凶報
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彼の言葉に応えるのは、扉を開いた先で同じように慌てふためいていた下士官達であった。
「はっ! 先ほど何者かによる魔法攻撃を受け、砦に展開されていた結界魔法が破られました。現在砦の被害を確認中であります!」
「魔法攻撃……王国のやつらか?」
彼は大きく損傷を受け、いささか開放的になっている天井を見上げる。
堅牢に作られたはずの城壁にはいくつもの穴が、空き蜂の巣状態になって月光が漏れ出ていた。
月明かりを頼りに確認してみると、振ってきたのはどうやら岩石弾のようだ。
一つ一つの大きさは成人男性の顔のサイズほど、これで結界魔法を抜いたとなると一発一発の威力が相当に高かったのだろう。
王国の軍事力の程度は知っている。これほどの威力の魔法を放てるとなると相当な実力者が送り込まれている可能性が高いが……彼は急ぎ砦を上り、辺りを見渡せる高台へとやってきた。
既に上位将校達もこちらに集まってきており、あちこちで光弾を打ち上げながらの観測が行われている。
ホーエンハイムは一度呼吸を整えると、ゆっくりと彼らの下へと歩いていった。
指揮官はどのような事態にあっても、毅然とした動じない態度をとり続けなければならない。
彼の胸を張った自信たっぷりな様子を見た兵士達の空気がわずかに弛緩するのがわかる。
「状況は?」
「はっ、我ら第三軍団は本日午前一時未明、謎の魔法攻撃を受けました! 攻撃は上部より為されており、現在砦は半壊! 結界を展開していた魔導師達にも被害が出ておりますが、急ぎ砦の修理に当たらせております!」
寝起きとは思えないほどにハキハキとした声で叫ばれる部下の報告に、ホーエンハイムは頭を巡らせた。
魔導師やスキル持ち達を動員して原因を探っているが、未だ芳しい成果は出ていないらしい。
相手がこの時間帯に奇襲をかけてきた理由は一体なんだ?
この攻撃は小手調べて、続いてくる軍団こそが本命なのか?
疑心暗鬼に陥った彼は警戒を厳とするよう言い含め、自身も寝ずに即応できるよう一夜を明かした。
だがそれ以上の襲撃はやってこなかった。
結局襲撃の理由は不明であったが……その日の昼頃にやってきた急使によって、彼は頭を抱えることになる。
「――スルとボイジャーが落ちただと!?」
使役した魔物を使う高速伝達により、自分達が周囲を警戒している間に拠点化を済ませていたスルとボイジャーという二つの街が落とされていたことが判明したからだ。
あまりにも早い電撃戦。
それだけの高速機動戦ができる部隊であればこちらにも即応できたであろうに……と考えていたホーエンハイムは、伝令の話を最後まで聞いて、自分が勘違いをしていたことを知る。
「襲撃は獣達による魔物によって行われ、既に拠点にいた総隊は全壊、生き残りは絶望的と思われます」
「なんと……」
自分達が戦うことになったのは王国軍ではなく……王国軍を潰した、あの魔物達であることに彼はようやく気付いたのだ。
(知能の高い個体か……厄介な)
長い時を生きた個体、あるいは高いレベルの魔物達の中には、人間と変わらぬほどの知恵を持つ者が現れる。
おそらく今回の獣達の長も、そのような手合いだろう。
敵が夜に襲撃をしかけたあの魔法攻撃は、こちらを砦の中に閉じ込めるための陽動。
拠点へと向かうことを防ぐための策略にまんまと引っかかり、軍を引きこもらせてしまった。
そのせいで兵站の供給地点として用意していた二つの街が落ち、ミツの街は完全に孤立したことになる。
ミツの街の麦がほとんど手つかずで残っていたおかげでまだしばらくの間は持つが、帝国との兵站を繋ぐ拠点を壊されてしまったことで、今後の補給に関しては絶望的である。
救援を飛ばしてこちらに援軍が送られてくるまで、ミツの街の中に残る第三軍団は独力で魔物に対処をする必要がある。
残されている軍の数は少なくはないが、ここから救援が来るレベルまで持ちこたえるとなると……彼は自分が描いていた未来がただの青写真でしかないことに気付き、その表情を曇らせる。
彼は急ぎ魔物の襲撃に備えることができるよう、土魔導師による防壁の強化を急がせた。
堀を幾重にも作ってその中に水を溜めさせ、更にその外側には先端を鋭利に尖らせた土の柵を、自重で魔物達の身体が沈んでいくよう敢えて低い場所へと作っていく。
警戒を厳にしつつ作業を行うこと数時間ほど、既に補修が完成している砦はますますその堅牢さを強めることに成功した。
これだけ準備をすれば十分だろうと、ホーエンハイムの気持ちは軽くなった。
そしてその日の払暁……目の前に現れた軍勢を前に、彼は言葉を失うことになる。
「な、なんなのだ、あれは……」
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