表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
93/167

12、最悪の再会

長い、長い昔話に入り込んだようだった。

ようやくカイが話を終え、口を閉じる。

空船の一室に重い沈黙が降りる。


「……」


なんて、彼に言ったらいいかわからない。カイの語った彼の過去は、フェキシフトの滅亡は、予想以上に悲惨だった。

悲惨という言葉では、例えられぬほどに。


「…なんと、まあ…」


サンデさんが言葉を濁す。彼女でさえ、言葉を見つけられないのだ。


(あの時…)


ハーマレー島で彼が語った災竜への恨みを、今なら分かる気がする。

ただの災いなら、心の底に復讐の炎を押し込めることが出来ただろう。けれど、フェキシフト島を滅ぼしたのは、ただの災いでは無かった。


「…嫌だな、その災竜(どうぞく)…」


殺した人々をわざわざ岩山に張りつけ、それを見たカイ達の反応を見て笑った。明らかに、理性のある同族だ。

理性があるのに、そのような残虐が事をした。それが僕にとって不快だった。


「だろ?…旅をして、災竜にもいろんな奴が居るって知っても…いや、知ったからこそ、アイツが許せねぇんだ」


カイが、なるべく激情を抑え込んで言う。様々なドラメル族の事情を知ったからこそ、かの災竜の異常さが浮き彫りになった。

それは、彼が復讐に先走るのも分かる気がする。


「……まだあんまり受け止めきれてないですけど…とりあえず、屍人が何なのかは分かりませんでしたね」


空気を変えるように、サンデさんが口を開く。

今自分たちは、フェキシフト島跡に湧いた、元島民の屍人をどうするか考えているのだ。


「それは…あの災竜の力なのかもと思っていたけど…」


災竜たちが持っている超常の『奇跡』。例の災竜の力が屍人を生んでいるのかと、確かに僕も思った。


「俺も自分で話していて気付いた。奴の力は、屍人じゃねぇ」


何故ならフェキシフト崩壊時、屍人などと言う存在はなかったから。

むしろ、島主館を吹き飛ばしたあの衝撃波こそが…。


「じゃああの屍人って…一体何なんです?」


サンデさんの疑問に、僕もカイも言葉を返せない。

行き詰まってしまった。


「こんな時は…」


「とにかく動いてみる、だね?」


カイと僕は顔を見合わせる。

メルリの信条の一つ。ハーマレー島の時と同じだ。

膠着した状態は、こちらが何かしら動けば一緒なって動き出すはず。


「とにかく屍人の情報が、何も無いよね」


「屍人を調べるには…島に戻るしかねぇか」


頭を突き合わせる僕とカイに、サンデさんが呆気にとられる。

そして、いつもの調子を取り戻して言った。


「何と言うか…ポジティブですね!さすが聖女様の仲間だ!」


空船は再び、フェキシフト島跡に停泊した。

渡し板を使って、僕とカイが船を降りる。

サンデさんが、他の客に大まかに事情を説明した。その結果、数人の客から見送られる事になった。


「頑張ってください、聖女様のお仲間の方!」

「気をつけてください!」


メルリの肩にのしかかる重み、その一部を感じた気がして口をつぐむが、それに応えたのはカイだった。


「任せてください。あの動く屍は、僕…私たちが何とかします。メル…聖女ももう直ぐ来ると思いますし、安心して下さい」


堂々と、ハッキリとした口調だった。さすが、次代島主の教育を施されてきたことはある。

カイの言葉を励まされた人々に見送られ、僕たちは再び島の地を踏む。


「…そもそも、だ」


空船が遠くなり出した頃、カイが口を開いた。


「あの屍人、()()()()()出やがったのか、って話だ」


「今までは居なかったんだよね、あの屍人は?」


フェキシフト島跡への観光は、月に何度も行われるほどメジャーなものだ。なら、僕らより前に観光に来た人が居るはずだ。

彼らが屍人に会わなかったわけがない。少なくとも、何かしらの噂ぐらいは立つはずだ。

それがないと言うことは。


「…屍人は、今になって初めて、姿を現した」


カイが自然と声を潜めて言った。

それに続くように、僕は推測を重ねる。


「…今だから、なのかも。僕らがこの島に来たから」


「っ!それは…」


僕の言葉に、カイが息を呑む。それはつまり、屍人を生み出した相手は、僕らを害するつもりだと言うこと。

そして。その言葉を肯定するかのように、地面が震えた。


「…これはっ!」


山のように積み上げられた、島主館の残骸。その陰から、巨大な影がぬるりと姿を現した。

曇りのない、緑色の鱗。

この島を滅ぼした、災いが。


———


「おや、この音は…?」


近づいてくる中高音の駆動音。それが空船の物だと瞬時に察して、私は窓に飛びついた。

…私物と思わしき空船が近づいて来ている。


「…ははーん。あれがさっきカイルスくんが言ってた、聖女ちゃんの船だね。専用の船までもらっちゃって…」


ハーマレーの島主は、よほど聖女に肩入れしているらしい。

さてさて、一体全体どんなもんだろうか。


私の胸を膨らませていた期待を、隣に船をつけやって来た聖女ちゃんは、ある意味裏切った。


「どんな傑物が来るかと思ったら…ただの女の子じゃないですか!いやあ何と言うか…シュミが悪いですね!」


「…あの……?」


おっと困惑させてしまった。興奮に任せて捲し立てるのは悪い癖だね、反省。


「こんにちは聖女さん。私、今回のフェキシフト観光のガイドのサンデと言います!お見知り置きを」


そう言って手を伸ばす。聖女ちゃんも、おずおずと自己紹介と共に出した手を握った。

そして、それから他の仲間さんたちの紹介。

保護者的立ち位置の男の人に、メムリット族。

あと、彼らの空船長。


(……へぇ。()()()()()、アリなんだ)


紹介された空船長を見て、心の底でそう思う。まさか()()がいるとは。当人は私には気付いていないようだけれど。

出かかった感慨を飲み込んで、私は聖女ちゃんに現状を説明した。

二人のこと、屍人のこと、彼の過去については本人から聞いて欲しかったので、割愛した。


「ありがとうございます。じゃあ私たちも上陸する、で良いよね?ダックさん」


「ああ。エルギオがいるとは言え、カイルスだけでは少し心配だ」


「ペム!」


メルリと名乗った聖女は、小気味良く行動方針を決めていく。

ちょっと焦っているようにも見えるが、これぐらいの判断の速さがあるなら、将来は有望そうだ。


(そんな子に、聖女なんて役目を背負わすなんて…)


心の底で愚痴る。運命も環境も、そしてあの人が言っていた神様ってやつも、随分と意地が悪いことをする。

まあそれが神様ってもんだろうけど。


「サンデさんは、空船を島から離しておいてください。屍人…の数も分かりませんし、念の為」


「あ、はい。まあ、元からそのつもりでしたし…っうわっ!?」


メルリちゃんの言葉に思考を切って答える。

それが終わらない内に、島の方で轟音が響いた。

何よりも先に動いたのは、メルリちゃんだった。それに続いて全員が島の方を見る。


「…あ……」


メルリちゃんの声が漏れる。

島の、ここからでも見えるほどの空岸側に、巨大な緑の災いが腕を振り上げていた。


「ねえ、あれって…!?」

「さ、い…!?」


近くの観光客から呆然と恐怖の声が上がる。あ、まずい。このままだと混乱が起きる。どうにかして止めないとなぁ。

しかし、その前にその場にいた全員に別の衝撃が襲った。


腕を振り上げた緑の災竜。それが振り下ろした腕を、突如現れた別の白い腕が掴んだ。

そして、その主。白い二体目の災竜が瓦礫の山から現れる。


「エルっ…!」


メルリちゃんが、悲鳴をこぼす。それに意識を向ける間もなく、客に広まっていた困惑と恐怖が、さらに加速する。


「…っ!サンデさんは早く空船を離してください!」


「分かりました!お客さん達を宥めてからなるべく早くに!聖女さんはあっちを、お願いしますね!」


メルリちゃんの悲鳴にも似た叫びに返して、足速にその場を去る。災竜は聖女の対応域だから、私が踏み込む意味はない。

それでも。


(エル、ねぇ…)


彼女がこぼした悲鳴を思い出す。

彼女らの仲間の中で、そんな並びの名前は一人しかいない。


(なるほどねぇ…)


聖女の微妙な事情を察すると共に、空船長である同郷の彼の心境を思う。

そして、自分には珍しくため息をついた。


(()()()、災竜との縁は切り離せないもんですねぇ…)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ