幕間、オブザーバー「ズ」
全てを失った少年は、その翌朝島を訪れた空船に潜り込んで故郷の島を離れた。
フェキシフト島の滅亡は、その空船に乗っていた人々によって世界に知らされた。
その時少年が、何を思って密航したのかは分からない。
けれど、彼が流れ着いた先がネイケシア島で、そこで後に聖女とされる少女と出会ったのは事実だ。
「いつ聞いても、胸糞悪いわね…」
自身の過去について話す少年を鏡越しに見ながら、私は小さく呟いた。
薄暗い空間の中、鏡が発する光だけが私を照らしている。
その後ろの方、鏡の光が届かない暗がりから声が聞こえた。
「なに?なんか見てたの?」
「あら、戻って来てたの。お帰りなさい」
振り返らずに、聞こえて来た声に応える。
声の主はいつも、自身が帰って来たことを真っ先に報告するのだが。そんな彼が思わず声を上げるほど、私の口調が重かったらしい。
「元気ないけど、どうかしたの?」
「疲れてるんだよ。…誰かさんが奈落まで行かせるもんだから」
声色がこちらを責めているのが、見なくともわかる。彼が愚痴愚痴言うのはいつもの事なので、それは無視して。
「奈落まで行ったって事は…残り物を、全部集めて来てくれたのね」
「うん。今さっき瓶から取り出してもらって、保管して来たよ」
「ありがとう」
彼の報告に、素直に感謝を述べる。別に良いよと謙遜されたが、紛れもない気持ちだ。
この島を動けない自分にとって、彼の存在は必須のものなのだから。
「…それで?なにを見てたの?」
前脚を揃えて座り込んだ彼が、再び同じことを聞いた。
「…フェキシフトの悲劇、よ」
「…ああ。アイツがやらかした、あの…」
彼は納得したように言葉を濁した後、私が唇を噛んでいるのに気付いてため息をついた。
「あんなの、世界のどこでもあり得ることじゃないか。一々御心を痛めてどうすんのさ」
「あんなのって何よ。島一つ滅んでるのよ?」
ムッとして答える。
事実、あの少年は後に、災竜への恨みを募らせた。友人の励ましと、生き残ってやり返すという目的もあるのだろう。
「それはそうだけど…でもフェキシフトに関しちゃ、運がなかったとしか言えないよ。まさか、あんな奴に目をつけられるなんて」
「…それなんだけど、もしかしたら少し違うかも知れないのよ」
暗がりに座った大きな気配が、身じろぎする。
「…どういうこと?」
「はっきり降りた訳じゃないけど…」
そう言って、私は振り返る。
暗がりで鏡を反射し光る、大きな青い双眸に向けて、秘めていた考えを口にした。
「フェキシフトが滅亡したのは、偶然じゃないのかも…」
今回で毎日更新は終わりです。
次回から週二更新に戻ります。




