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5 早すぎる再会・2


 部屋の隅に控えていたルペが、少し失礼いたします、と断ってシュトルヒに耳打ちする。


「シュトルヒ様、メローレア様は聖女としてのお仕事もあられますから、早く本題に入ったほうがよろしいかと」


「僕はすでに本題に入ってるつもりだけど? そう、できれば彼女と切っても切れない関係を育むと共にだね──ああ、君は男女の心構えというものを全く分かってない」


 二人の話し声が小さくて聞こえないので、暇になったメローレアは宝石のように輝くマカロンをじっと見つめた。


 そう、さっき運ばれてきた時からずっと気になっていたのだ。何ならシュトルヒとの会話よりも、マカロンの方が。


 乙女の目の前に、これ以上なく素晴らしい甘いものを提供したのはシュトルヒ自身なのだから、許してほしい。

 自分だけではなく、全世界の乙女は、この美しいマカロンの魅力に抗えないに違いない。


 いただいてしまっても良いのだろうか。


(私のために用意してくださったのだもの。食べないのは失礼、よね?)


 神殿は清貧を是とするので、菓子というもの自体を見る機会があまり無い。

 ここにあるお菓子は、夢の中で体験した十数年を含めても、初めて目にする素晴らしさだ。


 ドキドキする胸をおさえながら、一つ摘んでみた。……とても美味しい。


(ララに持って帰ってあげたい。あとで頼んでみようかしら)


 しばらく菓子と紅茶に夢中になっていると、いつのまにか話が終わったのか、シュトルヒがこちらを見て苦笑していた。


「ああ、僕よりも甘味に気を取られるだなんて。そんなところも釣れなくて魅力的──ルペ、分かったから。メローレア、待たせてしまってすまない」


 シュトルヒが本題に入る様子を見せたので、マカロンを飲み込んで姿勢を正す。


「とても美味しいマカロンでした。ありがとうございます。それで、話というのは?」


「ああ、単刀直入に言おう。実は、君の能力で僕を助けてほしいんだ」





 その夢見の能力で。





 そんな風にシュトルヒの唇が動いたような気がした。


 気のせいなのかそうでないのか、眩暈と耳鳴りが酷くて、よく分からない。さあっとすごい勢いで全身から血の気が引いていくのを感じる。


「──私の、能力……」


 シュトルヒは一体何を知っているのか。夢見の能力のことを把握しているのだろうか。そうだとしたら。


()()、夢見の聖女として生きなければならない……?)


 夢見の聖女であるメローレアにとって、夢と現実は同質だ。見る夢の中を、いつだってメローレアは実際に生きていた。


 必死に生きて、生きて。

 そうして最後に辿り着いた朱い断頭台が脳裏に蘇り、全身がぶるぶると震え始める。


 国に尽くした日々。

 辛い修行。

 浴びせられた罵声。

 首を切られる感覚。


 それらが次々にフラッシュバックすれば、動悸が激しくなって、ぐらぐらと今にも倒れそうなほどの目眩を感じる。


 夢見の能力が明るみに出ることは、あの未来をもう一度生きること。


 少なくともメローレアはそう信じている。




「メローレア」




 はっきりとした声に視線を上げると、いつの間にかシュトルヒが目の前に来ていて、その手のひらでメローレアの手を強く包み込んだ。


(また、手を勝手に)


 開いた口からは浅い呼吸だけが漏れて、そんなどうでもいい文句すら発してくれない。


 ただ混乱した気持ちでシュトルヒを見つめれば、彼の紫の瞳は、これまでのどこか軽薄な様子から一転して、複雑な色合いでメローレアを捉えた。


 まるで内側にある何かを見透そうとするように。


(深くて透明な、底なしの沼のよう。今すぐに逃げ出したいのに、目を逸らせない……)


 メローレアはどうすることもできないままシュトルヒの言葉を待ったが、彼はなかなか口を開かない。


 やがて、握られたままになっていた手の力がふっと緩んだ。


「……ごめんね。君のことを勝手に調べたから、驚かせてしまったかな。

 つまりお願いというのは、君のその──占いの能力で、僕を助けてもらえないだろうか、ということなんだけど」


「え」


 メローレアはぱちくりと目を瞬いた。


「ええと、私の、……占いで?」


「そう。占いで」


 あっさりと言い切るシュトルヒからは、至高の存在である夢見の聖女を見出だした高揚も、喜びも、なにも感じられなかった。


 ただ純粋に、良く当たる占いができる娘を見つけた、とでもいうように。


 彼は、メローレアが神殿を訪れる人々に、占いと称してアドバイスを行なっているのを聞き知ったのかもしれない。


(そして実際に自分を助けた私の占いが"当たる"と思った?)


 夢見の力に気付かれたのではなかったのだ。メローレアはほっと全身の力を抜いた。


「僕の話を聞いてくれる?」


「……ええ。もちろんです」


 占いという建前で密かに誰かの力になる──それはメローレアが望んできたやり方だ。


ご興味いただける方はぜひ、完結済の過去作も覗いてみてください♪


ひたむき女神は人間界に舞い降りる 〜公爵様、流れで婚約しましたが甘やかすのはやめてください〜

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