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21 白くて丸い・3


「この子の名前を決めなければなりません」


 保護した鳥を旅の仲間に加えて三日経った夜。

 メローレアは肩の上を定位置にして落ち着いている鳥を示して、まるで神託のごとく厳かに告げた。


「一度付けてしまえば、魂と深くつながり合い、そうそう変えることができないもの……それが名前です。それだけ重要なものを、気軽に決めることはできません。ですからここは、ぜひ皆さんのご意見も伺って、慎重に検討したいのです」


 メローレアは、それは真剣に悩んでいた。飼うと決めた時から、三日三晩悩み続けた。


(けれど、一つのことを一人きりで長く考え込んでいると、だんだんと思考に柔軟性がなってくると、以前神殿の図書館にあった自己啓発本に書かれていたのを思い出したから)


 そのため、メローレアは三人の意見をもらうことに決めたのだった。


「さあ、案がありましたらどうぞ!」


 真剣さが伝わるように三人を見つめていると、話を振られた当の三人は、何やら戸惑った様子で顔を見合わせている。


「"団子"はどうかな? 最近食べたんだけどすっごい美味しくて」


「"毛玉"でいいんじゃないか? ストレートに」


「"ホコリ"でもよろしいかと」


 ルぺの案に至っては、ほぼ悪口の領域である。


「…………三人とも、私の話を聞いていましたか?」


「シャーッ!」


 あんまりだ。

 鳥に威嚇されるほどのネーミングセンスで対応してくる三人をキッと睨みつける。


「もっと真面目に考えてください! この子は一生、私たちが決めた名前を背負って生きていくのですよ!?」


「ピィ、ピヨッ!」


「ほらこの子だって嫌がっています!」


「ごめんごめん、冗談だよ」


 抗議するメローレアの剣幕に、シュトルヒが慌てて手を振った。


「俺は真剣だったのですが」


「あたしも真剣だったんだけど」


 メローレアが信じられない気持ちでララとルぺを凝視している横で、シュトルヒは顎に手を当てて言う。


「うーん、名付けか……。僕もあまり経験はないけど、一般的には、見た目から取ることが多いよね」


「その鳥の特徴といえば、白い・丸いとか?」


 ララの発言にメローレアは頷く。もちろん、その線でも検討はしていた。


「シロとかタマとかは考えたのです。けれど、あまりしっくり来なくて」


 すると、全員が揃って微妙な顔をした。


「それって真面目に検討した結果?」


「"団子"や"毛玉"や"ホコリ"と大差ないような」


「な……っ」


 しっくり来ないだけで、シロもタマも決して悪くはないと思っていたメローレアは、心にダメージを食らった。心外すぎる。


「で、ではどうすれば!」


「行動を共にしている間に、自然と相応しい名前を思いつくんじゃないか? 焦らず、もう少しじっくり考えてみる方がいいと思うよ」


「なるほど。それもそうですね……」


 シュトルヒのもっともすぎるアドバイスとともに、その日は解散となった。







***




 メローレアはその後も、部屋で寝支度を整えながら鳥を目で追っていた。もちろん名前を考えながら。


 体の大きさに対して、翼が小さいのだろうか。やや心許ない軌道を描いて、鳥はメローレアのベッドに着地し、シーツの上で埋もれるようにして落ち着いた。


 自分のベッドに寝そべっていたララが、それを眺めながらメローレアに向かって言う。


「その子ほんとにメローに懐いてるよねぇ」


「私が初めに拾ったからだと思います。人懐こい子だから、きっとそのうちララにも懐きますよ」


「そうかなぁ? 同じ部屋にいるのに、あたしの方には全然寄ってこないよ?」


 メローレアのベッドのシーツに埋もれる鳥の様子は、まるで毛糸の玉がひと玉、落ちているようだ。もしくは、昔一度だけ口にしたことのある東洋の食べ物か。


「毛糸、白玉……」


「ピイィ」


「やはり駄目ですか」


 鳥が発した鳴き声がなんとも嬉しくなさそうだったので、メローレアは今度の名前案も却下した。


「あはは。難しいね」


「……また明日考えることにします」


「うん。シュトルヒ殿下も言ってたじゃない? じっくり考えてって」


 鳥が、そろそろ寝る? と言わんばかりにベッドの淵をメローレアの方まで移動してくるので、メローレアはそれをを掬い上げて、胸に抱きかかえるようにしてベッドに入った。


 メローレアの、最近の習慣だ。


 両の手のひらにすっぽりと収まってしまう小さな命は、撫でると柔らかくて温かく、なんとも気持ちが安らぐ。


「ごめんなさい、なかなか名前を決めてあげられなくて。もう少しだけ待っていてくれる? きっと素敵な名前をプレゼントするから」


「ピッ」


「ふふ。ありがとう。ララも、鳥さんも、おやすみ」


 言葉が通じているかのように(さえず)る鳥を指でくすぐり、メローレアは眠りに落ちた。







 その夜、メローレアは久しぶりに夢を見た。

 それは暗殺者たちとの戦闘の最中、シュトルヒを庇って負傷する自分の姿だった。


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