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14 街歩き・3


「次はどちらへ向かいますか? どこへでもいつまででも、心を込めてご案内します!」


 案内にこれでもかと気合いを込めるメローレアは、なんと先ほどのパイの代金をシュトルヒに支払われてしまったのだった。


 どうやったのか分からないが、メローレアが全く気付かないうちに会計が終わっており、いくらお金を渡そうとしても「君は僕をパイひとつご馳走できない甲斐性なしにしたいのか?」などと言って、頑として受け取ってもらえなかった。


 だからこれはもう、あの最高のパイの代金分を最高の観光案内で返すしかないのだと、メローレアは腹を括ったのだった。


「そうだな、次は宝飾店に行きたい」


 そんなシュトルヒの注文に対して、高らかに宣言する。


「王都一と名高いお店にお連れしますね!」







 チリンと上品なベルの音とともに扉をくぐると、そこは別世界だった。


 店内には高級感のある赤い絨毯が敷き詰められており、一歩進むたびに柔らかい感触がする。

 真昼だというのに、豪華なシャンデリアには煌々と灯りがともされており、その光に照らし出されてキラキラと輝くのは、どれを取っても素晴らしく質の良さそうな大ぶりの宝石たち。

 それぞれのアクセサリーのデザインに合うように美しくカットされたそれらが、磨き込まれたショーケースの中で誇らしげに輝いている。


「個室は空いてるかい?」


 シュトルヒが店員に声をかけると、よく教育されているのだろう、完璧な営業スマイルとともに静々と店内の奥に案内された。


 通された部屋もまた豪華で……あまりにも豪華すぎるので、メローレアはソファに座ったままピタリと静止することにした。


(王都一の宝飾店を軽く考えすぎていた)


 激戦区である王都で一番ということは、すなわち、王家も利用するほどの一流店なのだ。


 飾り棚に置かれた調度品ひとつ取っても、万が一壊したら天上のパイ数百、あるいは数千個分の請求がされること間違い無い。想像するだけでも恐ろしくてメローレアはぶるりと震えた。


「メローレア、もしかして緊張してる?」


「はい。うっかりなにかを壊したらと思うと、下手に動けません」


「あはは、大丈夫だよ。万が一なにか壊したとしても」


 まさか自分が弁償するとでもいうのだろうか、とメローレアは先ほど支払われたパイを思い出しながら恐るおそるシュトルヒを見る。


 と、シュトルヒはしれっと微笑んだ。


「僕が上手く誤魔化してあげるから」


「嘘はいけません……」


 美しい笑顔で何ということを言うのか。

 どっと力が抜けた。同時に肩の力も抜けた気がする。


「ほら、緊張は解けた? 解けたなら宝石を見て。メローレアはどれがいいと思う?」


 数人の店員が、たくさんの指輪が乗ったトレイを持って部屋に入ってくる。


「誰かへのお土産ですか? それなら、その方の好みが分からないことには何とも言いづらいのですが」


「相手の好みは、残念ながら僕にもよく分からないんだ。だから君の感覚で選んでみてほしい」


「分かりました。でも、シュトルヒ様にもこのような品を贈りたい女性がいらっしゃるのですね。ハルトベルク帝国で待っておられるのでしょうか。それだと、たいそう心配されていることでしょうね」


「いや。実は、相手は近くにいるんだ。ちっとも僕の気持ちを察してくれないけど」


「近くに? エルヌム王国内ですか? まさか神殿……? ああ、私ったら、少しも気付きませんでした。長く一緒に行動していたのですから、紹介してくださっても良かったではありませんか」


 気付かぬうちに自分の他に親しくしている人がいたなんて、驚きだ。一日中メローレアと一緒にいたというのに一体いつ、誰と。


 神殿の中で一番シュトルヒと近しいのは自分だと思っていたのに──


(私、何を考えているの)


 指輪を眺めながら、どんどんと胸のあたりがモヤモヤとしてくるのを感じて、メローレアは頭を横に振る。


(パイを食べ過ぎて胃もたれしたのかしら。これほど重要なことをシュトルヒ様が相談してくださったのだから、真剣に選ばなければ……)


 集中しようと意識しながら、指輪たちに目を走らせる。


「あ」


 ひとつの指輪に目線が吸い寄せられた。


「これ、とても綺麗」


 ドロップ形にカットされた大粒のアメジストをメインに、繊細なダイヤが配置された指輪だ。


 アメジストの中に、ダイヤが反射した光までもが閉じ込められて、奥深い輝きを放っている。その複雑な美しさがシュトルヒの瞳に似ていると思った。


「メローレアはそれが気に入ったの?」


 ふと視線を上げると、シュトルヒが真剣な顔でこちらを見ている。


「? ええ、そうですね。これが一番素敵だと思います」


 するとシュトルヒは、丁寧な仕草でその指輪を摘み上げた。


「少し二人きりにしてくれ」


 彼が呟くように言うと、それを聞きつけた店員たちが、引くさざ波のように静かに退出していく。


 それから、指輪を持ったままシュトルヒが目の前に跪いたので、メローレアは不思議に思って首を傾げる。


 すると、シュトルヒは覗き込むようにメローレアを見つめて、そっと手を取った。


「この指輪は、君のものだ」


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