英雄と◯◯ 4
夜営を問題なく終え、次の日。
討伐組は早速オーク達の殲滅に向かうことになった。
ラーゲ大森林の中を、土地勘のあるノニムの街にいる斥候達の案内を受けながら歩いて行く。
フレディは斥候達の後に続きながら、脳内にラーゲ大森林のマップを思い浮かべていた。
オークエンペラーが群れを率いている場所については、既に把握されている。
森の奥地で森にいるオーク達を招集し、準備を整えているということだった。
故に討伐組がまず最初に行っていくのは、未だオークエンペラーの下へ向かっていないオーク達に対して行う削りであった。
ここで頑張ればその分だけオークエンペラー戦の際に戦うオーク達が減る。
フレディを含め、気を抜いている人はほとんどいなかった。
「ふわあぁ~」
「おいベル、お前しっかり寝たのか?」
「寝たけど……なんだかあんまりやる気が起きなくてね」
大きなあくびをするベルを見てフレディは本当に大丈夫なのだろうかと少し不安になってきた。
聞けば彼女はドルジの街で登録をしてすぐにCランクになったらしい。
冒険者として持っておくべき当たり前の考え方すら、今の彼女にはないのかもしれない。
「俺達がしっかり気張らないと街が大変なことになるんだぞ」
「私達がどれだけ気張ってもあまり変わらなくない? だって最終的には彼らが倒してくれるんでしょう?」
「ぐっ、まぁ、それはそうかもしれないが……本番前には彼らが疲れないようなるべく休ませる必要がある。その分俺達が頑張らなくちゃいけないのさ。こういうのは持ちつ持たれつなんだよ」
「ふぁ~、なるほどね。ま、大丈夫よ。私――言われた仕事はきっちりこなすタイプだから」
彼女はそう言うと前を向く。
すると人が住むにしては大きな粗末なあばら屋が立ち並んでいる様子が見えてくる。
木々の間から見えるのは、大きく伸びた牙と身体についた贅肉を揺らしながら歩いているオークの姿だった。
見えているだけでもその数は優に三十を超えている。
小屋の数から考えれば、その数は確実に百はくだらないだろう。
こんなものを何個もつぶさなければならないのかと思うと、その途方もなさにため息が出そうだった。
手信号で合図をしながら討伐組がそれぞれの持ち場についていく。
『裁きの雷槌』の三人は自分達の役目を理解しているからか、他のメンバー達よりも後方で待機していた。
ただ戦えないのが不満だからか、三人とも少し憮然とした様子だ。
高ランク冒険者には戦闘狂の気がある者が多い。自分の力を振るいたくて仕方がないのだろう。
まあわからんでもない、そんな風に考えながらフレディも他の面子と共に前に出る。
するとそれに合わせる形でベルも前に出た。
彼女の立ち振る舞いには、相変わらず隙が一つもない。
「さっさと終わらせましょ。メインディッシュが待ってるもの」
瞬間、ベルの姿がブレた。
Cランク冒険者であるフレディをして捉えぬことができぬほどの高速移動。
残像を残すほどの超速で移動した彼女は、次の瞬間には油断しきっているオーク達の目の前に立っていた。
そのまま流れるような動作で腰に提げていた長刀を鞘走らせる。
居合い一閃。
木の幹ほどもあるオークの首が勢いよく吹き飛び、遅れて泣き別れになった胴体から鮮血が迸った。
「たわいないわね」
目にも止まらぬ早さで放たれる連閃。
しかしその一閃一閃に、必殺の威力が込められている。
積み上げられていく死骸の山。
死の舞踏を踊るベルには、しかし返り血の一滴としてついてはいなかった。
(おいおい……マジかよ)
腕に自信があることを察してはいたが、精々が自分と同程度のものだとばかり思っていた。 だがこれほど鮮やかにオーク達を殲滅できるのなら、その実力はCランクに留まるものではない。
かつて目にしたことのあるBランクの冒険者であすら、これほどの手並みで魔物を屠ることができていたか……。
ベルの戦う姿に完全に見とれていたフレディは、オークの咆哮で慌てて現実に引き戻される。
彼はやってくるオークの放つ攻撃を避けながら、己の得物である直剣を振るう。
フレディのジョブは剣士。
レベルキャップの問題で上位ジョブである剣豪に届いていないが、既に剣士としての経験値は完全にカンストしている。
彼にはオークの攻撃の軌道と自信が放つ一撃の到達予測地点が、光点となって見えている。 光の点と点を結び最適解を選び続ければ、オーク程度に負ける道理はなかった。
その戦いに派手さはない。
けれど彼は決してミスをしない。
最善手を打ち続けるフレディの前にオークが一体、二体と倒れていく。
そして倒したオークの数が片手で数え切れなくなった頃、戦いは無事終了した。
勢いそのまま集落を潰していくと、その数が六を超えたところでめぼしい集落を周り終えた。
時刻はまだ十三時を回ったところだった。
小休止を取り、しっかりと飯を腹に入れてから、彼らはオークエンペラーが軍を従えている森の奥へと分け入っていく――。




