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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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17、屍操の王のアリア

———

「『屍操の加護』、トンデモ無いもんじゃ無いですか!そんなの、誰も止められないんじゃ…」


「いや、『加護』の相性によれば、封殺する事も可能だ。…例えばそうだな、『剣の加護』あたりか」


「…それは一体、どんな『加護』で?」


「有り体に言えば、あらゆる物を断ち切る力が、剣に宿る物だ。その剣を振るえば、体だろうと感覚だろうと斬れる。…もちろん、記憶もな」


「ちょ、ちょっと待って下さい!『屍操の加護』は、記憶を使って屍人を無限に呼び出しているんですよね!?しゃあ、その剣で斬られたら…」


「ああ。屍人は二度と甦らないだろうな。…言ってしまえば『剣の加護』は、『屍操の加護』に対して()()になるのだ」

———


次々と襲いかかって来る屍人を、剣の赴くままに斬り伏せる。

普通こんなに剣を振るうと、腕が疲れて来てしまうのだが、不思議と疲れは感じなかった。頭も体も、興奮しているからかもしれない。


「は…?なんだよ…それ…っ!」


アゴルから、焦りを感じる言葉が漏れる。

その理由は単純。僕が斬った屍人が、二度と復活しないからだ。

それだけなら、まだいい。どちらにしろ、屍人は大量にあるのだから、僕が疲れるまで投入し続ければいい。

けれど、生憎今の僕は疲れ知らずだ。


「…ふっ!」


ガルアとモモの屍人を、剣を振って二つにする。斬られた二人は、灰のようにボロボロと崩れ去った。


「…っこの!」


アゴルが右腕を上げる。新たな屍人が土から生まれてくる。その中に、今度は両親の屍人を見つける。


「…っ!」


心と体が、少し躊躇した。けれど、剣は少しも躊躇せず動き、両親の屍人を斬り伏せた。

崩れゆく、家族だったモノの体。その顔が、笑っているように見えた。


「おやすみ…ガルア、モモ、父さん、母さん……」


その笑顔に、背中を押されて。自分を受け入れて、今ここに立っている。

そう思うだけで、胸の炎がさらに強くなる。

それが悲しくも嬉しくて、剣を構え直しながら無意識に微笑んでいた。

それを余裕と取ったのか、アゴルの顔が酷く歪んだ。


「なんだよ…なんなんだよ、お前っ…!」


狼狽するアゴル。屍操の王は、先程までの威勢など何処にもなく、ただ子供のように喚いていた。

口から雪崩のように発する言葉は、最早意味を為していない。

ただその脳裏には、歪み曲がった記憶だけが、繰り返し再生されていた。


———


生まれて初めて空岸まで足を運んだ時、とても感動した。だって上にも前にも下にも、どこまでも空が広がっていたから。

世界はこんなにも広い。宙に身体を投げ出してみれば、どんなに気持ちいいことか。

だから毎日空岸の際まで歩いて、そこで空を眺めていた。


その時の自分は、まだ知らなかった。普通の人は、空岸に近寄る事自体を怖がるのだと言うことも。

飛び降りたいと考える自分が、異常だということも。



小さな頃から、自分の家は島主に仕える使命があるのだと、言い聞かせられていた。

兄はそれを何も考えずに受け入れていたが、自分にはそれが出来なかった。

だって、世界はこんなにも広いじゃないか。

なのに何故島一つに拘るのだろう。家一つに拘るのだろう。


その時の自分は、まだ知らなかった。世界には面倒なしがらみが多すぎることを。

広いだけで、そこに自由は無いのだということも。



自分が出来の悪い子供であることぐらい、分かっていた。けれど許せなかったのは、それを兄と比べられたことだ。

兄のゾルガは、とっても優秀だった。


「ゾルガは完璧にできるのに、どうしてアゴルはできないのかしら?私の教育が悪かったの?」


「おまえは悪くないさ。アゴルにやる気がないだけだ」


そんなことを言っていた両親は、やがて自分のことを無視し始めた。

優秀な兄がそれに気付いていたかどうか、今はもう分からない。けれど兄だけは、自分を無視しなかった。


それが、嫌だった。

なんで自分に構うんだ。関わりたくもないのに。

口を開けばいつも、仕える島主の称賛ばかり。島の外の事なんて、考えてすらいない。

自分はただ、あの空へ飛び出したいだけなのに。


狭く、閉じた世界に苛立ちが募った。

なんで自分はこんなにも不自由なんだ。誰が自分を不自由にしているんだ。

優秀な兄に聞くと、答えはあっさり返って来た。


「僕らが島から出るには、島主様の許可がいるだろう?なんだ、島出したいのか?」


島主か。

島主が、自分を不自由にしているんだ。

俺は、自分を離さない奴らが嫌いだ。それが自分が仕える相手だなんて、吐き気を催す。

自分はただ、あの空へ飛び出したいだけなのに。


「……」


島主に子が産まれた。カイルスと名付けられた。

産まれた子は、親に大事にされながら民衆の目に晒された。


それを見て思った。アイツらは温室育ちだ。

アイツらは、俺が何を頑張ってもうまくできない裏で、全部を与えられている。

アイツらもまた、何も出来ない俺を、見てすらもいない。


「島主……」


呟いた声に、歪んだ憎しみが滲んでいた。



兄との溝が深くなり、家出を決意した。

許可なしで出れば、アイツらも何か行動を起こすかもしれない。

そんな予想は、それを超えて現れた。次代島主が、直接話に来たのだ。


憎しみをぶつける、又とない機会だ。

カイルスとは面識すら無いが、ストレス発散にはいい。



血が上りすぎて、次代島主に手を出してしまった。お陰で家を追い出された。

なんだ、とスッキリした。最初からこうすれば良かった。


「さて…んで、どうしようか」


特に理由もなく、昔よく来ていた空岸へ足を向けた。

空は今も変わりなく、何処までも続いている。それへの感想は特に無い。


「次、は……」


アイツらを。島主を。

苦しめるには、次はどうしたらいいか。


妹に手を出すか。名前はレナ、だったか。奪って、その純情でも()()()()()やろうか。

流石にまずいか。


「もっと他に…」


そう言いながら、空岸沿いに座り込む。

そしてなんとなく下を見て。


「………は?」


「あちゃー、見つかっちゃった!人間って、空岸には近づかないと思ったのに!」


大地に張り付いて、今まさに島を襲おうとしていた、緑色の災竜に出会ったのだ。

同時に、次どうするかが、決まった。

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