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伯爵認定勇者ブラッド 5


 ブラッドが飛ばされたのは、大量の樹木が林立している森林エリアだった。

 ただエリアの中にいくつかくりぬかれたように何も生えていない空白地帯があり、そこには強力な魔物が鎮座している。


 全身の血がたぎって仕方がないブラッドは、敢えて空白地帯をしらみつぶしにしていく形で、己の感覚を研ぎ澄ませていた。


「バオオオオオオオオッッッ!」


 そこにいたのは、全身が十メートルを超える巨大な亀だった。

 見上げるほどの体躯に、土に同化するためか茶色い体色をしている。

 けれどその一番の特徴は、甲羅の先から生えている一本の巨木だった。


 よく見るとその木は中がうろになっており、その隙間から覗くのはハニカム構造。

 木の内部には巨大な蜂の巣ができあがっており、そこから次々と飛び出してくるのはサテライトビーと呼ばれているCランクの蜂型の魔物である。


「ちっ、しゃらくせぇ!」


 ブラッドは一度自分の拳をガチリと合わせると、そのまま左の拳を大きく下から突き上げる。

 上位ジョブ魔法拳士の固有スキルであるサイクロンアッパー。

 彼の一撃によって発生した竜巻が、襲いかかろうとしていたサテライトビー達を包み込む。

 内側に対して叩き込まれるかまいたちによって、サテライトビー達が傷ついていく。 

 けれどCランクにしてはもろいとはいえ、無論それだけでやられるほどサテライトビーはやわな魔物ではない。


 だがそんなことはブラッドとしても百も承知。

 彼は傷ついたサテライトビーの群れの中に突っ込んでいきながら、再びガチリと拳を合わせた。

 彼がストレートを放つと、そのまま拳の形をした炎が飛び出していく。

 同じく魔法拳士の固有スキルであるファイアナックルは、その圧倒的な羽ばたくサテライトビー達を瞬く間に焼き殺してみせる。


 サテライトビー達を潰していると、その後ろから巨大な亀――Bランク中位の魔物であるシンビオシストータスがやってくる。


 住処と餌を提供することで蜂に斥候と先鋒を任せ、隙を見て敵を一撃でなぎ倒す。

 シンビオシストータスの必殺の前足蹴りがブラッドへと放たれ――

 

「動かざること、山のごとし」


 けれどブラッドは、その破城槌のような一撃をしっかりと受け止めてみせる。

 不動の心得……始動キーを口にすることであらゆる攻撃を一度だけ防いでくれる防御スキルだ。


 必殺の一撃をしっかりと耐えてみせたブラッドは、そのままにやりと笑いながら前に出る。

 それを見たシンビオシストータスが何かを感じて後ろに下がろうとするが、全ては遅きに失していた。

 硬い甲羅を避け最も柔らかい部位に衝撃を伝えるため、足と甲羅の境目部分目がけて、ブラッドは必殺の一撃を放つ。


「フルカウンター!」


 己の食らった一撃を倍加して相手へと放つ拳豪固有スキル、フルカウンター。


 自身の力を利用された一撃を放たれたシンビオシストータスはそのまま身体の内側をぐちゃぐちゃにされ……二度と起き上がることはなかった。


 シンビオシストータスが倒れることで、大量のサテライトビーがブラッドの元へ殺到する。

 けれどブラッドはやってくる蜂達を、今度は己の拳だけで捌いてみせた。


 その目にも止まらぬほどの拳は、拳圧だけでサテライトビーを打ち落とすほどに強力だ。

 彼はいくつものジョブを持ちスキルを使いこなすこともできるが、そもそもの話、その肉体のスペックが圧倒的に高いのだ。


 数多くの難敵と戦い続けたことで彼のレベルは上昇を続けているため、既にそのレベルは60を超えている。


 一般人的な冒険者のレベルが10前後であることやレベルはどんどんと上がりにくくなっていくということを考えると、驚異的な数字と言える。


「ふぅ……」


 サテライトビーの殲滅を終えると、ブラッドはタオルでゆっくりと汗を拭い取った。

 汗まみれのタオルを『収納袋』に入れると、代わりにポーションとマナポーションを取り出し、一息に呷る。


 この森林エリアの空白地帯に出てくる魔物達は、それぞれ全てがBランク中位以上――本来人里の近くに出没すれば、上級貴族が総力を挙げて討伐に向かわなければならないような化け物ばかりだった。


 けれどブラッドは鈍っている己の戦闘勘を取り戻すため、敢えて魔物達と真っ向から戦っていた。

 幸いポーション類があるおかげで怪我を気にする必要はない。

 彼は強敵を打ち負かし己を高めながら、このエリアをゆっくりと進んでいた。


 彼は魔法と拳術を組み合わせたマジックアーツを使える魔法拳士であり、高度な拳術を使いこなす拳豪でもあった。

 他にもいくつものジョブを習得しそのジョブレベルを最大まで上げているため、その戦いのバリエーションは非常に多い。


 彼は一人で近接戦闘から魔法戦までを高い水準でこなすことができ、またジャイアントキリングに特化した技をいくつも持っている。

 本気で戦えば配下達が邪魔になるというのは、誇張でもなんでもないただの事実でしかなかった。


 故にブラッドは自身というものに対し、絶対の自信を持っている。

 そしてその自信は、この森林に出没するBランクの魔物達を相手にも己の力が通じることで更に強くなっていった。


 守護者の間のボスが強いといっても、エリアの魔物と比べて極端に強い魔物が出てくることはない。


 そんなこの世界でのダンジョンの常識があるからこそ、ブラッドはこのエリアのボスであるあの天使に自分の力が通用しないはずがないと思うようになっていた。


「俺は強い。だからあのボス相手でも……絶対に勝つ」


 自分の頬を張ると、ブラッドは自信と確信を胸に、ブラッドは守護者の間へと入る。

 するとそこには……本を読みながらゆっくりとくつろいでいるあの六枚羽の天使の姿があった。


「ふわぁ~……あ、ようやく来たんですか。遅すぎてマンガ読んで時間潰してましたよぉ。ガブちゃんはやっぱりぃ、ドロドロした恋愛ものが好きですねぇ」


 相変わらずこちらを舐め腐った態度だった。

 本を手に持ったまま、大きなクッションの上で横になって何かお菓子をつまんでいる。


 けれどそんな彼女を前にしても、ブラッドは一切の油断をしていなかった。

 Bランクの魔物達を相手に鍛え直したことで、彼の五感はかつてないほどに鋭くなっている。

 そしてその肉体や精神状態も、かつてないほどに仕上がっていた。


 問答無用と、ブラッドはいきなり複数のスキルを発動させながら天使へと殴りかかる。


 最初の一撃の威力を倍増させるファーストアタック。

 己と相手の強さの差を参照し、相手の方が強ければ強いほど威力を増加させるギャップフィスト。

 必ずクリティカル率を出し威力を倍増させる必的拳。


 他にもいくつものパッシブスキルが同時に発動している。

 今のブラッドが放ってきた初撃の中で、間違いなく最高の一撃だった。

 そんなブラッドの音速を超える一撃は吸い込まれるように天使へと飛んでいき……ぷにっと、頬の肉の弾力にはじき返された。


 マンガをパタリと閉じた天使――ガブリエルは、ゆっくりとブラッドの方を向く。

 彼女が浮かべていたのはあの悪意に満ちた嘲笑ではなく、きょとんとした表情だった。


 わけがわからず自分の拳とガブリエルを交互に見つめているブラッドを見ながら、彼女はこてんとあざとく首を傾げてみせた。


「あれ、もしかして……今ガブちゃんに、何かしましたかぁ?」

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