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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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18、屍操の王のアリア〜終曲

「キミ、珍しいねー。自分の島を売り飛ばすなんて」


暗がりの中で、島の防衛機構についてエリクと名乗った災竜にゲロっていく。

島主に仕える家だとして、しっかりした教育を受けていた事が、こんな事に役立つとは思わなかった。

どうせ死に知識だったし、それに関しては家族に感謝を送ろう。


「うるせぇ。黙って続きを聞け」


ともかく、俺は次に災竜に島を襲わせる事にした。ドサクサに紛れて妹様を殺せば、アイツらへのダメージにもなるだろう。



エリクと名乗った災竜は、何でもいいから人を襲いたいと言った。流石にちょっとたじろいだが、自分でも驚くほど冷静に取引を出来た。

一緒に、目障りな人間を減らそうと、表面上では意気投合した。


(バケモノめ…)


薄皮一枚の向こうで、全く信用していなかったが。



そしてエリクへの薄っぺらい信頼は、決行の日に崩れ去った。

最初は、フェキシフトにそこそこの被害を与えるだけだった。けれど、興奮したエリクは島の殆どの人を殺してしまった。


「アゴル!見てみて、これ自信作なんだー!」


人間をわざわざ形を残して殺し、何処からか持って来た岩山にくくりつけて行く。

そうして出来た人間の塔を、エリクは一人で見て満足していた。


「カイも、すっごく絶望してくれたし!いやー、やっぱ島を襲うなら滅ぼすまでしないとね!」


吐いた。

嫌いだとしても、確かに生まれ育った世界だった。

大量の死体に、吐かない訳なかった。大量の死体に、感覚が麻痺していった。


「は、はは…」


しかもエリクは、わざとカイルスだけを生かした。一人残す方が、良い顔が見れるからだという。

カイルスが島を去ったのを見計らって、エリクは人間で出来た塔を人間の部分だけ壊した。


「もう要らないよね、これ」


「——は。はははは、ははははははははははははーっ!」


血と肉と焦げた匂いに包まれて、いつの間にか笑い出していた。理由の無い恐怖と耐えられぬ歓喜に、ただ体を揺らしていた。


「はははははははははははは、ははははははははははははははははははははははははっっっ…………あ、ぁ………はは、はははははははははははははははは、ははははははははははははーーーーっ!」


「何やってんの。気色悪いよ…」


困惑するエリクを無視して、腹の底から湧き上がる様々な感情を混ぜて、ただ笑うことしかできなかった。

その時、大量の屍の中で笑った自分の中で、どす黒い何かが沸々と湧き出した。後にそれが、『屍操の加護』だと言うことを知る。



二年後、カイルスがしっかりまだ生きていてくれたことを知った。次は、ハーマレーでも襲おうと考えていた時だった。


「あそこにはギルギさんが居るから、先ずは彼と話を付けて来てよ」


鎮魂祭の日、エリクの言った通りにギルギと会おうとしたが、そこで島主殺人の事件が起き、会えなかった。

そしてなんだかんだ、ギルギという人は殺されてしまった。


「お前の食いつきそうな知らせを持って来たんだ。…アイツが、聖女一行の中にいた」 


それでも情報は持って帰って来れた。

避難所で避難民に紛れて、確かに見た。カイルスが、聖女と共にいるのを。

それを言うと、エリクは居ても立っても居られなくなり、まるで子供のようにはしゃぎ出した。


「僕としちゃあ、どっちでも良いんだけど」


なんて、真っ赤な嘘を言っていたが。



そして、カイルスが島に来るのを見計らって、『加護』を発動させた。全ては、今度こそアイツを殺すため。

絶望の中で、カイルスを殺して。

殺して、そして。

そして……。


「なん、だっけ…」


何を、望んでいたんだっけ。


———


「なん、だっけ…」


アゴルが、呆然と何かを呟きながら、再び青白い右手を上げる。土から、屍人たちが溢れ出す。


「——っ!」


その、中に。

見慣れた二人の影があった。


「ゾルガ…レナ……」


ちょっと天然だけど気のいい友達と、最後まで腕の中に居た、ただ一人の妹。

彼らの顔は、泣いているように見えた。

未練があるのだろう。無いはずがない。けれど彼らはもう死んでしまった。

だから。


「さよなら、ゾルガ、レナ。……みんなの分は、僕が生きるよ」


さよならの、別れの言葉とともに、一息に斬り伏せた。

過去は無くならない。だからこそ、受け入れて、その先を進むしかない。


「これで…っ!」


確信と共に、目の前に群がる屍人を、全て一閃で斬る。

アゴルが再び右手を上げるが、屍人はもう、生まれてこない。

彼が用意した屍人、百余りを、全て斬り伏せたのだ。


「あ、ああ…」


呆然と立ち尽くすアゴルにのしかかり、その首元に剣を立てる。


「な、なんなんだよ…何なんだよお前はぁ!ああああああああああーーー!」


剣先を認めたアゴルは、子供のように喚いた。

軍力の誇るフェキシフトで、島主に仕えるべく育てられたのだ。武人的な考えも、彼の中に少しはあると思ったのだが。


「嫌だいやだ!お前になんか…島主になんか、殺されたくない!」


体を固められて動けず、それでも僕への拒絶を叫ぶアゴルを。かつて、自分の全てを滅ぼした元凶を見つめる。

そして、小さく息をついた。


「…いや、殺さない」


「…は」


「ペミー、お願い」


掛け声と共に、アゴルから離れる。それと同時に、上空から丸い影が落ちてくる。


イヤウオ・ゲール(縦断突き)!」


「…ぐふぅっ!?」


短い声と共に落ちて来たペミーの耳拳が、アゴルの腹に命中する。

低い音。アゴルの腹がぐわんと湾曲し、衝撃が地面に割れ目を作る。


「ぐっ……」


「…俺は、お前は殺さない」


白目をむいて、気を失ったアゴルに宣言する。もう、聞こえてはいないだろうが。


「俺が…やり返す相手は、最初から決めているから」



——屍操の王の独奏曲(アリア)は、こうしてその幕を引いたのだった。

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