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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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14、屍操の王と緑の災竜 2

周りの屍人に警戒を配りながら、アゴルと名乗った男を見据える。

今、この男が言った言葉。二年前と同じく。それが意味するのはつまり。


「…あなたが、二年前にフェキシフトを…」


「ああ、滅ぼした」


私の敵意のこもった声に、アゴルはへらへらと応える。


「な、なんで…お前が…っ!」


狼狽えたカイが叫ぶ。状況から見て、アゴルはカイの知人のようだ。


「あ?それはさっき言ったろ?カイ。お前を今殺して、今度こそフェキシフトを滅ぼすってな」


悪びれもせずに、アゴルは言う。その声色は巫山戯ているが、瞳には隠しようのない憎悪が浮かんでいた。


「俺はフェキシフトが嫌いだ。お前が嫌いだ。二年前はエリクのせいで殺り損なったが、今度は逃がさねぇ」


どうしようもない憎悪に負けそうになるが、必死に堪える。震えるカイに代わって、ペミーが最前に出る。

アゴルは酔ったように言葉を続けた。


「でもなぁ、ただ殺すだけじゃあ面白くねぇし、鬱憤も晴れねぇ。だから」


「島民を屍人にしたのか」


ダックさんが割り込んだ。一瞬アゴルの顔が苛立ちに歪むが、すぐに気を取り直したのかダックさんの言葉を肯定する。


「ああそうさ。俺の体に宿る、死んだ人間を操れるこの『屍操の加護』でな」


驚きにダックさんの方を向く。状況からして屍人は災竜の能力だと思っていたのだが。

目でそれを問うと、彼は一息ついて説明した。


「単体で島を滅ぼせる災竜が出てくるのなら、屍人は要らないだろう。なのに屍人が居るということは、屍人が別の能力によるものだと考えた方が自然だ」


ああそうかと納得する。

大量の屍人で島を覆わなくても、災竜一体で島は滅ぶのだ。

そこから考えて、屍人の能力の持ち主は、自分でそう名乗った彼しか居なくなる。


「でも一体…何のために…」


ようやく震えから脱したカイが、剣を何とか持ちながら聞いた。


「そりゃあ、お前を追い詰めるためだよ。…自分の島の民を斬って、苦しかったか?」


カイの肩が強張る。

手を乗せようと伸ばした腕が、彼が唇を噛んだことで止まった。


「…大丈夫だ、メルリ。確かに苦しいけど耐えられるし、お前に殺される気もない」


震えを何とか抑えて、カイはアゴルへ言い放つ。

しかし、アゴルはそれを受けて笑った。


「けっ、強がりやがって。…けどな、ならこんなのはどうだ?」


そう言いながら彼が指を鳴らした途端、地面から新たな屍人が溢れ出て来た。

その数は十、二十と途轍もないスピードで増えていく。


そしてそれを見据えていたカイの顔が、酷く凍りついた。


———


「屍人関係の加護って知ってますか?」


誰もいない空船の一室で、私、サンデ・サンドイッチは手に持った遠話機に話しかけた。

遠話機は『遠話の祝福』が宿った、小さな石のことだ。昔はツウシンキみたいな名前だったらしい。

今、私の遠話相手は、私をさっき怒った上司だ。


『何だね突然…そうだな、あるとするなら「屍操の加護」辺りか?で、それがどうした?』


石の向こうから困惑した声が響く。


「いやまあ、色々ありまして…それで、その加護って、どんな力なんですか?死んだ人間を蘇らせて操る、とか?」


『概要はそれで合ってるが、私の記憶によれば少し違う』


上司()()()から先生()()()に変わった相手が、私の考察を部分的に否定する。

屍操っていう名前なのに、私の考察とは違うのか。

何がどう違うのか聞くと、上司は少し悩んだ後に言った。


『何というか…正確には、死んだ人間ではなく、その記憶を蘇らせているんだ』


「…記憶、を?えっと、どういう事ですか?」


石の向こうでため息の後に咳払いが響く。上司が咳払いをするのは、長話をする時だ。どうやら一から説明してくれるらしい。

そして覚悟していたことだが、やはり長くなった。


『人が死んだ時に残った記憶から、屍人を形作らせているんだ。(しかばね)が、人が死という現象を経てその結果に残すモノなら、死んだ時の記憶も、ある意味屍と言えるからな。「屍操の加護」は、文字通りそれを操って…』


「…はぁ?」


ごめん。よく、分からない。

あなたは一体なにを言ってるんだ。

結論を急かすと、上司は心底呆れた声を上げて、つまりだなと続ける。


『もし君の考察通りなら、『屍操の加護』は有限のものだろう?』


それはそうだね。

死体がないと使えないし、それがやられたらそれでお終いだし。

待って。

上司はそれが違うと言った、ということは。


「無限に、屍人を生み出せる…?」


『そうだ。いつでもどこでも。たとえ、()()()()()()()()()()()、な』


———


「う、そ……だろ…?」


凍りついたカイの唇から、震える声が漏れる。

彼の視線の先には、屍人が二人いた。

片方は、カイと同じぐらいの男の子。もう片方はカイより少し小さい女の子。

その背格好と、カイの狼狽で私は何となく、察してしまう。


「さあ、斬ってみろよ。次代島主さんよ」


アゴルの歪んだ声の後に、カイが小さな声で答え合わせをした。


「…ガルア、レナ……」


言い終わる前に、既に五十を超えた屍人の大群が襲いかかって来た。

私とダックさんを守るために、ペミーの耳拳が屍人たちを屠っていく。けれど、それにも限界がある。


「カイっ!」


完全に動けなくなってしまったカイに、屍人たちが襲いかかる。

私もダックさんも動けない。ペミーもカイまでは守れない。


「…っムー!」


「カイルス、動くんだ!そ奴らは生前の本人ではない!」


ペミーが苦しそうな声を上げ、ダックさんが叫ぶ。

屍人の壁でカイの姿が見えなくなっていく。その向こうでカイが、ガルアと呼んだ屍人に押し倒されたのが見えた。


「はははははっ!さあ!恥辱に塗れて、かつての友に殺されるがいい!」


「カイーーっ!」


アゴルの嘲笑と私の叫び。

その最中、屍人が振り上げた剣が倒れたカイに振り下ろされた。



———



気づくと、僕は家の前に立っていた。

世界最大の軍事力を誇る、フェキシフト島の島主館、その玄関に。


(ここは…)


周りを見渡す。

家も、裏の山も、見える景色も、全てが崩壊する前のものだ。


(……)


覚えている最後の光景。それは、屍人となったガルアが、剣を振り上げている景色。

あれが、自分に向かって振り下ろされのだとしたら。


(つまりここは…死後の、世界…?)


そんなものがあるかどうかは、知らない。でも何となく、それは違うと思った。

けれどもしも、ここが死後の世界だとしたら。


(みんな…ごめん…)


生き延びると、誓ったのに。

生き延びてやり返すと、決めたのに。

…動けなくて、それら全てを無駄にしてしまった。


その場に座り込む。誰にも顔向けできなくて、膝を抱えてうずくまる。

あの時のように。ハーマレー島で、未熟だった自分がカイとメルリを傷つけてしまった時のように。

自分は、俺はあの時から、結局何も変わっていなかったのか。

それならいっそこのまま、永遠に閉じこもっていたかった。

けれど、聞こえて来た声が、それを許さなかった。


「——カイ。カイルス・フェキシフト」


「……ぁ…」


その声には、どうにも聞き覚えがあった。薄れかけているけど、決して忘れられない。

顔を上げる。


「……」


薄れかけているけど、決して忘れられない顔が、そこにあった。

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