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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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16、もうひとつの覚醒

僕は、これまでに無いほど焦っていた。

エリクと名乗った彼が言った言葉から、もう一人彼に協力する犯人がいることがわかった。そしてその時には、犯人はカイに襲いかかっていた。

遠くにいたため、何を話していたかは分からない。けれど、カイが劣勢になったのは分かった。


「…っ!」


助けに行きたいが、目の前の災竜が気掛かりだ。災竜に対抗できるのは災竜(じぶん)だけなのだから。

しかも、その災竜本人はと言うと。


「あーいいよ、僕のことなんか気にせず。お仲間を助けてあげたら?」


なんて言ってお座りする羽目だ。ありがとうじゃあちょっと待ってて、なんて言えるはずない。

だから僕はエリクを睨んで牽制しながら、皆の方を片目に見ることしか出来なかった。


「薄情だね、君」


なんて言ってくるが、気にしない。

彼の性分はなんとなく分かった。まともに相手してはいけないタイプだ。

しかし僕の迷いは、カイの剣によって大量の屍人と共に斬り伏せられた。


「なっ…」


「ヒュー!あれって『祝福』…と言うより『加護』じゃない!?うわー!さすがカイ、持ってるねぇー!」


目を見開いて驚く僕の横で、エリクが喉を鳴らす。

エリクは何故か、カイへの距離が近い。自分がかつてした事が分かっていないかのような、場違いな距離感だ。

愛称であるカイ、で彼を呼ぶのもそうだ。


「いや、聖女一行だし、どっちかって言うと依怙贔屓かな。どう思う…えーと、白い同族さん?」


「……エルギオだ。お前、何でそんなにカイに…」


話したくもないが、話すのを試みる。

対話をはじめから諦めるのは、選択肢にはない。何故なら自分がそうやって、メルリに救われたのだから。

災竜である自分にも、彼女は手を差し伸べてくれた。だから相手が何をしてようと、まずは手を差し伸べたい。


「んー?決まってんじゃんそんなの。僕、カイのことが好きなんだ」


「……は?」


差し伸ばした手に、エリクはハイタッチして来た。

意味が分からない。彼は二年前に、カイの全て(この島)を滅ぼしたのではないのか。

その彼が、カイのことが好きだと。


「まあカイだけじゃないけどね。聖女ちゃんも好きだし、空読みも好きだし…ああいや!もちろん全てが好きって訳じゃないよ!同族はキライ。だって僕を殺すかもしれないもん」


恥ずかしそうにしながら、エリクは早口で話し出す。

分からない、分からない。コイツの所業と、言葉が繋がらない。


「僕が好きなのは、人間と動物と…あと虫かな。共通して言えるのは、みんなちっちゃくて弱っちくて、可愛いくて()()()()()()ところだよね!」


言葉の、意味が、理解できない。

理解、したくない。

早口のうちに、エリクはどんどん興奮していく。最早、僕のことなど見えていないようだ。


「大好きな人間を見るとね、僕は止まらなくなっちゃうんだ!ちっちゃな体をさくっと押さえつけて、なるべくゆっくり優しく、ブチっと潰したくなっちゃうんだ!」


君も好きでしょ、そう言うの!とエリクは笑いかけて来る。

それに返す言葉など見当たらない。

僕は、会ったことのない人間狂いに、吐き気を催した。


「…おまえ…そんな理由で、この島を……」


「そりゃそうだけど……なに?君も僕をそんな目で見るの?…そうだよね。分かってるよ、自分が変なんだって」


どこまでも不快な視線を、エリクは肯定する。彼は殺すのが好きなのだ。

まるで、善悪の区別のない赤ん坊のように、小さいものを殺すことに、快感を覚えているのだ。

そして、その自分の快楽のためだけに、フェキシフトを、カイの全てを滅ぼした。


「でもしょうがないじゃん。かわいい人間が悪いんだから。君も、そう思ったことぐらいは、あるよね?」


「もういいよ…それ以上話さないで」


違いすぎる価値観。離れすぎている考え方に、僕は会話を打ちとめた。

対話を試みようとしたのが、愚策だった。彼の考え方を自分は肯定できないし、メルリ達にとって危険だ。

それに。


「…確かに、僕もそう思ったことはある」


ハーマレー島で、ギルギの殺人を調べていた時。自分は何の抵抗もなく、人の殺すことが容易だと考えた。

けれど自分はその考えを振り払った。人間(メルリ)と歩むと、決めたから。


「…けれど、僕はみんなが好きだから、それは選ばなかった」


もし。

もしあの時の考えを曲げず、仲間でさえ喰らう災竜になっていたら。

その行き着く先が、目の前のエリクなのだろうと、場違いに思った。


「…だから、お前には賛同できない」


「…分かった。じゃあ、改めて始めよっか」


そう言うと、エリクは低く体勢を取る。

僕も首を振って、頭と体を戦闘体勢に持って行った。


(こいつを…野放しにしてはダメだ…)


不意にそう思った。

僕らの、この『竜の奇跡』。こんな強大な力が、どうして僕らに与えられたのか。

眠っている間に見た過去の記憶では、例えば大量の物資を運んだり、人々の移動手段だったり。

少なくとも、殺すための力ではなかった。


(その為にも…)


こんな力の使い方をされるのは、かつての同族にとって許せないことだろう。

それに、理性を失ってしまっている災竜や、レイナ、アドルオさんの苦悩を嘲笑ってもいる。

何より、あったかもしれない自分だから。


「お前は…ここで倒す…っ!」


そう叫ぶ。エリクはそれに対して、小さくニヤついただけだった。


そしてその瞬間、胸の奥がドクンと跳ねた。白い、白い炎のような何かが胸から身体中を駆け巡る。

途端に、体力が倍増したような感覚が僕を襲った。


「っ!?これは…」


「ん、なに?どうしたの」


エリクは無視して、自身の体に起こった異変に、一度意識を向ける。

この感覚には覚えがある。

ハーマレー島でギルギを倒した時と、ケイオール島でアルガイアを倒した時だ。

そして、アドルオさんの手記の内容から考えて。


(『王の本領』…)


今まで発動条件の分からなかった、自分の能力。それが突如発動したのだ。

何故、今なのか。


(もしかして…)


飛びついて来たエリクを躱しながら、これまでのことを思い出す。この力が発動したのは、どんなタイミングだったのか。


ギルギの時は、腹を貫く大怪我を負っていた。

アルガイアの時は、アドルオを殺した彼に対して、酷く感情が昂っていた。

そして今も、分かり合えないと悟ったエリクに対して、倒さねばと言う感情が強い。


(大怪我か、感情の昂りが条件…?)


他に例がない。だから、そう仮定するしかない。

けれどだとすると、かなり限定的な条件だ。満たすことがまず難しい。


「うわっ!なんか君、さっきより速くなってない!?」


思考を止めて、『王の本領』の効果で軽くなった体を、素早く動かす。力は既に身体中に行き渡り、頭をぐつぐつと煮やしていた。


「……っ!」


ケイオール島の時もそうだった。

この力が発動すると、身体中が熱くなって、しっかりしないと理性を失いそうになるのだ。

長くは保たない。短期決着だ。


「まさか、それが君の能力?…うわー、なんて単純!単純と言えば、僕もそうだけど!」


エリクの戯言を無視して、僕は熱を帯びる身体を、目の前の敵へと躍らせた。

緑の鱗で覆われた顔が、残酷に笑った。

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