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英雄と◯◯ 9


「はあっ、はあっ……やったか?」


「バルクさん、それってフラグってやつでは……」


 息も絶え絶えな様子の三人。

 周囲にいるオーク達を蹴散らしながらのオークエンペラーとの戦闘。

 そして立て続けに放った大技による魔力と体力の消費。

 まだまだ戦えはするが、三人にも疲労は溜まっている。


 煙が晴れる。

 そこに居たのは――全身に火傷を負いながらも尚も耐えているオークエンペラーの姿。 

 攻撃は直撃したはずだが、未だ余裕がありそうだ。


「はっ、流石にこれだけじゃあ仕留められないか」


 バルクは不敵に笑う。

 彼の言葉が通じたわけではないだろうが、オークエンペラーもバルクを見てにやりと笑った。


「行くぞ二人とも、オークが散ったここからが正念場だ!」


 彼の言葉の通り、現在オークエンペラーの周囲からは魔物の姿が消えていた。


 先ほどバルクが放った、彼が放つことのできる最大威力の攻撃技である裁きの雷槌。

 この技には他者の放った一撃を己の雷として使うことができるという点以外にも、いくつもの利点が存在している。


 そのうちの一つが、ソエルが放つ水魔法との親和性だ。


 衝撃全てを変換された濁流は勢いを失い静止した放水となり、全ての衝撃を変換して発生した稲光は、周囲の水を伝播する形で周囲にいるオーク達へ届く。


 二人が協力して放った一撃は、森の入り口に彼らとオークエンペラー以外のいない空白地帯を生み出していた。


 荒れ狂う水流で流す形でオークの上位種達も戦場を移動しており、残って遠巻きに様子を窺っていたオーク達は電流を食らったことで、個体がほぼ全て黒焦げになっている。


 あらかじめソエルが雷耐性をつけるサンダートレランスを使っていたおかげで冒険者達に死者は出ていないはずだ。

 確認をしている余裕はないが、せいぜい感電している者が数人出た程度だろう。


 今この場に残っているのは、オークエンペラーと『裁きの雷槌』の三人だけ。

 けれどそれは彼らにとって、どうでもいいことだ。

 

 なぜなら彼らは戦い始めたその時から、お互いのことしか目に入ってはいなかったからだ。

 Aランクという頂きに辿り着いた存在にとって、Bランク以下の生物達など、いくらでも倒すことのできない、取るに足りない存在に過ぎないのである。


「ブモオオオオオオオッッ!!」


 オークエンペラーが振るう大剣の連撃。


 斬り上げ、斬り下ろし、袈裟、逆袈裟、突き、フェイント、薙ぎ。

 Aランクモンスターの膂力で振るわれる大剣は大気を裂き、一振りごとに音と衝撃のワルツを奏でていく。


 圧倒的な速度で放たれるオークエンペラーの攻撃は、荒れ狂う暴風そのもの。

 大気が悲鳴を上げ、放たれる斬撃の余波だけで周囲に散らばる木々とオークの亡骸達が吹き飛んでゆく。


 剣を持つその姿は羅刹よりもなお悪魔じみている。

 歩く災害、災獣の面目躍如たる攻撃の連続が繰り返されていく。


 唸り声を上げる大剣が敷く、剣の結界。

 常人であればわずかたりともほころびを見いだすことのできぬ風の中を、一人の少年は果敢にもくぐり抜けていく。


「おおおおおおおおおおっっ!!」


 相手の放つ斬撃を時に槌を巨大化させ受け止め、受け流し、そして相手の打ち手を減らすために敢えて手傷を負いながらも相手へ痛打を与えていく。

 彼は自身の動きによって相手の動きを誘導し、より優位な状況を作り出していた。


 オークエンペラーの攻撃を一つ一つが強力な単発の強撃とするのなら、バルクのそれは正しく点と点を線で結んだ、一つの流れ。

 その威力や防御力自体はオークエンペラーには及ばないが、戦況を支配しているのは間違いなくバルクだ。


「シイイィィッ!!」


 そしてこの場には、バルクの作り出す流れを汲み取ることのできる存在が二人いる。

 リサが放つメイスの一撃は、バルクに意識を傾けているオークエンペラーの背中を強かに打ち付ける。


 真っ白く光り輝くそのメイスに付与された神聖属性が、オークエンペラーの身体に消えることのない焼き印をつける。

 その身体につけられた聖痕は既に十を超えているが、未だオークエンペラーの動きは彼らよりもはるかに速かった。


 当然ながらオークエンペラーの意識は彼女の方を向き、そしてその意識の空白をつきバルクはがら空きになった胴を攻める。


 そして前衛の二人の呼吸一つ分の間の小休止を作り出すのは、後ろに控えている後衛のソエルの役割だ。


 彼女の放つ魔法には、バルクやリサの一撃のような豪快さはない。

 けれど気付けばバルク達にできている傷は消え、補助魔法はかけ直され、そして呼吸を整えるだけのゆとりを持つことができている。

 派手な動きこそないものの、ソエルもまた間違いなくこのパーティーの一員だ。


 後衛である彼女を狙おうとするオークエンペラーの動きをしっかりと牽制しつつ、バルクは再び駆け出した。


 ソエルを除いた三人の動きが、その激しさを増していく。

 最初は目で追えるほどだった動きは既にいくつもの残像という形でしか捉えることができなくなっており、彼らが何をしているのかを理解できる人間は、その速度に慣れているソエル以外にはいなかった。


「があああああああっっ!!」


 バルクは歯を食いしばり、目を血走らせながら哮る。

 その全身からは雷が迸り、その動きは速度を増していた。


 上級雷魔法、ライトニングスピード。

 己の身体に紫電を纏わせることで肉体に電磁加速を行わせる魔法である。


 雷魔導師と魔法槌士、それに賢人。

 バルクは魔法に関するステータス補正をかける上位ジョブを合わせて五つ取得している。


 魔法職としては頂点に近い彼が、失われた古代文明によって作られた魔法の武器を触媒にして発動させる雷魔法は、ただのそれとは一線を画している。


 バルクの速度は既にリサが把握できる人間の領域を超越していた。

 彼は一方的にオークエンペラーを殴って殴って殴り続けている。


 だが使用者に圧倒的な速度をもたらすこの魔法は諸刃の剣。

 使用後に雷によるスタン効果を受け自身の身体が動かなくなるというデメリットがある。

 彼は完全にこの攻防で勝負を決めるつもりだった。


 この戦況で、一対三という状況をもう一度再現するのは困難を極める。

 故にこの一撃でオークエンペラーを仕留めきれなければ、自分達に勝ち筋は残されていないということが、直感的にわかっていたのだ。


「変換!」


 彼が纏っていた雷が、衝撃に変換される。

 バルクは自身が生み出した押し出される形で、全身がボコボコになっているオークエンペラーの頭より遙か上へと跳躍した。


「これで――最後だっ!」


 バルクが飛び上がると、オークエンペラーがその迎撃をすべく上を向く。

 けれどリサによるメイスの一撃がその足先を力強く叩き、その視界をソエルが霧を生み出すことによって遮った。

 仲間によるアシストを受けたバルクが、大きく槌を振りかぶる。


「戻れ、エッケルト!」


 大きく飛び上がった彼の手にある雷槌エッケルトは、どんどんと巨大になっていく。

 巨人の英雄が使っていたとされる巨槌は、その本来の大きさを取り戻し……そしてバルクは宙でくるりと回転し、遠心力を高めていく。


 同時に複数のスキルと魔法を発動させる。

 己が強いた電磁のレールの上に槌の軌道を合わせ、更に槌全体に雷を纏わせる。

 そしてそこに更に打撃スキルを組み合わせ――


「ライジング――インパクト!」


 音速を超えて二回転した巨槌が、本来の威力に遠心力を加えた形でオークエンペラーの頭部を強かに打ち付ける。

 めこっと頭の骨が陥没する音が聞こえてくるが、まだこれで終わりではない。


「裁きの雷槌!」


 更に自身が放った最大の一撃の衝撃を、伝播と同時に雷に変換する。

 これによってオークエンペラーの内部に雷が伝導し、その強固な肉体を内側から破壊していった。


 全力の一撃を放ったために上手く着地のできなかったバルクは、ゴロゴロと地面に転がった。

 顔面にハンマーの柄頭のめり込んだオークエンペラーはそのまま地響きを立てながら、地面へと倒れ伏し……二度と起き上がることはなかった。

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