が顔を上げると、 張り付いていた糸がなくなっていた。 大きく歪めた口はなにかを咀嚼している。


「まさか、 オレの糸を喰ったのか!?」


レガリアは舌舐めずりする。


悪魔が作り出した糸は、 ただの蜘蛛の糸ではない。魔法で作られた特殊なものだ。 ただの人間がなんとかできるものではない。


「貴様⋯⋯人間では無いな! 悪魔か!」


「ただの悪魔扱いされるのは心外だなこう見えて悪魔の王⋯⋯魔王って呼ばれてたんだけどなぁ」


「魔王だと!?」


「おいレガリア!」


レインが力を入れると、 その腕を抑える糸を引きちぎった。


「だから人いる前でバラすなっての」


コートを開くと、ライナーに何本も取り付けられたチョコバーが現れた。


取り出そうとした右腕が折れていたのを思い出したレインは、 左腕でバーを握り、 歯で包み紙を噛み切り、 中身を食べる。


右腕をぐるりと回すと、 元通りに修復されていた。


出血も既に止まっていた。


「再生しただと!?」


レガリアはレインの横に並び立つ。


「いくよハニー」


頷き、 レインは相棒へと手を伸ばした。


「レガリア!」


彼女の体が黒い霧のようなもので覆われ、 やがてレインの腕へと集まっていく。


その手元には大振りな剣が握られていた。黒と紫を基調に、 刃の部分には鋭利な歯のような彫刻がされている。


「なんだそれは!?」


「魔王の剣、 魔剣ってとこかな」


剣からはレガリアの声がする。


レインは後ろでへたり込むカンダに視線を送る。


「カンダさん、 アンタの事情は分かった」


剣先を蜘蛛の悪魔へと向ける。


「俺に賭けな、 アイツを素寒貧にしてやるよ」


「ほざけ!」


悪魔が糸を連射する。 それを剣で斬りつけると、 糸が光の粒となって剣の中へと吸い込まれていく。


「本当に不味い魔法だね」


魔剣レガリアは、 斬りつけたものの魔力を喰らい己のものに還元する。


「ここは逃げる!」


悪魔は後ろを振り返り、手から糸を建物の壁へと飛ばす。 そのまま糸を巻き上げ、 上空へと飛ぶ。


「逃がさねぇよ!」


建物の壁を駆け上がり、 悪魔より高く飛ぶと、 その背中へとキックをかます。


地面へと叩き付けられ、 よろよろと立ち上がる悪魔に対し、 悠々と着地をするレイン。


「いくぜ、 ショウダウンだ」


腰を低くし、剣を構える。 刀身に赤黒い魔力が螺旋のように纏う。


地面を蹴ると、 高速での突きを繰り出す。


悪魔は糸を撃ち止めようとする。


しかしそれでも止まらない。


四本の腕で防ごうとするが、 その威力に耐えられず、 一本、 二本とちぎれていき、 蜘蛛の腹部を貫く。


剣から流れる魔力が、 悪魔の体内で迸る。


絶叫しながらその肉体は結晶化し、 四散した。


命が尽きた悪魔は、 死の間際にその体を魔力の塊に変質させる。


それはステンドグラスかのように見え、 どこか美しくもあった。




一息ついたレインは、 コートの内側から潰れたハンバーガーを取り出し、 頬張る。


「思ったより魔力消費したな⋯⋯」


剣が黒い煙となり、 今度は女性の姿へと変貌する。


ふわりと白い髪をなびかせると、 レガリアへと戻っていた。


「ハニー!」


ニカッと笑い抱き着くレガリア。


「今日も頑張ったよ!褒めて褒めて!」


レインは呆れながら振りほどく。


「それよりさっさと喰えよ」


悪魔の肉片を拾い上げ、それを口へと運ぶ。


ゴリゴリとした音が響く。


「結構魔力貯まったんじゃないか?」


「思ったより弱かったからね、 全然だよ」


その場で唖然としているカンダに気付くと、 レインは苦笑いをする。


「悪いがコイツのことは黙っててくれないかな。魔法使いが悪魔と手を組むなんて笑い話にもならないし。そうしたら俺も刺されてことを不問にするよ」


カンダは肩を震わせる。


「わ、 私は⋯⋯なんということを⋯⋯」


顔を覆い泣き出すカンダに、 膝を着いて肩を叩く。


「アンタも生きる為に必死だったんだろ? 仕方なかったと考えてもいいんだぜ」


それに、 と続ける。


「悪いことしたってんなら、 これから善行を続けていけばいい。因果応報ってやつは、 良いことも当てはまるんだぜ。」


コートからチョコバーを取り出し、 カンダへと投げ渡す。


「色々あって腹減ってるだろ? とりあえず喰って、 とりあえずで生きてみろ」


トンっと跳ねるような音にカンダが顔を上げると、 悪魔狩り二人は既に消えていた。


目の前に落ちていたチョコバーを拾う。


「生きる、 か」


ふと見上げると、 空は少し明るくなっていた。


もうすぐ日が昇る。


力強くチョコバーの袋を開け頬張った。ほんのりとビターの風味が広がった。


とりあえずボランティアをして、 少しずつでも償いをしていこうと考えた。


その時、 背後から足音がした。


「兄貴、アイツです!」


大きな声を出す男。


以前悪魔に襲われた男だった。どうやら無事逃げおおせたみたいだ。


そしてもう一人。


兄貴と呼ばれた、 サングラスをした危険な雰囲気を醸し出す男が横に立つ。


「お前、俺の部下が悪魔に襲われたみたいだが何か知ってるな?」


「え、それは⋯⋯」

「ちょっと話しようか」


男に肩を組まれたカンダは半ば無理矢理に、 近くに停められていた黒く塗られた車に乗せられる。


それから、 彼を見た人はいない。


「因果応報か⋯⋯」


喫茶店へ帰りコーヒーを飲みながら、 先程のやり取りをレインは思い返していた。


「俺も咎は受けるさ。全てを終わらせたあとにな」


眉間に皺を寄せながらレインは写真立てを眺める。


そこに写るのは、 レガリアと同じ顔をした赤い髪の女性。


レガリアはゆっくりと近付き、 彼の肩に顔を乗せる。


「そんなに彼女に会いたいの?」


「当たり前だ」


レインは振り返る。


「その為にも、 早くお前を完全に復活させるだけの魔力を集めないとな」


それを聞いたレガリアは、 その顔に妖しい笑みを浮かべていた。


「ボクの中にいる彼女を助けないとね」


レインも笑顔で返す。下手な作り笑いだった。


「あぁ、 その時はお前をまた殺してやるからな」


その言葉を聞いて、 レガリアは胸をときめかせた。

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